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第三章-⑵ デルタとソニア

暗闇と引っ掻き傷と大浴場と

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 ドアを開けた瞬間、俺は顔の右半分を何か鋭いもので引っ掻かれたようだ。
 ズキズキとした痛みを感じる。
 けど、冷静に考える暇なんてなく、何者かによって俺は容赦なく攻撃される。
 真っ暗で何も見えないから、目の前の相手が誰かもわからない。


「誰!? ていうか、こんな時間に何しに来たの!? とにかく! どこのどいつか知らないけど、大人しく出て行かないと後悔させてやるから!!!!」
「待って……!? 何……どう!? うわああああああああああ!!」
「逃げるな!! 大人しくしろおおお!!」
「待って、本当に頼むから!! 話そう!? 話し合おってばあああ!!!!」


 とにかく、このままでは目を潰されると思って、俺は手探りで逃げ惑う。
 何かをなぎ倒しているけど、そんなことを気にしてる暇はない!
 どういう状況なんだよ、これは!?
 俺の言葉が聞こえているのか、または聞く気がないのか。
 とにかく、今なぜか興奮状態の相手はとても話が通じる感じではなかった。
 そんな風に俺が絶体絶命だとパニックになっていた時、目の前の男湯が突然にパアッと明るくなったのだ。


「今度は何なんだ……光が……!!」
「何なの、これ……!? 兄貴! 逃げて! あたしも後で行くから!」


 あまりの予期せぬ眩しさに、俺は目を手で覆う。
 すると、俺の後ろからは戸惑うような口調でそんな叫びが聞こえた。
 その光の出現と同時に、俺達は一旦逃げて追いかけての攻防を中断する。
 え、待てよ? 今の声どこかで……
 

「三分と持たなかったわね? まあ、予想通りだけど」


 すると、また聞き覚えのある声が聞こえて恐る恐る目を覆っていた手を外し、その人物を確かめる。
 溢れる眩しい光の中から俺の目の前に現れたのは、やっぱりゾーイだ。


「ゾーイ!? 何してるのって、昴!?」
「え……?」


 名前を呼ばれ思わず振り向くと、そこにいた人物に俺は自分の目を疑った。

 
「そ、ソニア!?!?」


 そう、そこにはソニアが目を見開いて驚いた様子で立っていたのだ。
 けど、ソニアはゾーイと俺の顔を交互に何度も繰り返し見ると、一瞬でその顔は真っ青に染まってしまった。
 声の正体はソニアだったのだ。
 ああ、やっぱり、俺の記憶力は正しかったようだ。


「おお、おお、昴? ソニアから、大分派手にやられてんね?」
「え……何がって……イッタ!?」


 そう言いながら近付いてきたゾーイはニヤニヤしながら、俺の顔に触る。
 けど、触られた瞬間に顔中に激痛が走ったのだ。
 思わぬ刺激に、俺は心の準備ができておらず、思わず叫ぶ。


「顔中が引っ掻き傷だらけだよ? ソニアの爪、いつも猫族みたいに長いなって思ってたけど、こういう時のためか」
「そ、そんなんじゃ……!! ああ、昴、大丈夫? 本当にごめんね……!!」
「いや、その前に俺はこの状況がまるで理解できないんだけど……」


 こんな時でもゾーイはゾーイで、俺は本当に感心してしまう。
 一方で、ソニアは俺の顔中にあるのであろう引っ掻かき傷を見ながら、すごく申し訳なさそうにしている。
 頭の処理が追い付かないんだけど……
 何で真夜中の、それも男湯の脱衣場にソニアがいるんだ?


「まあ、昴はよくやってくれたよ。本当に助かった。おかげで、すんなり侵入成功できたしね?」
「ゾーイ? 初めて会った時から、本当に何度も言ってるけど、説明を……」
「あ、てか、そろそろ上がったら? 湯冷めするわよ? そもそも、睡眠不足はお肌に悪いんじゃなくて?」
「うん、聞いてないよねって……湯冷めって誰が……」


 ゾーイは言いたいことだけ言って、視線を俺から大浴場に移す。
 その方向に……誰かに話しかけているようで、まだ誰かいるのかと俺が大浴場に目を向けると……
 そこには、驚きすぎて声も出ない様子の裸のデルタがいた。
 けど、そこには常日頃から十分なほど見せびらかしている豊満な胸はなく……









 代わりに、鍛え上げられた肉体がそこにはあったのだった。
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