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第二章 未知の世界への移住

闇の仮説と事実と謎と

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 第三次世界大戦は――
 人類が自分達で切り開いてきた文明やその先の未来を、自分達で一瞬で奪い去ったのだ。
 世界中が炎で包まれ、海までもを赤く染めたという。
 そのまま世界総人口の減少が、戦争の規模を物語っている。
 それにより、生き残った人類には何があろうと人命を優先するというような思想が根付いたのだと言われている。
 また、空島で再スタートをしてからの人類の歴史は、本当に壮絶だったのだと伝えられている。
 その甲斐あってか、現在の空島全体の総人口は約三十五億人だと、この前発表されていた記憶がある。
 けど、今どうしてそんなこと……


「それじゃ、荻凛太郎おぎりんたろうって知ってる?」


 するとまた突然、ゾーイは話の流れを完全に無視したことを言い出す。


「え? オギ……リンタロウ……?」
「誰ですか、それは?」


 聞き覚えのない人物の名前に、何かの偉人かと思ったが、アーデルで学年成績ツートップのクレアとモーリスの反応を見る限り、それも違うようだ。


「まあ、知らなくて当然よ。何を隠そう荻凛太郎は、シエロを発明して空島を作った張本人なの」


 どうやら、ゾーイは最初から俺達がその人物を知っていることを期待してなかったようだ。
 というか、待て、え? 何だって?


「そんなの聞いたことねえぞ!」
「当たり前よ、あくまでこれはあたしの仮説だしね」
「はあ!? お前の妄想かよ!?」
「妄想じゃないよ」
「意味がわからねえ! 全部、お前の仮説なんだろ!?」
「そうよ? けど、あたしはこの仮説に自信があるの」


 ゾーイは力強く一切の迷いなく、そう俺達に宣言した。


「ついでに言っとくけど、空島の共通言語が日本語の理由はこれよ」
「は、これって……」
「荻凛太郎は日本人なの。教科書には新世界では国境って概念をなくして、空島一丸となるために言語を一つにしたって書いてあるわよね? けど、実際には、空島の創始者である荻凛太郎の言葉を理解するために、空島に移住した人類に日本語の使用を強制したのよ」


 文句と指摘をしてきた望も次々とゾーイの口から語られる話の内容に、さすがにキャパオーバーのようだ。
 ダメだ、理解が追いつかないぞ。
 あくまで、これらの話はゾーイの仮説にすぎないはずなんだけど……
 何だか妙な説得力があって、俺達は混乱するばかりだった。


「わかった。一旦、お前の仮説を事実と仮定をして話を進める」
「そりゃどうも? アランくん」
「……シエロを発明したのは、極秘に当時の世界中から集めた精鋭七人だかの科学者グループじゃなかったのか」
「表の歴史ではね? けど、実際は荻凛太郎がたった一人で作り上げた、空島は彼の作品なのよ」


 理解しようと必死な俺達を代表し、意外だけどアランがゾーイと話を進めてくれていた。


「何でそいつは、その科学者グループに名前が載ってないんだ」
「……人類の方針に逆らったのよ」
「逆らった?」
「荻凛太郎は、人類以外の全ての生物を見捨てる人類存続条約に反対した。それによって、新世界の反乱分子だと見なされて歴史の表舞台から消されたの」
「消されただと……?」
「そうよ? まあ、今話したこともあくまであたしの仮説だけど」


 ゾーイは淡々と詰まることもなく、話を進める。
 まるで、それが真実だと疑わないで。
 そんな時だった、ゾーイがある人物に話しかけたのは。
 

「ねえ、シャノン?」
「え……?」
「あれ、名前間違ってた?」
「……いいえ」
「そう、よかった! シャノンはこの仮説について、どう思う?」
「なぜ、私に聞くの?」
「聞いちゃダメな理由でもある?」


 この間、ずっと無言を貫いていたローレンさんに話しかけたのだ。
 その光景を見ると、俺はナサニエルを出発する時のゾーイの言葉が蘇った。


――「あの子のこと好きじゃないわ」


 どうして、あえてこのタイミングでゾーイは話しかけたのか。
 俺の中に妙な緊張が走っていた。


「……申し訳ないけれど、私に歴史のことはよくわからないわ」
「そっか! オッケー!」


 会話はそこで終わったが、俺が二人の様子を伺った時の一瞬だったけど……
 ローレンさんが、ゾーイのことを睨む鋭い視線が頭から離れなかった。


「あ、そうだ! 話が脱線しすぎて、名乗ってなかったよね? あたしは、ゾーイ・エマーソン! よろしく! ゾーイって呼んで?」


 俺達がこれまでの経緯を全てレオ達に話すと、快く助けが来るまで共にここで生きようと言ってくれた。









 俺達の終わりの見えない地上生活が幕を開けたのだ――
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