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第二章 未知の世界への移住

マジックショーって呼べるかな

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「ゾーイ! 早く! 早くこっちに! 手当てしないと……!!」
「とにかく、ここに座って! まずは傷口を洗ってから、清潔な布で……!!」


 拘束を解かれた俺達は、速やかに処刑台から下ろされた。
 そして、作りは建築科のサトル曰く、木材と石造りの両方だというレオの家に通される。
 平気だと頑なに曲げないゾーイを黙らせた真由は、ゾーイを支えながら一番に家の中に入る。
 続いて、ゾーイに座れと叫ぶのはアメリカンショートヘアの子だ。


「おーい! あたし、本当に……」
「ゾーイ、騒ぐな! そんな風に大声を出したら傷に響くだろう!」
「そうだよ! あんまりというか、手を絶対に動かさないで!」


 立ち上がって呼びかけるゾーイを怒鳴り、再び座らせたのはハロルドとジェームズだ。
 あまりの二人の剣幕に、さすがにゾーイは苦笑いで、再び大人しく座る。


「けどけど、あの出血量だと、かなり深く切ったんじゃないの!?」
「えっ!? それじゃあ、縫わないとってことなのかよ!?」
「誰がやるのよ!? あ、そうだよ! 医療科が三人もいるじゃん!」


 デルタとシンが真っ青な顔で家の中を端から端に行き来している時に、涙目のソニアがこの場にいない真由以外の医療科の二人に期待の視線を送る。


「待ってよ!? そんなの無理! 絶対に無理だから! 縫合は三年にならないと授業でやらないし!」
「第一に、道具が何もありません」


 無理だと、これでもかと身振りと首を振ることで表現する橘さんと淡々とそう告げるローレンさん。


「甘えたことを言ってる場合か。道具は代用すればいいだろ」
「お、おい! 言い争っている暇なんてあるのか!?」
「うるせえ!! 関係ねえ奴は黙ってろ! 全部こっちの問題だ!」
「あ? そんな言い方ねえだろ! 良かれと思って言ってんだぞ!」
「ま、まあまあ、落ち着いてよ」


 アランの責める口調にたまらずレオが間に入ると、そこに望が元も子もないことを言い出して噛み付いた。
 すると、今度はその望にドーベルマンの犬人間が言い返す。


「待てって! 今は喧嘩なんかしてる場合じゃないだろ? まずは……」
「そうだ、少しは状況を考えろよ!!」


 俺が言葉を続けようとしたら、思わぬ人物に遮られることになった。
 サトルが、こんなに怒るなんて……


「きちんとしないと、最悪の場合は切断とかになるんだよ! まず、もっとゾーイは後先を考えて……」
「あのさ? 話を聞けっての、簡単に自分の手を切るわけないでしょ?」


 しかし、興奮気味のサトルの言葉を遮ったのは話題の中心のゾーイだった。


「え? 切るわけないって……」
「言葉の通りよ。ほら!」


 そう言って、ゾーイは左の手の平を俺達に見せた。
 切り裂いた跡なんてどこもなくて、無傷で綺麗な左の手の平を。


「は? あれ? ど、どういう……」


 その時の俺は、スムーズに言葉を紡ぐことができなかった。
 それはみんなも同じだったようで、口を開いたり閉じたり、呆然とゾーイのことを見つめたり……


「種はこれね?」


 そう言って取り出したのは、赤黒い液体がパンパンに入った小袋。
 待てよ、この赤黒い液体って……


「あ、あの、ゾーイ……? まさかとは思うんだけど、これって……」
「お察しの通り! これは輸血袋を小分けにしたミニサイズの輸血袋よ?」
「あ、そっか……うん、これを小分けにしたのは誰なの?」
「あたしよ? 小分けにした方が何かと使い易いし、持ち運びも簡単だし」
「ど、どこに……隠してたの?」
「パーカーのポケット。どんだけ外見が子どもでも、怪しいと思ったら身体検査はしっかりやった方がいいよ?」


 俺のたどたどしい質問にも、淡々と答えていくゾーイ。
 最終的には、レオ達に自分のことを最大に棚に上げたアドバイスをしている。
 まあ、これで全部が繋がったな。
 ゾーイはミニサイズの輸血袋を左手に忍ばせておいて、持っていたナイフでその輸血袋をわからないように切った。
 それで、強烈なインパクトをあの場の全員に与えたってわけか……


「信じられないわ……あの一瞬で、どうしてそんなこと思い付くの……!?」
「理解したくもありませんが、本当に呆れた人ですね」


 頭を抑えて誰に問いかけるわけでもなく呟くクレアと、久しぶりに絶対零度の目で見つめながらため息を深くつくモーリス。


「医務室から、一つもらっといたの」
「あー、そうなの……ねえ、何のために使う予定だったの?」
「え? それはわからないけど、実際に役に立ったでしょ?」


 心配して損したとは、まさにこういうことを言うのだろう……
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