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第一章 物語は落下して始まった
外出に勇気が必要になるなんて
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「少し救助は遅れてるだけよ。さすがに一か月も経ったし、そろそろ……」
「それにルートから外れたら通知されるはずだし、ましてやそれがナサニエルだとなれば黙っていないと思けど……」
ゾーイの言葉にデルタとサトルが恐る恐るといった感じで答える。
空島には必ず一つずつにアンテナが立っていて、中心島は常に全ての空島の位置を把握している。
そして、空島には、それぞれ空島発足時からの決められたルートがある。
そのルートがあるから、空島は決して衝突することがない。
空島はシエロを切り離しても約三時間は空に浮いていられるが、ルートはシエロにインプットされている。
つまり、シエロを失った空島はルートをたどることはできないのだ。
「確かにそうね? 今頃、空島中の話題は消えた名門エリート学校で持ち切りだろうし、行方不明の生徒全員の顔写真が公開されて、今のあたし達は誰もが振り向く有名人でしょうよ」
「それなら……」
「けどね、何か忘れていない? ナサニエルは落ちたのよ。つまり、ルートから外れて三時間以上さまよっていたの」
「う、うん」
「ついでに言うと、空島が落ちるなんて何人の人間が考えると思う? きっと、今頃は空全域を捜索しているんだろうけど、まさかあたし達が地上にいるなんて夢にも思っていないでしょうよ」
俺達は目の前の状況を、本当に軽く考えていたのだと嫌でも気付かされた。
本当に視野が狭かったのだと……
人類が空に逃げて、何百年も地上には下り立っていないこの時代に、地上に着陸をするなんてことが異常なのだ。
「今の状況で救助なんて、極端に言うと明日に来るかもしれないし、十年経っても来ないかもしれない。そうなったら、あんたらはどうする?」
「どうするって……」
「これが自分達の運命だって、大人しく受け入れて死んでいくわけ? まあ、それがいいって言うなら止めないけど。文字通り骨は埋めてあげるから」
全てのゾーイの言葉の説得力に、俺達は頷くしかなかった。
俺達は長い間、この地上で生活することを真剣に考えなきゃいけない。
非常物資が底をついたら餓死か外で調達するかの選択になり、どっちみち外には出なければいけないんだ。
それなら、少しでも体力も気力もある今のうちに外には出て、山ほど確かめなければいけないことがある。
俺達は、生きるために外に出るんだ。
***
「寝言は寝て言って!!!!」
「ま、真由、落ち着けって……」
今、俺とサトルは真由、橘さん、ローレンさんを俺達の部屋に呼び出して、俺達が外に出ることを伝えた。
予想通り、真由は怒り心頭だった。
あの後のコックピットでの話し合いをした結果、外に出る代表者はゾーイ、サトル、アラン、ハロルド、望。
そして、俺を入れた六人に決まった。
ナサニエルが着陸してからは、俺、サトル、真由、橘さん、ローレンさんの五人で行動することが多かった。
油断すると生活がズボラになっていく俺達を、三人はいつも支えてくれた。
特に真由は、口うるさいけど、家事がとにかく上手いから本当に助かる。
橘さんも、その場に彼女がいるだけで明るくなる気がするし。
けど、ローレンさんのことはいまだにどんな人間なのか定まっていなかった。
少し話したところ、何かと神の御加護をとか、神の教えに従って行動しようとして、よくわからないことが多い。
集団生活も得意ではないようだし……
とにかく、今は、普段から何かとお世話になっている三人に出発することを伝えたところ、この有様というわけだ。
「何で、外に出て行くの……しかも、望まで……あんた達は揃いも揃って何を考えてんのよ!」
「湖中、落ち着いて……」
「あんたもあんたよ、雨野! 全員バカばっかりよ!」
「そうよ、サトル! どうして……他の人に任せればいいじゃん……!!」
「菜々美……」
「絶対に許さないからね!?」
「そんなこと言ったって、このままだと本当に生きるか死ぬかの瀬戸際で……」
サトルがどうにかして落ち着かせようとしたけど、今の真由にはサトルの言葉と存在すらも地雷だったようだ。
そして、橘さんはサトルがいなくなることが不安でたまらないようで、泣き出してしまった。
「二人とも、外に出ることはもう決定事項なのですか?」
「え? あ、一応……」
「……神は、まだ人間が悔い改めるまで地上への侵入を許さないと思います」
「へ?」
「何があるかわかりません。湖中さんと橘さんの気持ちもわかってください、今回はやめた方がいいと思います」
すると、ローレンさんが静かに言葉を発した。
凛としたその声はどこか美しいというより、不気味に俺の耳に届く。
神が許さないって……何なんだよ。
「そいつら、自分から行くって言ったのよ」
「それにルートから外れたら通知されるはずだし、ましてやそれがナサニエルだとなれば黙っていないと思けど……」
ゾーイの言葉にデルタとサトルが恐る恐るといった感じで答える。
空島には必ず一つずつにアンテナが立っていて、中心島は常に全ての空島の位置を把握している。
そして、空島には、それぞれ空島発足時からの決められたルートがある。
そのルートがあるから、空島は決して衝突することがない。
空島はシエロを切り離しても約三時間は空に浮いていられるが、ルートはシエロにインプットされている。
つまり、シエロを失った空島はルートをたどることはできないのだ。
「確かにそうね? 今頃、空島中の話題は消えた名門エリート学校で持ち切りだろうし、行方不明の生徒全員の顔写真が公開されて、今のあたし達は誰もが振り向く有名人でしょうよ」
「それなら……」
「けどね、何か忘れていない? ナサニエルは落ちたのよ。つまり、ルートから外れて三時間以上さまよっていたの」
「う、うん」
「ついでに言うと、空島が落ちるなんて何人の人間が考えると思う? きっと、今頃は空全域を捜索しているんだろうけど、まさかあたし達が地上にいるなんて夢にも思っていないでしょうよ」
俺達は目の前の状況を、本当に軽く考えていたのだと嫌でも気付かされた。
本当に視野が狭かったのだと……
人類が空に逃げて、何百年も地上には下り立っていないこの時代に、地上に着陸をするなんてことが異常なのだ。
「今の状況で救助なんて、極端に言うと明日に来るかもしれないし、十年経っても来ないかもしれない。そうなったら、あんたらはどうする?」
「どうするって……」
「これが自分達の運命だって、大人しく受け入れて死んでいくわけ? まあ、それがいいって言うなら止めないけど。文字通り骨は埋めてあげるから」
全てのゾーイの言葉の説得力に、俺達は頷くしかなかった。
俺達は長い間、この地上で生活することを真剣に考えなきゃいけない。
非常物資が底をついたら餓死か外で調達するかの選択になり、どっちみち外には出なければいけないんだ。
それなら、少しでも体力も気力もある今のうちに外には出て、山ほど確かめなければいけないことがある。
俺達は、生きるために外に出るんだ。
***
「寝言は寝て言って!!!!」
「ま、真由、落ち着けって……」
今、俺とサトルは真由、橘さん、ローレンさんを俺達の部屋に呼び出して、俺達が外に出ることを伝えた。
予想通り、真由は怒り心頭だった。
あの後のコックピットでの話し合いをした結果、外に出る代表者はゾーイ、サトル、アラン、ハロルド、望。
そして、俺を入れた六人に決まった。
ナサニエルが着陸してからは、俺、サトル、真由、橘さん、ローレンさんの五人で行動することが多かった。
油断すると生活がズボラになっていく俺達を、三人はいつも支えてくれた。
特に真由は、口うるさいけど、家事がとにかく上手いから本当に助かる。
橘さんも、その場に彼女がいるだけで明るくなる気がするし。
けど、ローレンさんのことはいまだにどんな人間なのか定まっていなかった。
少し話したところ、何かと神の御加護をとか、神の教えに従って行動しようとして、よくわからないことが多い。
集団生活も得意ではないようだし……
とにかく、今は、普段から何かとお世話になっている三人に出発することを伝えたところ、この有様というわけだ。
「何で、外に出て行くの……しかも、望まで……あんた達は揃いも揃って何を考えてんのよ!」
「湖中、落ち着いて……」
「あんたもあんたよ、雨野! 全員バカばっかりよ!」
「そうよ、サトル! どうして……他の人に任せればいいじゃん……!!」
「菜々美……」
「絶対に許さないからね!?」
「そんなこと言ったって、このままだと本当に生きるか死ぬかの瀬戸際で……」
サトルがどうにかして落ち着かせようとしたけど、今の真由にはサトルの言葉と存在すらも地雷だったようだ。
そして、橘さんはサトルがいなくなることが不安でたまらないようで、泣き出してしまった。
「二人とも、外に出ることはもう決定事項なのですか?」
「え? あ、一応……」
「……神は、まだ人間が悔い改めるまで地上への侵入を許さないと思います」
「へ?」
「何があるかわかりません。湖中さんと橘さんの気持ちもわかってください、今回はやめた方がいいと思います」
すると、ローレンさんが静かに言葉を発した。
凛としたその声はどこか美しいというより、不気味に俺の耳に届く。
神が許さないって……何なんだよ。
「そいつら、自分から行くって言ったのよ」
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