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第一章 物語は落下して始まった

個性派揃いのエリート集団

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 後ろからサトルと他一名のその会話が聞こえて振り返ると、さっきゾーイに投げ飛ばされた人もアーデルの制服を着てるではないか。
 アーデルとは、空島の操船免許が取得できるクラスであり、ナサニエルの学科の中でダントツで入学試験が難関。
 当然のごとくカリキュラムも複雑。
 白と青を基調とした腰まである長いブレザーに黒いスラックスにワイシャツに青いネクタイという制服も貸与されるなど、特別待遇を受けている。
 まさにエリートな彼らのことを俺達はまとめてアーデルと呼んでいる。


「何? サトルの知り合い?」
「ええ……アーデルだよ? ゾーイも知ってるだろ?」
「アーデルって……あー! あの、噂のエリートコースね!」
「そうだ! 君はそのアーデルの班長であるこの私を投げ飛ばしたんだ!」
「それはすまんかったね~」
「謝る気ないな⁉︎」
「だって、そっちがものすごい勢いで突っ込んで来たんじゃん? 身を守るために投げ飛ばすぐらいするでしょ~」
「最初から臨戦態勢だったろうが‼︎」
「望くんはお黙りよ」
「何なんだ、君は⁉︎ 私はアーデルの班長で、あの名門早乙女家の第二十六代目のハロルド・早乙女なんだぞ‼︎」
「ごめん、まったくピンと来ないわ」
「なぜなんだ⁉︎」


 ハロルド・早乙女だと名乗った人物は太い眉毛が目立つ主張の強い顔で、背は高くないがガッシリしており、何だか気迫というか、全ての圧がすごい。
 未だにゾーイに一生懸命に身振り手振りで噛み付いているが、ハロルド・早乙女はまるで相手にされてなかった。
 なぜか、望までそこに参加して、それをサトルが必死に宥めている。


「ごめんね? こっちが勝手に早とちりをしたばっかりに……」
「いやいや、迎え撃つ気満々って感じだったからお互い様だよ?」
「フフッ、そっか……私はクレア・サンチェスです、よろしくね?」


 出された手を握り返して、俺は握手を交わしながら、自分と三人の分の自己紹介も代わりに済ませる。
 クレア・サンチェス、彼女は俺達の代は誰でも知ってるほどの有名人だ。
 栗色のストレートの髪をポニーテールにしてピンクのリボンをしており、緑の瞳と心地良い声が印象的な少女。
 俺達の代の入試成績トップの彼女は代表として入学式で挨拶をしていた。
 おまけに、エリート集団のアーデルの中でも首席という実力の優等生で、誰でも分け隔てなく接する優しい性格とあの容姿で才色兼備で高嶺の花だと、俺の周りにもファンは多かった。
 まさか、アーデルとこんなに間近で会話するなんてな……


「澤木くんは……」
「同じ代なんだし、気軽に昴でいいよ」
「ありがとう……それなら、私のこともクレアって呼んで?」
「じゃあ、遠慮なく」
「改めて聞くけど、どうして昴くん達はこんな所に?」
「それがよくわかってないんだ……ゾーイについて来ただけなんだけど」
「自己紹介は終わった?」
「え⁉︎」
「おわっ⁉︎ ゾーイ⁉︎」


 何の前触れもなく、ゾーイは俺とクレアの横に立っていた。
 向こうで言い争ってたんじゃ……と思ってそっちに視線をズラしてみると、なぜだかハロルド・早乙女と望が取っ組み合いの喧嘩をしていた。
 そして、俺は心の中でサトルに土下座をするしかできなかった。
 許してくれサトル、俺には無理だ。


「あれは放っといていいのか?」
「あんなのに付き合ってたら話が前に進まないもの! ねえ、あなたってアーデルよね? 中に入ってもいい?」
「あ、それは……‼︎」
「まあ、ダメって言われたって入るんだけどね? お邪魔するね~」
「あ、おい! ゾーイ⁉︎」


 話を聞く気なんて、最初からゾーイにはなかったんじゃないか?
 ゾーイは真っ青になって引き止めるクレアを無視したばかりか、さらにドアの前からこちらの様子を見ていた人集りを手で追い払うと、さっさとコックピットの中に入って行く。
 俺も慌ててそのあとを追った。
 コックピットはちょっとした階段教室のような作りになっていて、液晶画面と椅子が十席ほど。
 目の前には巨大なスクリーン、その正面には約二十人ほどの人集りが何かを囲むようにできていた。
 ぐるりとコックピットを見渡してる間にも、ゾーイとクレアは下りて行く。


「あなた、待って! 見ない方が……」
「クレアだっけ? そう呼ぶから、あたしのことはゾーイでいいよ」
「ゾーイ‼︎ クレアの話を……‼︎」
「昴も、早く来なよ~! ちょっとした覚悟はいるかもだけどさ」


 本当に話を聞かない子だな、出会って数十分でゾーイへの第一印象との差が俺の中ですごいことになっている。
 ゾーイに手招きされる人集りの方へ俺も下りて行く。
 そして、人をかき分けてゾーイの隣に立つと同時に俺は言葉を失って、そのまま膝から崩れ落ちた。





 男が血を流して倒れていたからだ――
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