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第三章 戦争なんて真っ平御免だ

どうやら怒らせたようだ

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「何度言えば通じるわけ⁉︎ 戦争なんてくだらないからやめて!」
「お前は本当に……本当にしつこいな⁉︎ それじゃあ、何か? お前は、この俺様に無駄な抵抗はせず大人しく死ねというのか⁉︎ ああ、お前は元々俺様に死んでほしいんだったか?」
「今は嫌味を言い争ってる暇はないの! そもそも、何が無駄な抵抗よ? こんなことは言いたくないけど、奇跡でも起きない限りは絶対にあんたが勝つじゃないの! しかも、多大な犠牲を残して……‼︎」
「ほう……? 今日はやけに物分りがいいな?」
「結果が出てるでしょ⁉︎ あんたに人類が立ち向かう度にそのことを思い知らされては、あたしはあんたの息の根を止めてやりたくてしょうがなかったわ! 今だってね? パトリック様とグレース様にかけられた呪いのことがなかったら、とっくにその首へし折ってる頃よ!」
「お前はとことん恐ろしい女だな……とにかく、何度話しても結果は同じだ。俺様はその国を完膚なきまでに叩きのめして、新たな支配下に加える」


 このやり取りをするのは、これで何度目になるのだろうか……今日も飽きずに、あたしとクソボケ大魔王は同じことで言い争っていた。
 その内容は、戦争をやめろーー何て物騒な内容なのか、笑っている暇も余裕もないほど、最近のあたしの神経はすり減っていた。
 近々人類側とモンスター達の間で大規模な戦争が起こると、若干やつれた顔のアニキに告げられたのは何日前のことだっただろうか?
 その時のあたしの気持ちは絶望、敗北感、焦燥、恐怖……他にもたくさんの感情が一気にあたしの中へと侵食してきたが、それでも一番はこのクソボケ大魔王への怒りが大きかった。
 アニキから聞かされた話では、ある一つの国がモンスター達への反旗を翻して立ち上がり、クソボケ大魔王を滅ぼすためこの魔王城への行進を続けており、もう間もなく到着し何度目かの人類対モンスターの全面戦争に突入するだろうとのことだった。
 話を聞かされてすぐにあたしはクソボケ大魔王に詰め寄ったのだが、その時のこいつは顔色一つ変えることなく、ああそうだなと吐き捨てた……知っていたのだ、こいつは知っていたのにあたしに黙っていたのだ。
 今だって、何も映そうとしないその紅色の瞳であたしのことを冷たく見下すばかり……どうしたら、そんなに冷たい目ができるのだろうか。


「ねえ、教えてよ? 戦争を続けることに何の意味があるの? あたし達人類をこれ以上苦しめてあんたに何が残るのよ? 次から次へと人を殺すよりよっぽどタチが悪くて残酷だわ! もう十分でしょう⁉︎」


 殺すより残酷なことなんてほとんどないだろうと思っていたが、あたしのその考えはこのクソボケ大魔王に出会ったことで悪い方向に変わった。
 あるのだ、殺すよりも残酷なことなんてこの世に吐いて捨てるほどある……その苦しみをこのクソボケ大魔王は、徹底的にあたし達人類に強いる。
 このクソボケ大魔王はまず初めに自分の配下に収めた国に払い切れるわけないだろう量の税収を突き付け、それが払えないとなると、まるで人類をモンスター達の奴隷のように扱って、生きるために必要なものを根こそぎ奪ったり、死なない程度の重傷を負わせたりと、殺すよりも残酷な方法で人類を苦しめていた。


「……意味を話したところで、何になる?」
「知る権利ぐらいあるじゃないの! あたし達はあんたの被害者なのよ⁉︎」


 ついに面倒だとばかりにあたしの前から去ろうとするその背中を、あたしは許さなかった……どうして、あたし達がこんな運命を強いられなきゃならないのか。
 こいつの行為はその一つ一つが、本当に正気の沙汰ではないもの……
 どうして、ここまでこのクソボケ大魔王があたし達人類を執拗に苦しめるのか理解ができなくて、さらには戦争が起こるかもしれないと聞いて以来、ショックのあまり体調を崩してしまったグレース様をパトリック様が付きっきりで看病しているのにあまり経過がよろしくないこととか、三バカ大将があたし達と顔を合わせることが気まずくて魔王城を留守がちにすることにイライラしていることとか、もう戦争までの時間がないことからも焦っていて、ついついそれまでよりも感情的な言い方になってしまったのだが……


「被害者な……どこまでも都合よく意味を変える言葉だよな、本当に反吐が出る」
「はあ?」


 あたしの声に足を止めたクソボケ大魔王の吐き出した声がそれまでの声色とは明らかに違うもので、あたしの心臓はらしくもなくドクンッ……と、嫌な鼓動を響かせた。


「そもそも、お前は一つ大きな勘違いをしていないか? ここに来てからの何もない日々に騙されて、まんまと忘れて、今回のことで勝手に裏切られたみたいな気分になっているんだろうがな? お前と俺様はーー敵なんだぞ? それ以上でもそれ以下の関係でもないはずだ」


 振り返ったクソボケ大魔王は、出会った頃よりも数倍冷たくて、思わず逃げ出したくなってしまうほどの圧倒的なオーラを放つ。
 その雰囲気も相まって、その言葉の一つ一つがあたしの心にナイフを突き立てていくような感覚だった。


「知ってるわよ、そんな……‼︎」
「嘘をつくな。お前は、期待していたはずだ。思えば大掃除の時、俺様にサンドイッチを作ってきた時からだ。お前はあの時に、俺様のことを普通だと思って安心したんだろ?」


 何とか言葉を絞り出し、負けないように、気圧されないように平然を保とうとしたけど……それは何もかもを見透かしたようなクソボケ大魔王の前では無意味に等しい悪足掻きでしかなかった。
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