上 下
37 / 80
シックザール学園 第三章

ありがとうとは尊い言葉

しおりを挟む
「オリオン、何用だ」
「父上、恐れながら、この度はお願いがあって参りました」
「願い?」
「この度はオリオン・ライアネル並びにベルンハルト・フリード、セドリック・ドーソン、ニコラス・ケンドリック! そして、スピカ・アルドレード……この計五名での、ミランダ夫人救出作戦への同行の許可をいただきたいのです」
「ここに署名もあります、どうかご検討のほどよろしくお願い致します」


(はい? 待って、え?)


 私は慌てて、ベルからお父様が奪った署名の束を私が奪い取る。
 そこに並ぶ名前に私は言葉が出ない。
 ここにいる友人達はもちろん、シリウス殿下やガブリエル様の名前まで……
 あちこちで、自分達の子どもの登場にそれぞれがびっくりしてる。
 お父様も並ぶ高貴な名前のオンパレードに開いた口が塞がらないようだ。


「サイモン、諦めろ? お前の娘はこうと決めたら絶対に曲げない」
「しかし、娘は……」
「心配するな、スピカを守るために俺達も共に行くのだからな?」
「え、あの……?」
「人選は勝手に組ませてもらったぞ?」


 突然始まった計画発表に、私だけでなくお父様も国王陛下も、その他の人達もみんな食い入るように聞いている。
 あ、本当に誰も知らなかったんだ……
 そして、話される内容にただ驚かされるばかりだった。


「オリオンと僕はスピカの時に盾であり剣ともなる、けれども、救出隊には必ず騎士が必要だ」
「そこで俺が同行するんだ!」
「セドリックは見習いだけど立派な騎士団だし、戦力は問題ないし、何より僕達との信頼関係がある」
「ニックは?」
「……絶対について行くって、聞いてくれなかったんだ」
「何故、分からないんだ? 俺が守ってやるって言ってんだ!」


 思わず、その場にズッコケた私って絶対に悪くないよね? ね?
 オリオン様とベル、それに他のみんなの疲れた顔が全てを物語る。
 私の知らないとこで何が……!?
 自信満々で、私に感謝しろ安心しろと言うニック……恐ろしい子。


「あと、ベロニカも同行するよ」
「そういえば、ベロニカは?」
「ゴードンとの戦いに向けて、魔法を調合するとか言ってたな」
「そうなんだ……他のみんなは?」
「もちろん、役割がある、リオンがもう少しで完成させる薬品で枯れてしまった花や森を蘇らせるんだ」
「リオン、そんなこと出来るの!?」
「天才って言われてるなら、その役目は果たさないとね?」
「リリーとエレノア様には、その作業を手伝ってもらうんだ」
「エレノア様の歴史の知識を参考に昔の王国を蘇らせようと思っています」
「近年は緑が失われてるので……せっかくならこの機会にと」


 何か、さらっと壮大なプロジェクトが生まれていなかった?
 ベロニカの魔法は命を蘇らせるとか禁止らしくて、出来ないもんね……
 天才ってか、魔法より魔法だよね?


「クラリーナ様とバルトは?」
「二人はパイプ役だよ」
「パイプ役?」
「救出隊を募るって聞いて、それならゴードンや得体の知れない生物と戦うことになるだろうから、武器や物資が必要だと思ってね? 呼んだんだ」
「よ、呼んだ?」
「最高峰の人達を呼んだんだよ?」
「何より、この環境では各国で不足物が多発していますわ、これを機会に国同士が歩み寄れたらとも思いまして、バルト様とは先日から隣国の外務大臣などにお手紙を出しておりましたの」


 バルトが促す方向には、ここに入って来た時から気にしていた、商会の会長、薬師、鍛冶屋、学習の人達。
 つまりは、あの人達は私達をサポートしてくれるすごい人ってこと?
 そして、軍事大国だった我が王国の評判も上げちゃいましょうってこと?


「みんな、いつの間に!?」
「スピカが再起不能になってた時だよ」
「え? あー、あの時……」
「助けてもらってばかりだから、僕達が何かしてあげたくて……」
「導き出した結論がこれってわけさ」


(ベル、リオン……)


「どれだけ待たせるんですの? 本当に待ちくたびれましたわ!」
「こんなこと言ってるけど、スピカのことクラリーナ様は、本当にものすごく心配していたんだよ?」
「バルト様!?」
「スピカ様がお元気ですと、私達まで元気になれてしまうんです」


(クラリーナ様、バルト、エレノア様……)


「スピカ、お前の行動はお見通しだ!」
「絶対に戻って来るって、ずっと信じてましたわ! スピカ様!」
「一時はどうなるかと思ったけど期待を裏切らないとこは、さすがだな?」


(ニック、リリー、セドリック……)


「父上、私とガブリエルも同意です、スピカ嬢の同行の許可をお願い致します」
「シリウス、お前の考えか?」
「全て、オリオンの考えでございます」


(シリウス殿下、ガブリエル様……)


「サイモン伯爵、スピカ嬢は必ずお守り致します、どうかお許しください」


(オリオン様……)


 オリオン様に頭を下げられると、お父様は国王陛下のもとへ行く。
 辺りは静まり、みんなが二人の行く末を見つめている。
 一語一句、聞き漏らさぬようにと……


「サイモン、私達の負けだな」
「……そのようです、娘は世界一の幸せ者ではないでしょうか?」
「それは、スピカ嬢の人柄が、過ごしてきた時間がこうさせたのだ」
「恐れ入ります」
「……スピカ・アルドレードの救出隊同行をここに許可する!」


 一気に周りが騒がしくなる、まだお母様を救出したわけでもないのに。
 みんなのことが大好きだ。
 こんなにも大切で、かけがえのないもので、大好きだ。
 私は言わなきゃいけないことがある。


「みんな! 本当にありがとう!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!

青杜六九
恋愛
乙女ゲームの主人公に転生した少女は驚いた。彼女の恋を阻む悪役令嬢は、一人のはずがなんと四人? 何の因果か四人こぞって同じ舞台へ転生した姉妹が、隠しキャラの存在に怯えつつ、乙女ゲームの世界で「死なないように」生きていくお話です。1話2000~4000字程度で短いです。 四人姉妹は比較的普通ですが、攻略対象者達は全体的に溺愛、変態度高めで普通じゃないです。基本的に変な人しかいません。 マンガのように場面転換が多いです。後から書いた閑話を時系列の正しい場所に入れていきます。章の切れ目の関係上多少前後することがあります。 2018.5.19 12章から書き直しております。 元の文章は「小説家になろう」のサイトでしばらく残します。 2018.11.1 更新時間は23時を目標にしておりますが、作者が病気療養中のため、体調が安定しておらず、 投稿できないこともあります。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

婚約破棄される悪役令嬢ですが実はワタクシ…男なんだわ

秋空花林
BL
「ヴィラトリア嬢、僕はこの場で君との婚約破棄を宣言する!」  ワタクシ、フラれてしまいました。  でも、これで良かったのです。  どのみち、結婚は無理でしたもの。  だってー。  実はワタクシ…男なんだわ。  だからオレは逃げ出した。  貴族令嬢の名を捨てて、1人の平民の男として生きると決めた。  なのにー。 「ずっと、君の事が好きだったんだ」  数年後。何故かオレは元婚約者に執着され、溺愛されていた…!?  この物語は、乙女ゲームの不憫な悪役令嬢(男)が元婚約者(もちろん男)に一途に追いかけられ、最後に幸せになる物語です。  幼少期からスタートするので、R 18まで長めです。

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。