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シックザール学園 第三章
あの子には涙が似合わないから
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「スピカ様、どうか……ちゃんと食べてください!」
「シャーロット、ごめんね……」
泣きそうな顔をされたシャーロットには申し訳ないことをしてる。
けど、私は目覚めてから食べ物が上手く喉を通ってくれない。
昼間も毎回誰かがお見舞いに来てくれるけど、本当に申し訳ない。
私は上手く笑えていないだろう、来てくれた人達には悲しい顔ばかりさせてしまっている。
(何をしてるのだろう……)
最近はすっかり寝不足である、あまり眠れなくなってしまった。
目を閉じると浮かんでくるから。
あの夜、お母様に手が届かず、ゴードンの恐怖に負けてしまったことを。
あの夜のことを何度も思い出しては後悔ばかりしてる。
私はいつからこんなに情けなく、泣き虫になってしまったの……
(どうしてこうなった……?)
お父様はもうボロボロだ、誰よりもボロボロになって帰ってくる。
そんなお父様は、私を守ろうとしてくれてる、安心させようとしてくれる。
不安で心が押し潰されそうなのはお父様も同じなのに、私は何て声を掛けるべきかも分からない。
「お母様ぁ……」
私は夜になると、お母様のことばかり思い出してしまう。
私の名前を呼ぶ声、手を繋いでくれた時の温もり、私を怒る怖い顔。
娘でも惚れ惚れするほどの、艶やかな笑顔を思い出す。
その時だった、ガタッとバルコニーの方で音がしたのは……
私が後ろを振り向くと、ここにいるはずのない人物。
「……オリオン様?」
「スピカ」
「ど、どうしてここに……王宮を抜け出して来たのですか!? きっと、今頃は王宮中が大慌てですよ!?」
「そうかもな」
「何故、こんなことを!?」
こんな無茶をして大勢の人を困らせるなんて、オリオン様らしくなかった。
いつだって周りを見て、最善の策を取るような第二王子として相応しい、未来の王国を治めるのに相応しい行動を取る人なんだから。
生まれながらにして、オリオン・ライアネルは王族なのだから。
けど、私の質問に答えたオリオン様は王族ではなかった。
「分からない……けど、お前が泣いてるような気がしたんだ」
「え……」
「気付いたら、体が動いてた……お前の隣にいたいと思ったんだ」
(もう無理だ、決壊した……)
私はオリオン様の腕の中で泣いた。
優しく壊れないように抱き締められてるようで、更に泣いた。
涙が止まるまでオリオン様は私を抱き締めてくれていた。
「あ、お召し物が……すみません……」
「気にするな、落ち着いたか?」
「大丈夫です……」
泣き止んでからもオリオン様も私を離さなかったし、私もオリオン様から離れようとしなかった。
二人で壁に背を預けて、私はオリオン様の肩に頭を預けていた。
そして、オリオン様は私の手を握ってくれていたから私も握り返した。
「お母様のことばかり考えます……」
「考えない方が無理だろ」
「後悔ばかりして……ゴードンに負けてしまった自分が私は許せなくて……」
「スピカ」
「はい……」
「このまま諦めれば、お前は確かにゴードンに負けるぞ?」
「え……」
「引き下がるのか? そんなの俺の知るスピカ・アルドレードではないぞ」
「けど……」
「奪い返してやればいいんだ」
「オリオン様……」
「もう一度、封印してやればいい! お前にはそれが出来る! 自分を信じろと俺に教えたのはスピカだぞ?」
あなたがいてくれて良かった、目の前のその人にそう言いたいのに涙がまた溢れて上手く言葉にならなかった。
そのまま私は眠ってしまい、気付けばベッドに寝ていた。
朝、目覚めた時には部屋にも、隣にもオリオン様はもういなかった。
ありがとう、伝え忘れちゃった……
(私はモブなのに……)
私の心が揺らいでいたことに、私自身も気付いていなかった。
「シャーロット、ごめんね……」
泣きそうな顔をされたシャーロットには申し訳ないことをしてる。
けど、私は目覚めてから食べ物が上手く喉を通ってくれない。
昼間も毎回誰かがお見舞いに来てくれるけど、本当に申し訳ない。
私は上手く笑えていないだろう、来てくれた人達には悲しい顔ばかりさせてしまっている。
(何をしてるのだろう……)
最近はすっかり寝不足である、あまり眠れなくなってしまった。
目を閉じると浮かんでくるから。
あの夜、お母様に手が届かず、ゴードンの恐怖に負けてしまったことを。
あの夜のことを何度も思い出しては後悔ばかりしてる。
私はいつからこんなに情けなく、泣き虫になってしまったの……
(どうしてこうなった……?)
お父様はもうボロボロだ、誰よりもボロボロになって帰ってくる。
そんなお父様は、私を守ろうとしてくれてる、安心させようとしてくれる。
不安で心が押し潰されそうなのはお父様も同じなのに、私は何て声を掛けるべきかも分からない。
「お母様ぁ……」
私は夜になると、お母様のことばかり思い出してしまう。
私の名前を呼ぶ声、手を繋いでくれた時の温もり、私を怒る怖い顔。
娘でも惚れ惚れするほどの、艶やかな笑顔を思い出す。
その時だった、ガタッとバルコニーの方で音がしたのは……
私が後ろを振り向くと、ここにいるはずのない人物。
「……オリオン様?」
「スピカ」
「ど、どうしてここに……王宮を抜け出して来たのですか!? きっと、今頃は王宮中が大慌てですよ!?」
「そうかもな」
「何故、こんなことを!?」
こんな無茶をして大勢の人を困らせるなんて、オリオン様らしくなかった。
いつだって周りを見て、最善の策を取るような第二王子として相応しい、未来の王国を治めるのに相応しい行動を取る人なんだから。
生まれながらにして、オリオン・ライアネルは王族なのだから。
けど、私の質問に答えたオリオン様は王族ではなかった。
「分からない……けど、お前が泣いてるような気がしたんだ」
「え……」
「気付いたら、体が動いてた……お前の隣にいたいと思ったんだ」
(もう無理だ、決壊した……)
私はオリオン様の腕の中で泣いた。
優しく壊れないように抱き締められてるようで、更に泣いた。
涙が止まるまでオリオン様は私を抱き締めてくれていた。
「あ、お召し物が……すみません……」
「気にするな、落ち着いたか?」
「大丈夫です……」
泣き止んでからもオリオン様も私を離さなかったし、私もオリオン様から離れようとしなかった。
二人で壁に背を預けて、私はオリオン様の肩に頭を預けていた。
そして、オリオン様は私の手を握ってくれていたから私も握り返した。
「お母様のことばかり考えます……」
「考えない方が無理だろ」
「後悔ばかりして……ゴードンに負けてしまった自分が私は許せなくて……」
「スピカ」
「はい……」
「このまま諦めれば、お前は確かにゴードンに負けるぞ?」
「え……」
「引き下がるのか? そんなの俺の知るスピカ・アルドレードではないぞ」
「けど……」
「奪い返してやればいいんだ」
「オリオン様……」
「もう一度、封印してやればいい! お前にはそれが出来る! 自分を信じろと俺に教えたのはスピカだぞ?」
あなたがいてくれて良かった、目の前のその人にそう言いたいのに涙がまた溢れて上手く言葉にならなかった。
そのまま私は眠ってしまい、気付けばベッドに寝ていた。
朝、目覚めた時には部屋にも、隣にもオリオン様はもういなかった。
ありがとう、伝え忘れちゃった……
(私はモブなのに……)
私の心が揺らいでいたことに、私自身も気付いていなかった。
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