上 下
21 / 80
シックザール学園 第三章

お城がお空に浮かぶなんてね

しおりを挟む
 私はありったけの大魔王ゴードンに関係する本を図書室から借りる。
 合計十六冊にもなったが、私はそこらのご令嬢とは鍛え方が違うのだ。
 こんなの楽勝だ!まあ、そんな場合ではないけど……
 一先ず、寮の自室に運び終わるとクラリーナ様とリリーが訪ねて来た。


「スピカ、荷解きは終わりまして?」
「ひと通りは……」
「それなら、クラリーナ様のお部屋でお茶会しませんか?」
「賛成! 気分転換になるかも……」
「何か言いまして?」
「え? さ、さあ、参りましょう!」


 とにかく、今は頭がいろいろと大混乱しすぎてる。
 一旦、クラリーナ様とリリーと話すことで気分を落ち着かせて、本格的に調べるのは夜だ、そうしよう。
 クラリーナ様、リリーと一緒に廊下を歩いていると、途中でオリオン様達に会った。
 私達三人を探してたらしく、それならと行き先を変更して七人全員でサロンに向かった。


 どうして、平和に私の学園生活は始まってくれないのだろうか。


「キャアアアアアアッ!!」
「しゃがめ!! 頭を低くしろ!!」


 突然、学園の廊下の窓ガラスが全て割れ始めたのだ。
 それが収まると、今度は拳ほどの大きさの氷の塊が降ってきた。
 トドメは竜巻のごとく学園中を駆け抜ける強風だった。
 辺りは一瞬にしてパニックで、生徒達は悲鳴を上げたり、逃げ惑ったり……
 それは私達も同じだ。


「全員、すぐ手を繋いで! そして、絶対に離さないこと!」


 ベルの呼びかけに私達七人はすぐに手を繋いだ。
 多少痛いと思ってもそれほど強い力で繋いでいないと、すぐに吹き飛ばされてしまいそうだった。


「あ……!? イヤアアアッ!!」
「クラリーナ様!!」
「手を伸ばせ、クラリーナ!!」
「ベルンハルト、離すな!!」
「反対の手を私に!!」
「全員で引きずり戻すぞ!! せーの!!」


 氷の塊にびっくりして、クラリーナ様はリリーと手を離してしまった。
 クラリーナ様の体は簡単に宙に浮き、外へと吸い寄せられる。
 私が手を伸ばすより早く、ベルがクラリーナ様の手を掴んだのだ。
 そして、もう反対のクラリーナ様の手をリリーが掴み、残った全員でベルとリリーの体を支えて、クラリーナ様を中に引きずり戻す。


「はあ……はあ……」
「クラリーナ様、お怪我は!?」
「大丈夫よ、助かりましたわ……」
「良かったです……」
「リリー、危ない!!」
「リオン!?」
「クソッ、俺が全部砕いてやる!!」
「セドリック、気を付けろ!?」


 一難去ってまた一難とはこのこと。
 今度はリリー目がけて降ってきた氷の塊からリオンが身を呈して守る。
 倒れてきたリオンをセドリックがとっさに受け止めて、何とか床に頭を打つことは免れた。
 しかし、リオンはまともに正面から氷の塊に当たってしまったらしく、頬から血が出ている。
 セドリックが降ってくる氷の塊を剣で砕いている間に応急処置をする。


「イヤアアアッ、リオン様!!」
「リオン、血が……!?」
「僕は大丈夫……イタタッ」
「傷は深くないな、良かった……!!」
「何が起こっているの!?」
「スピカ、窓際によるな!!」
「うわっ!?」


 私は繋いでいた手を離し、身を乗り出して窓の外を見る。
 けど、あまりの風圧に耐えられず、そのまま後ろに倒れ込む。
 しかし、予想していた痛みがこない。


「あれ? オリオン様!?」
「少しは大人しくしていろ!!」
「スピカ! オリオン!」
「2人とも避けろ! 後ろだ!!」
「え?」


 気付いた時には、オリオン様の腕の中にすっぽりと収まっていた。
 安心したのもつかの間で、ベルとセドリックの忠告で後ろを振り返ると、普通のより大きな氷の塊が、私とオリオン様に向かっているところだった。
 もう間に合わない!?
 私は諦めて目をつぶって、オリオン様にしがみついた。
 しかし、またしても予想していた痛みと衝撃はこなかった。


「クッ……!!」
「え、オリオン様? オリオン様!?」
「スピカ、怪我は……」
「私は大丈夫です!! それよりも……!!」
「今、背中に思いっきり……」
「ここにいるのは危険です!!」
「賛成だ!! よし、俺が氷を砕きながら盾にもなる!!」
「セドリック、大丈夫ですの!?」
「信じろよ!! これでも、未来の騎士団長候補だ!!」
「任せるよ、セドリック!!」
「手を繋いだまま、学園の奥に!! そのまま医務室に移動しよう!!」


 オリオン様が私のことを氷の塊から庇ってくれたようだ。
 どうしよう……私のせいだ。
 オリオン様は背中を丸めて、とても痛そうに顔を歪めている。
 リリーの言葉にセドリックが盾になると言い出した。
 セドリックを信じ、ベルを先頭に私達は移動を開始する。
 セドリックは見事に期待通りの仕事をしてくれた。
 学園の奥に移動していくと、私はふと窓の外を見上げて言葉を失う。


「世界はどうなってしまったの……」


 黒く渦巻く空に闇のように黒いお城が浮かんでいたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】公爵令嬢は王太子殿下との婚約解消を望む

むとうみつき
恋愛
「お父様、どうかアラン王太子殿下との婚約を解消してください」 ローゼリアは、公爵である父にそう告げる。 「わたくしは王太子殿下に全く信頼されなくなってしまったのです」 その頃王太子のアランは、婚約者である公爵令嬢ローゼリアの悪事の証拠を見つけるため調査を始めた…。 初めての作品です。 どうぞよろしくお願いします。 本編12話、番外編3話、全15話で完結します。 カクヨムにも投稿しています。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。