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気持ちと関わり
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二番隊が遠征から帰ってきてまたリュークに泣きつかれた次の日、夕食を作る前の早い時間にヨルアノくんが食堂に来た。
何か私に用事があったかな。
「遠征お疲れ様!怪我とかしなかった?」
「先輩方が守ってくれたんで全然!もう頼りっぱなしでした」
「いっぱい頼っていいんだよ、頼られたほうも嬉しいから。って、ヴェルくんからの受け売り」
「ヴェルストリアが?カッコいいこと言うなぁ」
「うん!カッコいいよね!」
勢いよく頷く私を見て、ヨルアノくんは少し微笑んだ。
「あの、サキさんはリーダーと隊長とも結婚されとるんですか?この前手繋いどったんで」
「あ、うん!ミスカさんとリュークとラグトさんと」
「ラグトさんも!?」
「あとハインツさん」
「……団長!?」
驚きの二連発だったらしい。
思えば五人ともヨルアノくんと接点あるよね。
「夫の方と仲良いんやなって思って…」
「そ、そうだね!仲は凄く良い方だと思う…」
毎日イチャイチャしてしまっているので恥ずかしいし申し訳ない。しかし傍から見てそう思って貰えるのは嬉しいのでモジモジしてニヤニヤしていると、ヨルアノくんは少し迷って声を出す。
「あのっ…」
「うん?」
「俺、サキさん見とると…変な気持ちになるんです」
「変な…?」
「胸がモヤモヤするような締め付けられるような…。凄く矛盾しとるんですけど…」
いつも一定の距離を保っていたヨルアノくんは少し前へ出て、私に近づく。
「女の人に触れたくないはずやのに…サキさんには触れたい…って」
「!」
震える手を差し出したヨルアノくんは真っ直ぐと私を見つめる。
「少しだけ…触れてくれませんか」
そう言われ、私は戸惑いながらも手を伸ばす。
彼が今まで辛いと思ってきたことを克服することが出来るなら、それは私も嬉しいから。
ヨルアノくんの手のひらに、指だけそっと重ねる。
一瞬ヨルアノくんはビクッと体を震わせたが、その後嬉しそうに顔を綻ばせた。
「サキさんの手…小さいですね」
「そうかな?」
「はい…。最初出来んかって、握手しても良いですか」
「うん…!」
今度は手のひらをしっかり合わせて握り合う。
握手をすると仲間って感じがするなぁ。
「あかん…もっと触れたくなってもうた…」
「?ごめん、聞こえなくて…」
「いえ、何でも無いです!」
パッと手を離すと彼は赤らめた顔で明るく笑った。
「ありがとうございます!急に変なこと言うてすみませんでした」
「ううん!役に立てたなら良かった」
「また夕飯食べに来ます!失礼しました!」
走って食堂を出るヨルアノくんに手を振ると、入れ替わりでヴェルくんがやって来た。
「ヴェルくん、今日は早く終われたの?」
「ええ…そうですね…」
「早速準備しよっか!」
いつも通り二人でキッチンに立っているが、会話が少ないように思える。
少しの間無言だったヴェルくんがポツリと私に聞いた。
「さっきヨルアノと一緒に居ましたよね。何か用事でもあったんですか」
「えっ、と…」
ヴェルくんには…言わないほうが良いのかな。ヨルアノくんは女性に触れられないことを他の人には言っていないかもしれないし。
「ヨルアノくんが来てくれて少しお話してたの。用事って程じゃない…かな」
微妙に誤魔化すような言い方が不満だったのか、ヴェルくんは強い口調になる。
「何の話をしていたんですか」
「それは…」
「僕には言えないことですか」
「…私から言って良いのか分からないから…ヨルアノくんに聞いてみて欲しいな」
私が言うとそういう事情だと分かったのかハッとした様子で慌てる。
「すみません、無理に聞き出そうとして…」
「私もハッキリ言えなくてごめんね」
申し訳なさそうな顔をするヴェルくんに悪気が無いことは分かっている。
「ヴェルくんは、私とヨルアノくんが話しているのが嫌だった?」
「そういう訳では……いえ、嫌です…どうしてもそう思ってしまいます」
自分の中でも葛藤があるのだろう、迷いながらも私に話してくれる。
「誰とも話して欲しくない、ずっと僕だけを見て意識して、僕だけのサキさんでいて欲しい。僕だけを愛して欲しい」
「…うん」
「勿論先輩方も居て、僕もその夫の中の一人なのは理解しています。サキさんは彼らのことも愛していて、彼らが居てこそサキさんを守って笑顔に出来る…僕だけでは駄目なんです」
それは、ヴェルくんの言う通りだと思う。
私の愛する人は五人居るけれど、その一人でも居なくなってしまったら私はきっと心の底からの笑顔にはなれない。
「…最初はそんなに気にしていなくて…貴女と付き合えるだけで幸せだったから。でも僕はやっぱり欲深くて…本当にすみません」
「…私は皆への愛情を分けて与えている訳じゃないよ」
「?」
料理は止めて手を洗い、ヴェルくんの頭を撫でる。
「分かりにくいかもしれないけど…私の中の愛を五個に分けてるんじゃなくて、それぞれに別の愛を持って伝えてるつもりなの。その形は違うし上限は無いから、そう考えたら私はヴェルくんだけを愛してるって言えないかな。ヴェルくんだけにしかこの愛は無いから」
「僕だけに向けた愛…」
「うん。勿論私の体は一つだし人生の時間も限られているから…ごめんね」
彼は涙を堪えながら弱く、首を横に振った。
「ありがとうございます…気持ちを疑うようなことを言ってすみませんでした」
「ううん、ヴェルくんの気持ちは嬉しいし、それは普通のことだと思うよ」
「普通…?でも先輩方は置いておいても周りの他の男性はこんなこと…」
この世界では男性が他の人に嫉妬心を持つことは無いのだろう。それがここでの当たり前。
「私の居た世界だと夫も妻も一人で、他の人を好きになったり浮気するとだいぶ厳しい目で見られるの。それこそ裁判になったりとかもするし」
「裁判!?」
「結構大事だよね…。住む世界は違っても同じ人間でしょう?だから嫉妬とかの気持ちは持ってもおかしくないよ」
文化や生活、常識によってそう思わない人が多いだけ。
「ヴェルくんの気持ちに間違いは無いよ。でも、私とヨルアノくんが話すのが嫌だと思ってもそれは拒まないで。人との関わりは何より大切だから」
「はい…きちんとヨルアノに聞いてきます」
真剣な表情で反省したヴェルくんを褒めて、彼はようやく笑顔を取り戻した。
私を一番に思ってくれるのは妻として幸せなことだけど、それでヴェルくんが他の人との交流を疎かにすることはして欲しくない。
ヨルアノくんがここに来てくれてからヴェルくんは私と居る時とは違う笑顔をしているから、友達を大事にして欲しい。
そう思いながら、私はまたヴェルくんの成長を感じた。
何か私に用事があったかな。
「遠征お疲れ様!怪我とかしなかった?」
「先輩方が守ってくれたんで全然!もう頼りっぱなしでした」
「いっぱい頼っていいんだよ、頼られたほうも嬉しいから。って、ヴェルくんからの受け売り」
「ヴェルストリアが?カッコいいこと言うなぁ」
「うん!カッコいいよね!」
勢いよく頷く私を見て、ヨルアノくんは少し微笑んだ。
「あの、サキさんはリーダーと隊長とも結婚されとるんですか?この前手繋いどったんで」
「あ、うん!ミスカさんとリュークとラグトさんと」
「ラグトさんも!?」
「あとハインツさん」
「……団長!?」
驚きの二連発だったらしい。
思えば五人ともヨルアノくんと接点あるよね。
「夫の方と仲良いんやなって思って…」
「そ、そうだね!仲は凄く良い方だと思う…」
毎日イチャイチャしてしまっているので恥ずかしいし申し訳ない。しかし傍から見てそう思って貰えるのは嬉しいのでモジモジしてニヤニヤしていると、ヨルアノくんは少し迷って声を出す。
「あのっ…」
「うん?」
「俺、サキさん見とると…変な気持ちになるんです」
「変な…?」
「胸がモヤモヤするような締め付けられるような…。凄く矛盾しとるんですけど…」
いつも一定の距離を保っていたヨルアノくんは少し前へ出て、私に近づく。
「女の人に触れたくないはずやのに…サキさんには触れたい…って」
「!」
震える手を差し出したヨルアノくんは真っ直ぐと私を見つめる。
「少しだけ…触れてくれませんか」
そう言われ、私は戸惑いながらも手を伸ばす。
彼が今まで辛いと思ってきたことを克服することが出来るなら、それは私も嬉しいから。
ヨルアノくんの手のひらに、指だけそっと重ねる。
一瞬ヨルアノくんはビクッと体を震わせたが、その後嬉しそうに顔を綻ばせた。
「サキさんの手…小さいですね」
「そうかな?」
「はい…。最初出来んかって、握手しても良いですか」
「うん…!」
今度は手のひらをしっかり合わせて握り合う。
握手をすると仲間って感じがするなぁ。
「あかん…もっと触れたくなってもうた…」
「?ごめん、聞こえなくて…」
「いえ、何でも無いです!」
パッと手を離すと彼は赤らめた顔で明るく笑った。
「ありがとうございます!急に変なこと言うてすみませんでした」
「ううん!役に立てたなら良かった」
「また夕飯食べに来ます!失礼しました!」
走って食堂を出るヨルアノくんに手を振ると、入れ替わりでヴェルくんがやって来た。
「ヴェルくん、今日は早く終われたの?」
「ええ…そうですね…」
「早速準備しよっか!」
いつも通り二人でキッチンに立っているが、会話が少ないように思える。
少しの間無言だったヴェルくんがポツリと私に聞いた。
「さっきヨルアノと一緒に居ましたよね。何か用事でもあったんですか」
「えっ、と…」
ヴェルくんには…言わないほうが良いのかな。ヨルアノくんは女性に触れられないことを他の人には言っていないかもしれないし。
「ヨルアノくんが来てくれて少しお話してたの。用事って程じゃない…かな」
微妙に誤魔化すような言い方が不満だったのか、ヴェルくんは強い口調になる。
「何の話をしていたんですか」
「それは…」
「僕には言えないことですか」
「…私から言って良いのか分からないから…ヨルアノくんに聞いてみて欲しいな」
私が言うとそういう事情だと分かったのかハッとした様子で慌てる。
「すみません、無理に聞き出そうとして…」
「私もハッキリ言えなくてごめんね」
申し訳なさそうな顔をするヴェルくんに悪気が無いことは分かっている。
「ヴェルくんは、私とヨルアノくんが話しているのが嫌だった?」
「そういう訳では……いえ、嫌です…どうしてもそう思ってしまいます」
自分の中でも葛藤があるのだろう、迷いながらも私に話してくれる。
「誰とも話して欲しくない、ずっと僕だけを見て意識して、僕だけのサキさんでいて欲しい。僕だけを愛して欲しい」
「…うん」
「勿論先輩方も居て、僕もその夫の中の一人なのは理解しています。サキさんは彼らのことも愛していて、彼らが居てこそサキさんを守って笑顔に出来る…僕だけでは駄目なんです」
それは、ヴェルくんの言う通りだと思う。
私の愛する人は五人居るけれど、その一人でも居なくなってしまったら私はきっと心の底からの笑顔にはなれない。
「…最初はそんなに気にしていなくて…貴女と付き合えるだけで幸せだったから。でも僕はやっぱり欲深くて…本当にすみません」
「…私は皆への愛情を分けて与えている訳じゃないよ」
「?」
料理は止めて手を洗い、ヴェルくんの頭を撫でる。
「分かりにくいかもしれないけど…私の中の愛を五個に分けてるんじゃなくて、それぞれに別の愛を持って伝えてるつもりなの。その形は違うし上限は無いから、そう考えたら私はヴェルくんだけを愛してるって言えないかな。ヴェルくんだけにしかこの愛は無いから」
「僕だけに向けた愛…」
「うん。勿論私の体は一つだし人生の時間も限られているから…ごめんね」
彼は涙を堪えながら弱く、首を横に振った。
「ありがとうございます…気持ちを疑うようなことを言ってすみませんでした」
「ううん、ヴェルくんの気持ちは嬉しいし、それは普通のことだと思うよ」
「普通…?でも先輩方は置いておいても周りの他の男性はこんなこと…」
この世界では男性が他の人に嫉妬心を持つことは無いのだろう。それがここでの当たり前。
「私の居た世界だと夫も妻も一人で、他の人を好きになったり浮気するとだいぶ厳しい目で見られるの。それこそ裁判になったりとかもするし」
「裁判!?」
「結構大事だよね…。住む世界は違っても同じ人間でしょう?だから嫉妬とかの気持ちは持ってもおかしくないよ」
文化や生活、常識によってそう思わない人が多いだけ。
「ヴェルくんの気持ちに間違いは無いよ。でも、私とヨルアノくんが話すのが嫌だと思ってもそれは拒まないで。人との関わりは何より大切だから」
「はい…きちんとヨルアノに聞いてきます」
真剣な表情で反省したヴェルくんを褒めて、彼はようやく笑顔を取り戻した。
私を一番に思ってくれるのは妻として幸せなことだけど、それでヴェルくんが他の人との交流を疎かにすることはして欲しくない。
ヨルアノくんがここに来てくれてからヴェルくんは私と居る時とは違う笑顔をしているから、友達を大事にして欲しい。
そう思いながら、私はまたヴェルくんの成長を感じた。
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