ある魔王兄弟の話し

子々々

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父、襲来

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一日の業務を終えた二人はフィドゥの寝室になだれ込む。普段はそれぞれの寝室に戻って就寝するが、今日はお互いそういう気分だった。

「兄上……」
「シア……」

クスクスと笑いあいながら戯れのような触れ合いをする。
お互いの顔にキスの雨を降らし、肌に触れ、そしていざシアをベッドに押し倒した時であった。

「やぁ可愛い息子達!パパが帰って来たよ!」
「「ギャーーーーーーーー!?」」

勢いよく扉が開き、南国の浮かれた格好した妙齢の男性が入ってきた。
当然ながら情事に及ぼうとしていた二人は盛大に悲鳴を上げたのであった。

「親父殿!?なんで城に!?」
「なんか急に息子達の顔が見たくなっちゃって……」
「それなら一報ぐらい寄越してくださいよ父上!?」
「いやぁ…一応お手紙送ったんだけど…やっぱりどうしても我慢できなくて飛んできちゃった」
「なんで手紙よりも早く来てしまうんですか!?しかも夜に!?」
「朝絶対城中大騒ぎになりますよ。次からはちゃんと…ちゃんと!事前に報告してくださいね!」
「はーい。ごめんねフィドゥ、シア」

絶対分かっていないなと、退位してからずっと浮かれ気味の父親に二人は溜め息を吐いた。

「あ、そうそう。お土産も沢山買ってきたんだ」

息子達の非難をものともしない彼は、魔法陣を召喚すると部屋を埋め尽くす程のお土産が現れ始めた。
ただやはりどれも怪しい文化の置物ばかりで、部屋や城に飾ればかなり浮いてしまう。

「好きに飾ってね」
「あぁ……。地下室の調度品に良いな」

あくまで表に飾りたくないフィドゥ。

「これで全部ですか?」
「いや?まだあるよ」
「まだあるのか……」
「シアは確か香水好きだったでしょ?だからフィングランスを……」
「フィングランスですってぇ!?」

突然シアが香水に喰いついてきたかと思えばフィドゥを突き飛ばし父親の前に立った。
思いのほか強く突き飛ばされたせいでフィドゥは壁と熱く抱擁を交わした。

「そ。ティターニアからの贈りもので……」
「しかもティターニア!?わぁああああ!流石父上大好き!!」

先程の呆れた態度が一変し、シアは父親に抱きつき何度も頬にキスをした。

「……そんなに良いものなのか、フィングランスっていう香水……」
「これは妖精が作った香水なんだ。妖精って気難しい上に人との交流を好まないから妖精の品が手に入るのはまずないんだよ。流石だなぁ~」

なるほど、とフィドゥは頷いた。

「フィドゥのもあるよ。はい」

そうして渡してきたのは捻れながらカーブを描く奇妙な銀色のオブジェクト。

「え、何この意味分からない置物」
「いや待てシア確かに一見すればただの個性的な置物かもしれないが実は曲線も捻れも全てが計算し尽くされて絶妙なバランスで組み合わされた素晴らしい芸術的なものになってるその証拠に360°どこを見渡しても完璧で美しい比率になっていてこれには数学者や物理学者も納得の仕上がりだろうしかし形もさながら素材も素晴らしい純銀ではないのは確かだがプラスチック製でもないしかし光沢が美し上に絹のような肌触りだこれは一般人が作れるような技術ではない事は確かだ」
「うわ……」

突然ノンブレスかつ早口で解説を始めた兄にシアは素で引いてしまった。珍しくフィドゥが饒舌になるほどだから確かに素晴らしい芸術品には違いないのだろう。
だがやはり、シアから見たらただの変なオブジェクト品にしか見えなかった。

「これ、何処で購入したんですか?」
「ドワーフの里だよ」
「納得の品だ……」
「ふふ。喜んでくれて嬉しいよ。あとは五英雄の彼らにも……」
「それは明日の朝にしましょう?この時間帯で来られたら流石に大騒ぎになりますよ?」
「そっか。うん、そうだね……」

しょぼんと残念そうにするが、もう時間帯も深夜に回ってしまっている。彼らもとっくに就寝してる。
先代魔王は自分が使っていた寝室へ向かったのだった。
フィドゥの部屋には置き場所に困るガラクタ品が占領してしまっている。
父親の件もあって、フィドゥはシアの部屋に移動しそのまま寝たのだった。



「シア様!フィドゥ様大変です!たった今先代様から手紙が!!」
「もういる」
「やぁ、久しぶりだねフローレン⭐︎」
「ホァーーーーーーーー!?」

そして城中大騒ぎになったのだった。
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