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16話
side 夏生①-僕の始まり
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16
僕は藍沢夏生。大切な幼馴染が火事で住まいを失い、病院に運ばれ、会うことすら叶わなくなった、それからの記憶だ。
あの日、雨ノ一家の顛末を見ていた僕は、警察や救急の人からいろんなことを聞かれた。両親は亡くなり、一人娘も搬送されたのだ。僕以外に聞く人はいないのだろう。けれど、僕にも分からなかった。望未の誕生日祝いをしていたら、急に火の手が回っていたこと、それが事故なのか放火なのかも分からない。だから僕は聞かれたことに正直に答えて、家に帰ることになった。
...望未の家に泊めてもらう予定だったから、今日帰るとは思ってもいないだろう。帰ったとしても、言葉は交わさないから関係ないのかもしれないけれど。母は僕を見ない、父は仕事が忙しいからと家にはいない。だから帰っても眠るだけ。寝る場所があるだけでもありがたいのだけれど。帰りたくない、なんて気持ちは誰にも手渡せない。同じ痛みを感じる誰かがいたら苦しくて堪らないだろう。
そんなことを考えながら家に着いて、手早くシャワーを浴びて、部屋に入りヘッドフォンをつけて横になった。
余計な音が耳に入らないように。この家で僕を守る唯一の手段だった。小学生の僕がそんな手段を身につけなければいけないほどにこの家は歪んでいた。
翌朝、アラームが鳴って目を覚ます。朝ごはんを食べようとリビングに向かう。朝ごはんが用意されているわけではない。月初めに一ヶ月分の食費が渡されるから自分で買うことになっている。昨日買った惣菜パンが冷蔵庫に入って、いた、のに、ゴミ箱を見たら捨てられていた。仕方ない、、また買うしかないのか。僕だけでコンビニやスーパーで買い物をするのもギリギリな気がする。
今日は間に合わないから朝は抜くことにした。体力は朝食から、と思う僕は朝を抜くことをしない。けれど今日は流石に仕方ない。
やや小走りで学校に向かう。学校では望未の家のことが噂になっていた。教室に入った僕を見る人は誰もいない。望未は僕のことを、クラスの人気者だと思っていたみたいだけれど、それは望未がいたからだ。皆は望未が好きで、望未と特段仲のいい僕を人気者に仕立て上げることで、望未に好かれようとした。望未はきっと気付いていなかった。悪意に気づける程望未は人を疑うことをしない。だけど、望未、僕を僕として認めていたのは君だけだったんだよ。沢山褒めてくれたのは君だけなんだ。君のいない僕は誰にも必要とされない存在で、虐めということはなくても、望未がクラスにいない今、僕と話そうとする人はいない。そう、この時点ではまだ、虐めなんてなかったんだ。
僕は藍沢夏生。大切な幼馴染が火事で住まいを失い、病院に運ばれ、会うことすら叶わなくなった、それからの記憶だ。
あの日、雨ノ一家の顛末を見ていた僕は、警察や救急の人からいろんなことを聞かれた。両親は亡くなり、一人娘も搬送されたのだ。僕以外に聞く人はいないのだろう。けれど、僕にも分からなかった。望未の誕生日祝いをしていたら、急に火の手が回っていたこと、それが事故なのか放火なのかも分からない。だから僕は聞かれたことに正直に答えて、家に帰ることになった。
...望未の家に泊めてもらう予定だったから、今日帰るとは思ってもいないだろう。帰ったとしても、言葉は交わさないから関係ないのかもしれないけれど。母は僕を見ない、父は仕事が忙しいからと家にはいない。だから帰っても眠るだけ。寝る場所があるだけでもありがたいのだけれど。帰りたくない、なんて気持ちは誰にも手渡せない。同じ痛みを感じる誰かがいたら苦しくて堪らないだろう。
そんなことを考えながら家に着いて、手早くシャワーを浴びて、部屋に入りヘッドフォンをつけて横になった。
余計な音が耳に入らないように。この家で僕を守る唯一の手段だった。小学生の僕がそんな手段を身につけなければいけないほどにこの家は歪んでいた。
翌朝、アラームが鳴って目を覚ます。朝ごはんを食べようとリビングに向かう。朝ごはんが用意されているわけではない。月初めに一ヶ月分の食費が渡されるから自分で買うことになっている。昨日買った惣菜パンが冷蔵庫に入って、いた、のに、ゴミ箱を見たら捨てられていた。仕方ない、、また買うしかないのか。僕だけでコンビニやスーパーで買い物をするのもギリギリな気がする。
今日は間に合わないから朝は抜くことにした。体力は朝食から、と思う僕は朝を抜くことをしない。けれど今日は流石に仕方ない。
やや小走りで学校に向かう。学校では望未の家のことが噂になっていた。教室に入った僕を見る人は誰もいない。望未は僕のことを、クラスの人気者だと思っていたみたいだけれど、それは望未がいたからだ。皆は望未が好きで、望未と特段仲のいい僕を人気者に仕立て上げることで、望未に好かれようとした。望未はきっと気付いていなかった。悪意に気づける程望未は人を疑うことをしない。だけど、望未、僕を僕として認めていたのは君だけだったんだよ。沢山褒めてくれたのは君だけなんだ。君のいない僕は誰にも必要とされない存在で、虐めということはなくても、望未がクラスにいない今、僕と話そうとする人はいない。そう、この時点ではまだ、虐めなんてなかったんだ。
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