私のもの、と呼べるものは?

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10話

私は何故

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10
どうして私なのかという疑問はまだ心に残ったままだった。
私は誰よりも孤独だったと真瀬さんは言ったけれど、記憶が積み重ならないから孤独になっただけではないのだろうか。優しさが欲しかった、愛情が欲しかった、ただそれだけだった。あれから何度か記憶を戻す作業をした。私にとって印象深い記憶の話をしよう。私にとって忘れたくなかった出逢いの話を。

__16歳まで

12歳の誕生日から病院にいることの意味が分からなくなっていた。ある日主治医から言われた。
「雨ノさん、もうすぐ退院出来そうですよ。治療、入院生活よく頑張りましたね。大分落ち着いてきて本当によかった。不安なことや心配なことがあれば何でも仰ってくださいね。病院側は出来る限りのサポートをします。手続きやそれらを支援してくれる施設も紹介します。一日ずつゆっくり生きていきましょう。」
そう言われて、退院、と思った。退院したら、孤児院みたいなところに行くのだろうか。金銭的な問題や手続きが私に出来るだろうか。そんな不安を抱えながら迎えた退院当日。私は14歳になっていた。そういえば学校はどうすればいいのだろう。学年で言えば中学生だ。小学生から気付けば中学生になっていた。
退院したら孤児院にそのまま向かうらしい。
私をこれから支援してくれる施設の方、海里(かいり)さんという20代半ばの女性が私の担当だった。
「雨ノ望未さんですね、海里と申します。よろしくお願いします。これから孤児院へ向かいますね。(紅葉と雪)という名前です。あちらの院長先生には話をしてあります。私も精一杯支援させて頂きますね。」
そう紹介を受けて、私も自己紹介をする。名前、年齢、自分の状態、などを伝えた。海里さんは頷き手元のipadを見て、もう一度頷く。病院側から話は聞いているだろう。それでも私が話すまで確信を持たないその姿勢はとても落ち着いていて綺麗だと思った。
それから海里さんの運転で、紅葉と雪へと向かう。孤児院へ行くことの緊張はしていたけれど、海里さんが隣にいると落ち着いた。何だか嬉しかった。病院の皆は私に対して壊れ物を扱うみたいに一線を引いていたから、海里さんの落ち着いた、けれど私に決して緊張感を持たせないようにしてくれる話し方や接し方が嬉しかった。好きな食べ物や好きな本、好きな音楽の話をした。どんな言葉を受けて育ってきたかも。会ったばかりなのに不思議と気負うことなく話が出来た。そんな話をしていたらいつのまにか孤児院が見えてきたらしい。どれだけ海里さんが私の心を安心させてくれようとしていたか、今なら分かる気がする。
次の話は孤児院での話になるかな。
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