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第18話、王宮
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出掛けていたランベルトがレオン達を王宮に連れ帰ってから、男たちは城内の警備隊に引き渡され、牢獄行きとなった。
「皆様此方へどうぞ」
禊ぎやら風呂やら着替えやら食事やらと世話を焼かれる。全て済まし終えると、三時間は経過していた。
もう八時を超えている。エスポワールがウトウトとし始めた。
「エス寝るか?」
声を掛けると、嫌と首を振られる。
「王、今日は一体どちらへ? あの……この者たちは?」
「ああ。紹介しよう。私の妃のレオンとその母サーシャ、そして息子のエスポワールを迎えに行ってきた。命を狙われる危険があった故、今まで存在自体を黙っていたんだ。随分と心配をかけたな」
部屋の中にいた国の重要人物達がざわついていた。
「いえ! とんでもございません! 王、しかし……気配を視る限り、その者たちは人族なのでは?」
「いや、違う。魔法でそう見せているだけだ。レオンは精霊族、それも古の青いドラゴン属の末裔だ。その母君も精霊族……それも太古からいる希少種、不死鳥だ」
また部屋の中が騒めき出す。
「そんな馬鹿な……」
「実在しているのか?」
「私は見た事がないぞ」
「だが、子どもの方も王とは全く似ていないではないか」
四方八方から声が聞こえてきた。
「見ていろ」
ランベルトが皆の目の前でエスポワールにかけていた個体識別誤認識魔法を解く。
その姿や毛色は説明せずとも一目瞭然だった。
立ったままだった者までエスポワールの前で片膝をつく。
「私の子だとバレないように、魔法で人族へと変化して貰っていた」
「皇子!」
「エスポワール皇子」
「王の幼き頃にそっくりだ」
「その毛色は間違いなくうちのドラゴン属の血を引いている!」
意見が一気に翻っていく。
エスポワールはレオンから見てもランベルトそっくりだ。疑いようもなかった。
「私も姿をお見せいたしましょう」
優雅に一礼し、サーシャが部屋から出て王宮の中庭へと出る。
皆が見ている中で、サーシャがさっきと同じように不死鳥の姿になってみせると、驚きの声と共に歓喜の声が上がった。
「噂には聞いていたが本当にいたとは!」
「素晴らしい。綺麗だ!」
「これは国も安泰ですね、王!」
不死鳥がいる。それだけで死者が出ない事を意味するからだ。そして皆の視線がレオンへと向けられた。
——ヤバい……どうしよう。
今のレオンに出来る事は何もない。
内心焦りまくっていると、ランベルトがレオンを抱えて膝の上に乗せて言った。
「レオンは古の青いドラゴンだとバレないように幼少期からずっと人族界で育てられていた。ゆえに、力を封印し、自力でも解けないようにされている。ドラゴン属の力をコントロールする訓練もしていない状態だ。そこにいるエスポワールも同じなのだ。この国が落ち着くまで、人族の国に避難していたのでな。能力の有無は長い目で見てやって欲しい。二人には私が直々に教えよう」
「そうでしたか!」
「古の青のドラゴンも是非見てみたいものです!」
歓迎されているのだろうが、レオンにとってはプレッシャーでしかなかった。
本当に自分はドラゴンになれるのか疑問でしかない。
恐れ多くも王宮について来てしまったが、帰りたくなってきた。庶民にはツラい。
「母さん……俺本当にリミッターなんてついてるの? なんかもうこの期待の眼差しがツラいんだけど……」
隣に来たサーシャにこっそり耳打ちすると、サーシャは喉を鳴らして笑った。
「あらレオン。私が嘘を言うとでも思っているんかい? ちゃんとこの目で青いドラゴンになったお前を見ているよ。もっと堂々としてなさい。王の妃に相応しくないとかって思われるよ? まあ、そんな事、レオンにベタ惚れのこの王様なら一瞬で蹴散らしそうだけれど」
——はい、実際蹴散らしてました。寧ろ怒り狂ってました。
大学院にいた頃からそうだった。
でも庇われる度に情けなくなるのも本当の気持ちで、とても複雑だ。
「嫌なんだよ、そういうの……」
思わず本音が漏れる。
「ふふ、ならどうやって自分でその座を勝ち取るか考えなさい。天才だけが才能を持っているんじゃない。努力の上に才能ってのがあるんだよ。それを天才と呼ぶ人もいるわ。王はどうだったの? 努力もしていなかったの? 見ている限りじゃそうじゃないでしょう? 努力の先に価値があったりするものだよ。文句を言わせない努力も時には必要だ。お前もしっかりする事だね」
確かにランベルトは常に色々と勉強していた。
魔法書を読み漁り、独自に魔法も生み出す。
才能があるからだと思っていたけれど、努力の上に成り立っているものが大きいのかもしれない。
手本となるべき人がこんなに近くにいたのに〝才能ある王族〟だからと一纏めにしてしまっていた。
「そうだな」
「そうよ」
それぞれの部屋へ案内され、レオンは当たり前のようにランベルトの部屋へと通された。
部屋なのか疑わしいくらいには広く、三十畳くらいはある。
ベッドも寮で使用していた物より倍以上の大きさがあった。
精霊族の中でもドラゴン属は体が大きいので仕方ないだろう。
ランベルトの巨体が三人は寝れそうだ。
寝室からL字型に伸びた先にはダイニングとキッチンがあり、テーブルの上には色んな種類の果物を入れたカゴが乗せてあった。
ここも二十畳はありそうだ。
ダイニング側にある扉を開けると中庭に続くバルコニーがあった。
「あ、あれ? 嘘!」
てっきり此処にいるものだとばかり思い、一通り部屋の中を回っていたのに、エスポワールの姿が何処にも見当たらずに慌てた。
「どうしようランベルト! エスがいない‼︎」
「エスならサーシャと一緒が良いと言ってそっちに行ったよ。一緒に寝る? て聞いたら断られたからね」
「あ、そうなんだ」
一気に脱力する。
三人で暮らしていた時もサーシャとレオンのベッドを行ったり来たりしていたので、今日はたまたまそういう気分だったのだろう。
心臓に悪い。
ベッドに腰掛けているランベルトの横に腰を下ろす。
「そういえば、ランベルトと二人でベッドにいるのって久しぶりだな。学生の頃みたい……だ……」
そこまで言って口を閉ざす。
——ベッドの上って確かセックスしかしてなかったな。
自分が発した言葉の意味が分かって、勢いよく立ち上がる。
「いや、ごめん。そういう意味じゃないんだ!」
気まずくなってダイニングに逃げようとすると、腕を引かれてベッドの上に押し倒された。
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