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俺のだからあげませんよ
しおりを挟む待っている間に、他に怪しい物がないかテオの部屋をくまなく捜していく。相変わらずの薬や注射器が見つかり、回収して皮の袋に詰めた。
もう日本へ行くワープゲートも破壊しているので一先ずは安心だ。
「これで大丈夫か?」
「結局転生体である今の日比谷の事は分からずじまいだったな」
啓介の言葉に顔を上げる。
「いや、判明している。アイツはレザイル国のラザード公爵家の末弟だ。今世名は、サライダ・ルカサ・ラザード。あの家は家族ぐるみで相当な悪事を働いてきているしな。叩けば埃しか出てこない。今回の証拠をレザイル国の国王陛下にも通達している。レヴイの件があったからな。一家揃って亡命も出来ないように、手も打っている。今回オークション側につく人物とレザイル国側とに分けたんだよ。これで本当の意味で全員大集合になるぜ? マジで不知火会復活させてもいいかもな」
笑いながらそこまで言った時に部屋の扉がノックされた。
「ハルジオン様とリュクス様、ルド様も陛下が呼んでおられます」
「ああ、分かった」
三人で部屋を出て、陛下の元へ足早に向かう。
中には先に来ていたカイルとレヴイの姿もあった。部屋の中には日比谷とテオもいる。魔法で眠らせたままなので、カイルの側に浮かんだままだ。
「長い間ご苦労だったな、ルド。カイルがこうして何事もなく育ったのはお主のおかげだ」
「いえ。労いのお言葉ありがとうございます」
「レヴイには従者もつけておったのだが、少し目を離した隙に攫われてしまった。ツラい思いをさせて悪かった。リュクス共々無事に戻れた事に感謝する。ハルジオンも良くやってくれた」
「レヴイ様は俺にとっては甥っ子ですので」
チラリとカイルに視線を向ければ気まずそうに視線を逸らされた。
まあ、分からないでもない。中身が羽琉だったのもあり、知らなかったとはいえ、レヴイの体に二度も口付けたのだから。
「レヴイくん……その……悪かったっす」
「あれは仕方ないです。でも今世では母さんとハルジオン様は別人なので、浮気紛いの事に関しては内部から抵抗させてもらいましたけどね」
ふんわりと笑いながらレヴイが言った。案外としっかりしている。
——ああ、だからカイルに絡まれた時だけ心臓が痛かったのか。
「それについては俺も抗議しようかな」
リュクスまで言い出したので、思わずフハッと笑いをこぼしてしまった。
「だって元々兄貴は一人だったじゃないすか。だから浮気じゃないっすよ。おれは一途っす。でも記憶を封じられてた事に関しては謝ります。おれも今でも戸惑ってるくらいで……。二人とも……忘れててマジでごめんなさい」
カイルの隣でレヴイとリュクスが笑いを溢す。思っていたよりも上手くいきそうな雰囲気だったので、ホッと胸を撫で下ろした。
カイルの性格の賜物なのかもしれない。
「正直、カイル様がレヴイ様を連れて帰ってきた時は流石に驚いたぞ。態度に出ないように気をつけて、何もないフリを装うのは一苦労だった。しかも何の因果か、中身は羽琉とくる。こんなに運命を呪った事はない。しかしそれは全てが必然だったのだな」
何とも言えないような気難しそうな表情をしながらも、気まずいと言ったようにルドがそう言った。
「あと、陛下にご報告があります」
「どうかしたのか、ハルジオン?」
「この件が片付いたら俺はロアーピス国から出ても良いですか?」
王が驚いたような表情をとりながら何拍かの間が空く。
「やりたい事でも出来たのか?」
「龍人族の王の元へ嫁ぎに行きます」
「は? 龍人族の元へか!?」
「はい。俺の番でした」
「番だと……!?」
ハルジオンには生まれた時から番契約の相手がいるのは周知の事実だ。まさか龍人族の王だったとは思いもしなかったのか、王は目を剥いていた。
「実はここへも来てるのですが、連れてきても良いですか?」
「あ……ああ」
よほど驚いたらしい。顎髭に手をやり、よろよろと玉座に座り込んでいた。
啓介が変身を解き、元に姿に戻っていく。
「お初にお目に掛かる。ストレイト・K・キンバリーだ」
簡単に自己紹介をすると、王が玉座に腰掛けながら数秒間瞑目するように数秒間失神した。
「ハルジオン、そなたいつの間に……」
「いえ……。実は俺も運命の番だと確信したのはつい数週間前なんですよ」
「ハルジオンの転生前の肉体に所有印をつけたのは俺だ。だからずっと探していた。見つけた時にリュクス奪還の計画があるのを知り、個人的にここにいるメンバーとリュクスとも転生前からの知り合いだったのもあって、参戦していた」
「転生前?」
「ああ、そうだ」
「成程な。だからハルジオンには生まれた時から噛み跡があったのか。龍人族の特殊能力だな?」
「そうだ。ハルを貰い受ける為に来た。無理なら俺が婿養子に入る」
「いや……待て。お前婿養子ってたまかよ。つか王だろ。婿になんて行かせて貰えんだろ」
ハルジオンが腹を抱えて笑うと、啓介も笑った。
「無理でも婿に入る。その前にお前俺から逃げられると思うな。絶対に逃がさん」
「今更逃げねえよ」
抱き寄せられそうになったのを軽くかわして距離を取る。皆の前でイチャつくのはごめんだ。
それを見ていたルドがニヤリと意味深な笑みを浮かべた。
「まあ、そうだろうな。啓介お前は知らないと思うが、お前が思っている以上にハルジオンはお前に執着しているぞ」
「ちょ、ルドさん! あれは言わない約束でしょう!?」
慌てたハルジオンの口を押さえて啓介が続きを促す。
「どういう事だ?」
「ハルジオンを若頭にするつもりで話をしていたら、お前に組を明け渡すとでも勘違いしたのか『啓介は俺のだからいくら組の為でもあげませんよ』と言って俺の話を遮りおったからな」
五十嵐羽琉の記憶の中にしっかりと残っている。羽琉の中でも過去最大とも言えるべき失態だった。
「へぇ」
「~~ッ!」
ニヤニヤと笑みを浮かべ、啓介がハルジオンを見つめる。今までかつてない程に挙動不審になったまま視線を彷徨わせた。
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