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本体でのヒート1
しおりを挟む啓介の姿が部屋から消えた瞬間、体が拒絶反応を示すように心音が激しくなり息苦しくなった。
番が側に居ない事への不安感が一気に押し寄せる。これではまるで自分の体が異質な何かに変わってしまったようだ。
「……っ」
居なくなったと言っても、視界に入らないだけで同じ家の中には居るのだからそこまで不安を感じる必要はないと思いつつも、耐えきれなくてベッドの上で横向きに蹲った。
ハッハッ、と荒い呼吸音が耳障りだ。体がもっと熱を発して、頭がボーッとしてくる。
「け、いすけ」
——発情期って厄介過ぎないか?
五年に渡り自然の理に反していたのは己なのだが、精神的なダメージと意に反した体の昂りが異常だと感じた。
一度レヴイの体で経験した発情期なんて目じゃないくらいにキツイ。
眩暈どころか頭の中をかき混ぜられているように世界が回っている。
服が肌に擦れるのも苦で、怠慢な動作で服を寛げていき全ての衣服を脱ぎ捨てる。
前回からの知識を頼りに、啓介の服や持ち物を勝手に漁って、持ち込めるだけ全てベッドの上に置いてその中に潜り込んだ。
まるで啓介に抱き込まれているような安心感に包まれ、短く息を吐く。
「生きてるか? ハル」
いつの間にかウトウトしていたらしい。服の上から頭を撫でられ、直に触れられても居ないのに歓喜で体が戦慄いた。
「けー……すけ?」
「話はつけてきた。医者に連絡して、お前用の抑制剤も作って貰っている。リュクスの体型に合わせて貰ったが、お前と大差ないだろ。カイル曰く、寝てた分、リュクスの方が細いとかって言ってたがな」
「ん……、だろな」
潜り込んでいた服を捲られたのと同時に腕を伸ばして、啓介の首に両腕を回す。
「へー、随分と煽ってくれる格好をしているな。体も日本に居た時と大差ないのか」
ハルジオンの細いながらも程よく筋肉のついた肉体に長い手足。癖のない髪の毛が、シャープな顎を包み込んでいる。
熱に浮かされているように、涙に濡れた紫色の瞳は、はっきりと欲が浮かんでいた。
「啓介……」
逞しい首を引き寄せて口付ける。
オメガ特有の愛液がしとどに溢れ、触れてもいない陰茎も解放を待ち侘びて、先端から透明な液体を溢していた。
「本当はずっと会いたかった。啓介、好きだ」
以前のちゃんとした回答だ。
「〝五十嵐羽琉〟が保留にしたあの時の返事だ。待たせちまって悪かった。好きだ啓介。ちゃんと気持ちを返せて良かった。羽琉は本当に恋愛感情が全くなかったわけじゃない。ガキの頃お前と会う前に、母親が連れてきた男にこの世界で遭った事と同じ事をされていたんだ。だから元々薄かった感情がもっと薄くなっただけだ。でも、お前と会って変わった。どんな感情にしても、五十嵐羽琉はお前を特別大切にしていた」
「ああ、知っている」
戯れるように口付け合い、ベッドの上に倒れ込む。
「俺はお前に触れて良かったのか?」
「ふはっ、お前が触れないで誰が触れるんだよ? 自分から好んで股を開くならお前が良いと言っただろ。俺は五十嵐羽琉で、羽琉は今ハルジオンだ。それともお前は黒髪の羽琉……日本の時の俺じゃなきゃ嫌か?」
だいぶ苦しくなってきた呼吸を宥めるように数回深呼吸した。
「俺にとっては羽琉もハルジオンも同じだ。お前の魂を模る全てを愛している。そもそも肉体に執着するなら転生という選択肢は排除していた。部屋に氷漬けにしているお前の体は、お前はここに居ると自分を錯覚させるためだったしな。言っておくがお前が思っていたような観賞用じゃない」
首筋に噛みつかれ、鎖骨には吸い付かれる。微かな痛みと吸われる感覚に、肩を振るわせた。
「お前、その噛み癖本当に治らないな」
「初めっから言っている。俺が噛むのは〝お前だから〟だ。まだ通じないか? 番になるにはうなじを噛むだろう?」
目を瞬かせる。
「それ……まさか……」
「ああ、うなじを噛む為のフェイクだ。俺の番はお前だけだハル。だからお前しか噛まない」
顔に熱が集中した。
かつて日本で同じ事を聞いた時、自分はおざなりにされているのだとばかり思っていたからだ。
オメガバースの世界を知り、うなじを噛まれる重要性を知っている今となれば、啓介の行動の意味が理解出来る。
考えていた物とは真逆の理由だった。途端に顔に体中の熱が集中し、血の巡りが活発化した所でヒートもまた酷くなってきた気がした。
「ずっとお前だけを愛している」
見計らったかのように、両膝を割られ直接陰茎に指を絡められる。同時に胸元にも愛撫を受け、ベッドから腰が浮く。
「ひ……ッ、待て……っ啓介」
「おい、まだ待たせる気か。いい加減ちゃんとお前自身に触らせろ」
「違っ、なんか……体が、変……だ」
気持ちを吐き出されながらの行為は初めてだった。
啓介に触れられる箇所全てが性感帯のようで、一々体が跳ね上がるのを止められない。
「ん、ぁ、あっ」
「一回イっとけ」
陰茎を扱かれながら後孔に指を潜り込まされる。
二本目の指を入れられた時だった。全身に甘い痺れが走って、吐精させられた。それでも容赦なく指で攻め立てられ、ゆるゆると左右に首を振る。
「う、あああっ、ああ!」
「中、狭すぎだろ」
淫靡な水音を奏でているのが、己から出た体液なのだと思うと居た堪れない気持ちになってきた。
「け、すけ。も……挿れろ」
「まだ駄目だ。これじゃ、俺のは入らない」
また指が追加され、三本目となる。グチュリ、グチュリと音が立つ度に興奮度も増していった。
「んんんーーーっ!」
再度絶頂に追いやられ、背を逸らす。
「はっ、はっ……啓介ぇ」
「ああ、もう良いだろう。中もだいぶ蕩けてきた」
早々と服を脱ぎ始めた啓介をボンヤリとしながら見つめる。屈強な体から露わになり、今からこの男に抱かれるのかと思うと気恥ずかしさを覚えた。
良い男だとは思っても、普段はそんな感想など出て来ない。ヒートに当てられているからなのだろうと逡巡した。
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