【完結/BL】極道の若頭だけどオメガバのある異世界に転生した上、駄犬と龍人族の王に求婚されている

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目覚めの刻

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 銃声が連続で鳴り響く。
「ははははははっ、はははははは」
 耳障りな日比谷の狂ったように楽しそうな声が聞こえていた。
 やがて弾がつきて、カチッと乾いた音に変わる。
「ああ、つまらない。弾切れですか」
 体の上にある啓介の重みを感じてその頬を撫で上げた。
「け、いすけ」
「龍人族の王も大した事ありませんでしたねえ。こんな男に惚れなければもっと長生き出来たものを…………、くくくく、ひひひ、腹が捩れて痛いくらいですねえ」
 他の不知火会のメンバーも地に転がされていた。
 呑気に弾を詰め替えている日比谷を見て、視線をレヴイに走らせる。案の定レヴイにはマークがついていない。
 ——予定通りだ。
 レヴイは無能者でも何でもない。
 ただ能力が異質なだけである。
 目に見えた派手な演出がない上に、その時の状況によっては理解が出来ないだろう。故に、魔法で特殊能力のようにみせかけた軽い治癒能力が特殊能力だと思われている。
 レヴイのオメガとしての能力は〝破壊〟だ。それは組織だったり、システムだったり、能力だったりと様々だ。
 日本で羽琉の魂を引き裂き三つに分断したのもこの能力が起因している。
 そのレヴイが目を覚ましたのが功を奏していた。
 最悪な場合を想定してはいたが、成功率は五分五分だったのだ。リュクスを解放出来るのはレヴイだけだ。そして目を覚させられるのは番であるカイルだけだ。
「ハルジオン様! リュクス様と外部の繋がりは全て破壊出来ました!」
 あの華奢な体からは想像もつかないくらい大きな声だった。
「破壊、だと!?」
 日比谷が顔を上げる。
 ——よし!
 それを合図に啓介が受けた筈だった弾丸を全て日比谷に打ち返す。
「うぎゃあ、あ?」
 銃弾を全て日比谷に叩き込んでやった。
 さっきまでは、啓介のマントの下に瞬時に張り巡らせた防御壁で全て受け止めて、威力もそのままにして喰らったように見せ掛けていただけだ。
「役者になれるぞ、お前」
 啓介に向けて笑いながら言ってやれば、触れるだけの口付けが降ってきた。
「お互い様だろ」
 啓介が切り捨て、真っ二つにした所であえて途中まで再生させる。
「簡単には死なせねえよ、日比谷。お前が償うのはこれからだ」
 ハルジオンは自分の力を理解した上で使いこなしていた。
 また逃げ出さないように防御壁で囲んで宙に浮かせる。それから対象を不知火会に的を絞り再生能力をかけていく。
「ルドさん! ソイツらもう全員沈めても大丈夫です!」
「おう! 聞いたろお前ら、終わらせるぞ!」
「「「はいっ!!」」」
 余程鬱憤が溜まっていたのか先に啓介が動く。余りにも大きな戦闘覇気に、足を地に縫い付けられたような錯覚が起こる。気がつけば敵の半分以上は啓介に切り捨てられていた。
「やられてばかりなのは性に合わん」
「ふはっ、そういうとこ変わらねえよな」
 かつて日本にいる時、二人だった時がそうだった。懐かしむように目を細めてカイルの元へ向かった。
「カイル、悪い。ソイツは俺が預かる。リュクスを起こしてくれないか? 多分お前じゃないとリュクスは起きない」
「ねえ兄貴……起きるとつらい思いするかもしれないのに、それでも起きた方がいいんすかね? おれ……」
 項垂れたカイルの背中を叩く。
「舐めんな。〝俺〟がたかだかそんな事でへこたれるかよ。半身の俺が言うんだから間違いねえ。それとも何か? お前はそんな理由で嫌になる程に軽い気持ちだったのか?」
 緩やかに首を振ったカイルの背を叩く。リュクスの元へ駆けていくカイルを見送って、ユリスルと対峙した。
「テメエ自分が何しでかしたか分かってんのか?」
「別に責められるような事してないでしょ。それに貴方には僕を罰せられない。僕は第一宮……「なら、消えろ」……え」
 抜いた剣を斜めに走らせる。
「これで少しは反省の色を見せていたら投獄くらいで済んでいた。悪いが俺は陛下直々の命令で動いているんでな。俺のやる事は全て陛下の意思だ」
 斜めに切り離された体が地に転がった。
 カイルとリュクスの方向に視線を向ける。膝をついて座っているカイルが腕の中にリュクスを抱え込む。
「いつまで寝てるんすか、あんた。寝汚いのは相変わらずっすね」
「カイル、お前の記憶を戻してやろう」
 ルドがカイルの額に人差し指と中指を当てていると、カイルの体がビクリと大きく揺れ動いた。
「う……っ、何で忘れていられたんすかね、おれ。ごめんリュクス。おれの番。ごめんなさい……っ、遅くなったけど、迎えにきたんすよ。起きて……」
 カイルがリュクスに触れるだけの口付けを落とす。ゆっくりとその瞼が開いていく。ハルジオンとは違ったエメラルドグリーンの双眸が揺れ動いて、カイルをとらえた。
「カイル? 何で泣いてんだ。お前いつも泣いてるよな。いつになったら……泣かなくなるんだ。俺の部屋で……ずっと泣いてたろ? 見てた」
「見てたって……」
「幽霊ってやつ? あまりにも俺が欲しいって泣くから、お前にも……応えてやりたくなった。日本での事を朧げだけど大体は思い出したから……ハルと一緒に、お前らに会いに行くとこだったんだ」
 愛おしそうに頭を撫でるのを見ていると視線が絡んだ。
「ハル? それにルドさんまで……何してるんですか? て、レヴイ……か? いつの間にか大きくなったな」
「生きてて……っ、良かった」
 ボロボロと泣き始めたレヴイを引き寄せてリュクスは抱きしめた。
「お前の奪還に来たんだよ寝坊助」
「ただいま、半身」
 リュクスにはここ十年の記憶が一切なかった。





「ほらよー」
 日比谷の入った防御壁をボール状にして、カイルと啓介の三人で海の真上でサッカーをしていた。
 それを不知火会メンバーとキアムが苦笑しながら見ている。
 下からは大型の海棲爬虫類が大口を開けて突進してくるので、ギリギリ食べられない高度を保ちながらボールをカイルにパスした。
「おー、アイツらも必死だな。もっと煽ってやろうかな」
 ザパンと飛躍したモササウルスに似た何かを真っ二つに切り捨てると、下ではその身が貪り食われている。何度か繰り返していると、とうとう主が現れた。
「来た来た!!」
「楽しそうっすね、兄貴」
「めちゃ楽しいぞ! 生で見るのは初めてだ」
「もっと高度上げねえとヤバいかもしれんな」
 皆で移動した時にソイツは顔を出した。オークションで骨格標本として出されていたルギランドスだ。
 バクンと足元ギリギリで巨大すぎる口が閉じる。
「うわ、これでもギリだった」
「ぃ、ぎゃうあああああああ!」
「「「うるっせえ!!」」」
 日比谷の悲鳴に三人で口を揃えた。
「でえ? セオはどこにいるって?」
「……」
「このまま防御壁解いて下に落としちゃおうかなー……」
「でっかい独り言だな、ハル」
「ああ、悪い悪い。聞こえてたか?」
「ひ、酷い……」
 そう言いながらもキアムが笑っていた。
「セオもセットじゃなかったら、日比谷だけじゃ意味がないんだよなー。アイツの餌にした方がマシ」
 日比谷が青い顔色をして震えている。
「い、い、いいんですか?」
 意を決したように日比谷が声を上げた。勝ち誇ったようにドヤ顔をしている。
「私はそこにいるカイルの前世の父親ですよ」
「……」
「……」
「知ってるっす」
「だそうだ」
 絶句している日比谷の前でカイルの表情が見る間に変わっていく。
「え」
「組に入った時から知ってるっすよ。あんたの後ろ姿が、あの出てったクズと同じだったから。知らない振りをしてたのは、組長と兄貴の手前揉めたくなかったからっす。あんたには微塵も興味ないんすよ。んで、ここではゲスに成り下がってたから、正直百回殺しても殺し足りないくらいには、恨んでるんすわ。兄貴たちの許しがあるなら、今この場でおれが公開処刑してもいいくらいっすけど?」
「あ…………知ってたんですね……はい。セオは日本にいます」
 今度こそ日比谷が黙り、正直にセオの居場所を吐いた。
 日比谷はあの惨劇の真相は話さなかった。話そうとしようものなら、最後まで口にする前に海に放り出していただろう。
「クク、そんだけ後ろから殺気飛ばしてたら言えるわけねえだろハル」
 軽やかに移動してきた啓介に耳打ちされる。
「そんなに分かりやすかったか?」
「俺でもビビるわ」
「それはねえだろ」
 顔を寄せ合って話しているとキアムに「そこイチャつかないように」とやじを飛ばされた。

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