10 / 64
龍人族の王に攫われる
しおりを挟む何とか全員外に出してそこで暴れようと思案していると、屈強な男たちが突然叫び声と共に、外の暗闇に引き摺り込まれて姿を消した。
——何だ……?
何かが起こっているのは分かるが、外が暗くてまだ視認できない。
「ぎゃ!」
「うわ」
「何ださっきから!」
気がつけばチンピラも半分はいなくなっている。
代わりに出入り口には長いローブ姿の男が立っていた。
ローブのフードを深く被っているせいで、鼻先から下しか見えない。
腰には長い剣を携えており、男の手が柄にかかった。
鞘から剣を抜いた瞬間、重力さえも変わったような殺気が放たれ、地に押さえつけられる。
ゾクリ、と肌が粟立った。
——コイツ、ヤバい。
「ルドさん! カイル! 後ろに飛んで思いっきりしゃがめ!!」
男が剣を抜いたのと、店が半分から切れて崩れ落ちるのと同時だった。
——おいおい、マジかよコイツ。店ごと切りやがった……。
先に来ていた男たちは、成金男ただ一人を除いて全滅している。
たったの一振りでこの破壊力……闘いたいと思う方がおかしい。子爵は既に腰を抜かして、失禁しているのか床を濡らしていた。
「俺の花嫁を横取りして攫ったのはお前か? リレロ子爵。どういう了見だ?」
ローブ姿の男が歩み寄り、リレロ子爵との差を詰めていく。
「ひぃっ、わ……私は何も……」
可哀想なくらいにガクガクと震えて呂律の回りもおかしかった。
「俺たち龍人族の嫁に手を出したんだ。相当の覚悟は出来てるんだろうな」
——龍人族、だと?
低く押し出されるような声と共に放たれた殺気がチリチリと肌を焼く。
「違います! 私は単なる仲介役でして……っ、公爵様にコイツを譲り受けただけです! 貴方様の妃だとは存じ上げませんでしたっっ!!!」
剣の切先を向けられ、死しかイメージ出来ない中で、必死に許しを乞うている。殺気は宥められる事なく緊迫感を作り出している。
そんな中でも口を開いた。
「てめえ、誰がルドさんの大切な店壊して良いっつったよ……っ!」
壁に手を当てて、店を再構築していく。光に包まれた店内があっという間に元に戻り、光が収まる。
全員信じられない物を見るようにコチラを凝視していた。
「な、んだと!?」
首を刎ねられ、たった今し方息絶えた男たちも何故か一緒に再生し、生き返ったからだ。
——え、マジで!?
これには目を剥いた。
——再生って、こういう意味での再生も含まれているのか!
流石に試してもいなかったので自分自身でも初めて知った事実である。
「なっ⁉︎ 貴様、何だその能力は! 治癒能力だけじゃなかったのか!」
「あ、あれ? 生きてる……」
「俺今肩から上が飛んだ気が……」
「ちょっ、兄貴! ダメっすよ、人前でその力使っちゃ!」
それぞれのセリフを聞きながら、カイルの背に匿われたが、腹の虫は治らなかった。
「ほう、中々興味深い能力を有している」
男がしげしげとコチラを見つめている。
視線を感じながらも飛び出して、先に小太りの男の顎先を蹴り上げて一撃で気絶させると、男の前に立った。
「ははっ、相変わらず勇ましい。俺の運命の花嫁殿はご立腹か?」
「当たり前だ! ……って、は? 花嫁?」
——何言ってんだコイツ。しかも相変わらずって言ったか? もしかして〝レヴイ〟の方の知り合いか?
「すまなかった。後で詫びの品を持って来させよう」
「ああ? てめえ自ら持って来いや。つか、誰が嫁だ。俺には婚約の先約があるんでな、龍人族だか何だか知らねえがそっちには行かねえぞ」
正面切って睨みつけた。
——何だコイツ。さっきと違って雰囲気が……。
柔らかく笑んだとこを見ると、とてもじゃないがあの惨劇を起こした男とは思えない。
何処か浮き足立っているようにも見えて、違いを探るように眉間に皺を寄せた。
「お前は俺のだ。ほら、行くぞ」
——何だ? コイツの喋り方……抑揚加減とか、知ってる気がする。
しかし頭の中に思い浮かんだ人物とは顔も声も違っていて困惑した。
「俺は此処に住んでんだよっ。はいそうですかってわけにいくか。ていうか誰だよてめえは」
「俺か? お前の運命の番だ。大人しく自分からついて来た方がいいぞ。来ないなら……後ろの二人は捕虜として連れて行って牢にぶち込む」
——運命……。
意味が分からないし、話にならない。
「二人は関係ねえだろ」
怒りで頭に登った血が沸騰しそうだった。
反射的に殴りかかった拳はかわされ、風魔法をまとわりつかせて威力を上げて繰り出した足は難なく受け止められる。
高く飛んで今度は火属性魔法で強化した踵落としに切り替えたものの、これも軽やかに避けられた。
「ぐっ」
鳩尾に入った拳から重い衝撃が走る。
「兄貴!」
カイルの攻撃さえも軽やかに避けられている。まさかカイルのあの反射神経に追いつけるとは思わなかった。
伸ばされたカイルの手が届く前に、軽々と肩に担がれ男と共に宙に浮遊する。そこで意識は完全にブラックアウトした。
23
お気に入りに追加
237
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。
柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。
頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。
誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。
さくっと読める短編です。
気付いたら囲われていたという話
空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる!
※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!
ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて
素の性格がリスナー全員にバレてしまう
しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて…
■
□
■
歌い手配信者(中身は腹黒)
×
晒し系配信者(中身は不憫系男子)
保険でR15付けてます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる