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第四章、あたおか勇者ヤンデレ化するの巻

推しのデレの破壊力の凄さよ……

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 その後、雑貨や食器を見て回って購入したものは全てカプリスが物体転移魔法で家まで飛ばした。
 娼館の前を離れて以来ずっと握られたままの手を離そうと試みるが、何かでくっつけられたように離れやしない。
「この手を離したり、今度貴方の方から誰かに触れる事があれば、この街ごと消し飛ばしますよ」
 口角は上がっているものの、目が笑っていない。先程みたいに鬱蒼とした陰の気を惜しげもなく放ち、声のトーンを落とされた。
「……」
 本当に病んでしまったらしい。これまでにも色々な属性をつけまくって、もはや手のつけられないカプリスが更に手に負えなくなった。
 今のコイツなら確実に有言実行する。簡単に街一つ消滅させてしまう。
 手を離すのは早々に諦めて大人しく左隣を歩いた。
「「アフェクシオン様~! こっちもあらかた買い物終わりましたよ! 手なんか繋いで仲が宜しいですね!!」」
「俺がこの手を離したらこの街が消し飛ぶからな」
「「え…………まあアレですね! カプリス様とお似合いでございます!! 絶っ対にそのお手を離してはいけませんよ!? 絶対ですからね!!?」」
 そこまで念を押されると却って離したくなるものだ。
「お前ら誰の部下だよ」
 即行で手の平返しした双子を睨みつける。目を合わせないように明後日の方向を見た二人に殺気混じりの圧をかけると、脂汗をかきはじめた。
「「そうだ! もう日も傾いてきましたし、お食事にでもいき……」」
 喋っている途中で双子の姿が荷物ごと消える。カプリスが物体として荷物と一緒に転移させたらしい。せめて最後まで喋らせてやれよ、と思う。
 己とその他の扱いの差が激しすぎて、ここまで来ると辟易とさせられる。有体に言えばウンザリだ。
「二人っきりですね、アフェクシオン。せっかくの記念日ですし、たまには外で食事でもしましょうか? 良い雰囲気のお店があるんですよ」
 甘ったるい声音で問いかけられる。あの剣呑な空気は何だったのかと聞きたいくらいに、カプリスの機嫌は上向いていた。
「それは良いが、そろそろ手を離してくれ」
 誰かとすれ違う度に不躾なくらいに向けられる視線が煩わしくて堪らない。
 最近カプリスが無理やり同性婚を認めさせたとは言え、同性のカップルはまだまだ少ないのだ。ザッと周りを見渡しても自分達以外に見当たらない。娼館の前で悪目立ちしてしまっただけに、これ以上は目立ちたくなかった。
「アフェクシオンは照れ屋さんですからね」
 ——嫌なだけだ!!
 盛大に勘違いしているこの男の頭にヘッドバットでも入れてやりたいが、かわされるのは目に見えていた。
 家に来ていたタナリサースといい、今は「態と勘違い」でも流行っているのか? カプリスに対してイライラするのは己だけが損している気がして疲れが増す。
 ——俺も家に帰りたい。
 家に帰ってみたところで、どうせゴツゴツの膝枕が待っているのだろうが、奇異の眼差しに晒されるよりは幾分かマシだった。
「カプリス……、お前の……膝枕がしたい」
 カプリスの動きが止まったかと思えば、次の瞬間には家にいた。あっという間に寝室だけが元の状態に作られ、ベッドの上に座らされる。
 ——マジで煩悩に忠実だなコイツ。
 いつの間にかまた拘束魔法で体は動かなくなっているし、何も言わずに大人しくしているとカプリスの呼吸がやたら荒いのに気がついて見上げた。嫌な予感しかしない。
「おい……」
 後頭部ら辺に、主張の激しすぎるブツが押し当てられている。
 ——は!?
「え? またお口アーンしたいんですか? 大歓迎ですよ?」
「膝枕と言った筈だ! 口でヤるなんて一言も言っていない!」
「推しからの膝枕リクエスト! 突然の可愛らしいおねだりデレにこの私が興奮しないわけないじゃないですか!」
「知るかっ!」
 どうやら選択肢を間違えてしまったらしい。あのまま奇異の眼差しに晒されていれば良かった。後悔先に立たず。しかも……。
 ——何で完勃ちなんだよっ!
 手で数回擦れば達しそうなくらいにはガチガチになっている。このまま抱かれるなら、何度か出してやったほうが良いかもしれない。その分己の負担が減る筈だ。
「おい、拘束解け」
「嫌ですけど?」
「これじゃ口で出来ないだろうが」
「え、本当にシテくれるんですか!?」
「さっさとしないと気が変わるぞ」
 即、拘束が解けた。カプリスのズボンごと下履きをずらしていく。
「俺の手に潤滑剤出せ」
「はい……」
 戸惑いながら、カプリスが潤滑剤を作り出す。
 ——確かこうだったか?
 やり方はうろ覚えだ。片手で扱き上げながら、もう片方の手のひらでは円を描くように先端をグリグリと刺激していく。
「……ぁ」
 吐息混じりの声を上げたカプリスの瞳が欲を孕んで切なげに揺れた。
 乱れていく息遣いに合わせて手の動きも早めると、暫くしてカプリスの陰茎の質量が増して精液を吐き出す。
 その殆どが顔にかかってしまい、手で拭おうとするも、手にもかかっていたのでそのまま放置した。
「もう、アフェクシオン~……どうしましょう。本当にもう二度と貴方を外に出したくなくなってきました……無理……どうしてこんなにどんどんエロくなってくるんですか……無理……誰にも見せたくありません。もう絶対外に出しませんから」
 ——出た。お得意の頭がおかしい発言。
 それこそ無理だ。軟禁から完全に監禁状態じゃ話が変わってくる。
 家から出れなくなるのは死んでもお断りだ。背に腹はかえられない。適当に「相手がお前だからだ」とカプリスが喜びそうな言葉を言ってみると目を見開いて凝視していた。
 ——意外と男娼向いてるかもしれねえな……。
 嘘をつくのが得意になってきた気がする。


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