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第三章、モフモフはモフモフであって、モフモフではない

未確認生物を飼う

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「ギュー」
「キュケェェエ!!」
 家の外から妙な叫び声らしきものが聞こえて目を覚ました。
 ——何の声だ?
 薄っすらと目を開けて、耳を澄ます。さっきの声以外にも聞こえた気がして、アフェクシオンは怠慢な動作で窓の外を眺めた。
 視線の先にはカプリスがいる。そのカプリスの前には多種類の動物らしき物がいた。
 玄関から外に出るなり口を開く。
「カプリス、何をしている?」
「アフェクシオンが退屈しないように動物たちに圧をかけ……いえ、集めてきました。聞くところによればモフモフには癒し効果があるそうですよ?」
 嬉しそうに微笑まれたのが気まずくて、首に手を当てて視線を逸らした。
 前回抜け出す前に見た木の柵の中に、動物たちが入れられている。
 ——この為に柵を置いていたのか。
 まるで刈り取られたかのように、あたり一面に白い毛や黒い毛が落ちている。
 当の本人たちである動物に視線をやれば、全員脱皮ならぬ自然脱毛していた。
 ブルブルと震えているのを見ると、またカプリスがいらないトラウマでも植え付けたのだろうというのが容易に想像出来た。
 ハア、と大きなため息を吐き出す。
「おい、モフモフで癒されるどころかこいつら毛が全部無くなってるぞ。モフるところがない」
「あれ? 変ですね。さっきまではモコモコしてたんですけど……」
 カプリスが不思議そうに首を傾げる。自分の存在が恐怖に値するとは思ってもいないらしい。
 普通の動物たちの中に小型魔獣も何体か混ざっていた。
 元々生き物も魔獣も嫌いじゃない。攻撃されない限りは手を出さないし、ダンジョンに入るまでは共存していたくらいだ。
 柵の中に入り、暫く何もせずに腰掛けていると、何匹かの動物と魔獣が寄ってきて体を擦り付けてくる。
 ゆっくり手を伸ばして撫でてやると嬉しそうに目を閉じていた。
「可愛いな、お前ら」
 目を細める。その目の前でカプリスが前屈みになり地に膝をついて地面を叩きながら悶えていた。

 ——今度は何があった?

 これはツッコんだ方が良いのか、無視した方が良いのか分からずにまた視線を逸らす。
「ヤバッ尊い推し尊い尊死レベル何これ可愛いエモい」
 ——何の呪文だ……。
 早口言葉でボソボソ呟くように言っているので上手く聞き取れない。それでもまた何かを口にしているので、無視する事に決めた。
「あ?」
 少し離れた場所にある毛玉が微かに動いたのが分かって声を上げた。
 明らかに抜け落ちた毛玉ではない。二十センチくらいの大きさで台形の白い体、大きめの三角の耳をした生き物が動いている。
 立ち上がって近付くとその生き物が「キュケーー!」と珍妙な声を発した。
 ——何だコイツ、魔獣か?
 やたら珍しい見目をしているので、初めて見るタイプの生き物に釘付けになった。
 手を伸ばして触れてみると、大きな目がウルウルと潤み始め、威嚇するように毛を逆立て始めた。
「っ!」
 スベスベだった筈の毛が逆立つと突然針みたいになり、掌に刺さった。それを見ていたカプリスがニッコリと微笑み剣を構える。
「アフェクシオン、それをここに投げてください」
 穏やかじゃない。分かっていながら口を開いた。
「何する気だ?」
「真っ二つにします。さあ、早く!」
 ——即死コースじゃねえかよ。
 目が血走っているのを見る限り、カプリスは本気だ。本気でこの生き物を消そうとしている。
「とりあえずお前は落ち着け。俺なら大丈夫だ」
 痛みよりもジンジンとした疼きがあるくらいで、何ともない。
「私のアフェクシオンを刺すとは万死に値します。誰が許しても私が許しません」
 ——ああ、ダメだ。目が死んでいる。
 カプリスが止まりそうになくて内心ため息をつく。
「やめろ」
「ダメです。それにその生き物は創った覚えがありません。存在してはいけない。即刻消します」
 その言葉には聞き捨てならない違和感を覚えた。
 ジッと正面からカプリスを見据えて問いかける。
「つくった覚えがない? どういう意味だ?」
 カプリスの目がスッと細められた。かつてない程に闘気を漲らせたカプリスがこちらに向かって歩いてくる。
「キキキキュケーー!!」
 耳を垂れた生き物が可哀想になるくらいに震えていた。
 白い生き物だけに狙いを定めて振り下ろされた剣の刃を、もう片方の手で受け止める。
「ダメです、アフェクシオン! 離してください!」
「断る。それより俺の問いに答えろ」
「それはまだ言えません!」
 こんなに焦っているカプリスを見るのは初めてだった。
「なら、俺はコイツを飼う」
「こんな得体の知れない生き物なんてダメです!」
「ふーん。俺の願いは叶えてくれるんじゃなかったのか?」
 どこか焦燥感すら漂わせ、向になるカプリスが視線を彷徨わせた。
「しかし……っ」
「俺の願い、聞いてくれるんだろ?」
 襟を掴んで引き寄せて、軽く口付けるとカプリスが目を大きく見開いて固まった。
「はい、飼います!!」
 頬を上気させながら直立不動のままのカプリスの体をツンと指先で押すと、そのまま地面に倒れる。

 ——コイツ、意外とチョロいかもしれない。


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