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第一章、あたおか勇者にお持ち帰りされて監禁される

誰だアイツを勇者にした奴は!

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 ダンジョンと呼ばれる地下迷宮の最奥では、白色の閃光が走っていた。
 魔法攻撃と物理的な剣による攻撃が激しくぶつかり合っている。
 金属音が響き合う中、目の前の男が光属性の魔法攻撃を言葉にした。
 いくつもの白色の矢が出現し、コチラに向けて飛んでくる。
 アフェクシオン・ブラッシャーはこれで終わりかと思いつつも、何処か楽しげに口角を持ち上げて笑んだ。
 ——これで良い。
 これまで生きてきて、一番満足度の高い戦いだった。悔いはない。
 目の前の男……勇者を見据える。ここまで力を出し切った男の顔をきちんと見てやろうと思ったからだ。
 泥や土汚れで汚れてはいるが造形は整っている。歳も然程いっているようには感じられなかった。
 目の前に光の矢が迫る。とうとう終わりの時間らしい。
 しかし身を斬られるどころか射抜かれもせず、痛みも走らない。光の矢は己の体を避けて、背後にある岩に突き刺さる。
 ——何だ? どういうつもりだ……?
 物凄い破壊音と共に岩が音を立てて砕け散っていく。
 目の前にいる男は、朗らかに笑って見せると口を開いた。
「βγάιβΰ κιΰξ άλλΰάνάιβΰ」
「は?」
 顔をしかめっつつ、思わず呟いてしまった。
 なぜなら男が唱えた呪文は、トドメを刺す呪文でも拘束する呪文でもなく、相手の姿を変える呪文だったからだ。
「っ!」
 見る間に体がドロリと溶けて、洞窟内に生えていた天然の黒曜石の中に吸い込まれていく。
 ——何を考えているんだ、コイツは!?
 意図が全く読めなかった。悪の化身と言われていた魔王である己にトドメを刺さなかった理由が分からない。
 火山岩の一種に姿を変えさせた所で、こんなものは解除しようと思えば直ぐにでも出来る。
「勇者様! 大丈夫ですか!?」
 どんどん援軍も到着し、周りは騒然としてくる。
「何とか。もう大丈夫です。この通り魔王はもういませんよ」
 男は己が変化した黒曜石をポケットに捩じ込んでいた。
 ——いけしゃーしゃーとよくも……。
 とりあえず男の動向を探りたい気持ちもあって、そのまま大人しく黒曜石の中で眠る事にした。
「おおお! これで平和が戻りますね! さすが勇者様!」
 洞窟内が喜びに満ちている。
「さて、正式に手に入れる準備をしないといけませんし、家に帰りましょう」
 布越しに撫でられる。
 ——準備ってどういう意味だ?
 男の言葉を自分たちに向けたものだと思ったのか、男たちは「家に帰ろう!」と口々に言い出した。
 魔力を使い果たし、体中怠いし眠い。
 ——ダルッ、面倒くさい。 
 魔力消費は睡眠か他者からの接触でしか補給出来ないのもあり、大人しく目を瞑った。




「勇者カプリス・グルマルディの活躍を讃え、ここに褒賞金を捧げる。他に欲しい物があれば遠慮なく申し出るが良い」
 賑やかな歓声と高揚感に溢れた大勢の声、鳴り止まない喝采で目が覚めた。
 どうやら男が表彰されている所らしい。心底どうでも良いと思いつつも、何もする事がなくて暇だったのもあり観察していた。
 ——大層ご立派な事だな。
 戦いの最中は緊張感に包まれ、決着がついた時も汚れできちんと拝めなかった。
 それに鎧を着ていたのもあり、ちゃんと人相を確認している暇は無かったが、今はそうでもない。
 持て余した暇ついでに、己を倒した勇者とやらとじっくりと拝んでいた。
 背も高くて肩幅も広い。整った目鼻立ちは嫌味な程に良い男だと思えた。
 動く度に靡く金糸の髪の毛は緩く後ろに流されていて、参加者の多くの婦人が顔を赤らめてヒソヒソと耳打ちし合っている。
 ——けっ、いけすかねえ。
 もう一度寝てしまおうと目を閉じた時だった。
「では、この黒曜石を所望いたします」
 ——は?
 聞き捨てならない言葉が聞こえてきて目を見開いた。とは言え、姿を変えられているので己しか分からないが。
 男の発した言葉を鵜呑みにすると、報酬に己を欲したことになる。黒曜石イコール己の事だからだ。本当に何を考えているのかサッパリ分からない。
「そんな小さな石で良かったのか? もっと価値のある宝石はいくらでもあるぞ?」
「いえ、私はこれがいいんです」
 カプリスは、まるで宝物でも扱うように黒曜石を両手で掬い上げて胸元で抱えている。
 本当に訳がわからない。一体何を考えているんだ?
 疑問符しか頭の中を占めない中で、カプリスにお持ち帰りされたまま隣国の外れまで移動していた。
 そこは元々住んでいた家なのか、お世辞にも大きいとは言えないが二~三人で住むには十分な広さがあった。
 家の中に入り次第、呪文を唱えられて封印を解かれる。
 空に浮いたままあぐらをかき、アフェクシオンはウンザリした様子でカプリスを正面から睨みつけた。
「何を企んでやがる?」
 開口一番に言うと、カプリスは機嫌良さげにニコニコと笑みを浮かべ始める。
「私の狙いは初めっから貴方を手に入れる事でしたので」
「ハッ、随分と酔狂な男だな。何の為に?」
「推しに愛を注いで愛でたいだけです。そしてブチ犯し……いえ何でもありません」
 ——ブチおかし? その前に推しとは何だ?
 更に意味が分からなくなったので、頭を冷やさせようと水魔法でカプリスの頭上から大量の水をかけた。
「冷たっ、酷いです」
「頭は冷えただろ。で、何だって?」
「貴方に愛を注いで愛でたいと言いました」
「……」
 ——この男は頭がおかしいらしい。
 久しぶりに顔が引き攣るという現象にみまわれた。
 魔法で引き寄せられる。己でやった事だが、カプリスは全身びしょ濡れだ。
 俵担ぎにされたので気持ち悪くて仕方ない。そのまま移動されシャワールームに連れ込まれてしまった。
 カプリスは鼻歌交じりに己の服に手をかけて、当たり前のように脱がせ始めた。
「離せ。俺は何故脱がされている?」
「私はシャワーを浴びる時間がありましたが、恐らく貴方はまだでしょう? 私が綺麗に洗って差し上げます。この時の為に色々な洗髪剤を揃えておきましたので」
 シャワールームに妙なボトルがたくさん並べられている。
 ——は?
 先程から意味不明の事ばかりで逡巡するのも放棄したいくらいだ。
 詠唱破棄した魔法を使い、カプリスの元から逃げ出そうとした瞬間、やたら硬い拘束魔法を唱えられた。そして、手首には黒いブレスレットが出現する。
「くそっ!」
 さっさと戒めから逃げようとしたが、意に反して魔力が練れなくなっているのに気がついた。
 ——ちっ、魔力制御装置か!
 魔法が使えないのなら武力行使に出るしかない。縛られていない足を蹴り上げてカプリスから距離を取ると逃走を図る。
 それも簡単に取り押さえられて、全ての服を脱がされた。
 カプリスの前に座らされる。
「大人しくしましょうねー。じゃないと、慣らさずにブチ込んで二十四時間抜かずの連チャンおっ始めてしまいそうです。初めての時くらいは極力優しくしたいので、あまり私を煽らないで下さい。興奮して抑えが効かなくなってしまっても知りませんよ? あー、でも二十四時間で済めばいいんですけどね……。昔うっかりテンションが上がり過ぎてしまいまして、相手の自我が崩壊し再起不能にさせてしまいました。魔族だったので、七十時間くらいは大丈夫だろうと思ったのですが、見誤りましたね。感度十倍にしたからでしょうか? あれは本当に反省しました」
「鬼畜か!」
 ゾワリと全身に鳥肌が立った。
 ——誰だこの変態絶倫サイコパス鬼畜野郎を勇者に選んだ奴は! コイツは間違いなく魔の者だろうが!! 闇の森へきちんと帰せ!! 迷惑だ!


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