上 下
51 / 113
第2章

レクリエーションsideハンス 3/3

しおりを挟む
 紆余曲折を経て、ハンス達は採掘場に辿り着いた。切り立つ絶壁。ゴツゴツとした岩肌。聳え立つ岸壁は圧巻の代物である。

 ここに至るまで、ハンスが被った被害はというと・・・・。はぐれ蜂の針×2。軍隊蜂の襲撃。飛來熊の張り手。トッコウウオの特攻×99。マダラヘビのシビレ毒。その全てが、オルラカとナルキッススの巻き添えや、ルビアナを庇っての負傷だ。

 満身創痍のハンス。残り1時間。下手に動きまわらず、ハンス達はここでミッションをこなす事に決めた。


「道具がないと厳しいな」
「うーん。鎖に何をエンチャントすればいけるかナ?ハーンスはナニを触媒にしたの?」
「ああ・・・・俺はこの手袋だな」

 ルーファの問い掛けに、フッと表情を緩めるハンス。

「手袋?」
「執事の必需品だよ。俺はお嬢様の執事だからな」

 少しくたびれた手袋をそっと撫でると、キュッとはめなおす。ハンスはそれに魔力を纏わせた。

魔力武装コーティング
「ヒュー♪詠唱カットだネ。もしかして、無詠唱で攻撃魔法もいけたりするのかい?」
「いや、流石にそこまではできない。これは簡単なヤツだからカットできてるだけだ」

 努力家のハンス。元々の素地も高い。ヴィクトリアの護衛として高めてきた技術と身体能力も助けて、他の者達よりも上位の魔法も取得している。・・・・すべてヴィクトリアの執事である為に、ハンスが身に付けたものだ。

「ハハハ。冗談だョ。無詠唱だなんて芸当、魔導師カイン様ですらできないんだろ?」

 意図して発動させる魔法には、言葉・・・うたが必要だ。それは、式であり過程。たとえ解があっていたとしても、途中式を抜かすと正しく発現されない。高度な魔法になればなるほど、その詩祈しきは長く重く多量の魔力を必要とする。

「鉱石の発掘か。下手に採掘すると岩が落ちてくる。オルラカとナルキッススは、今回手を出さないでくれ」

 二人に釘を刺しておく。

「僕に相応しい見せ場を!」
「俺にまかせてくれれば、採掘なんてあっという間に!」


「手を」
「だ・さ・な・い・で・く・れ」

笑顔を消したハンスの低い声。

「あっ・・・・ああ。僕も少々疲れてきたようだ。ここは君に譲ってあげよう」
「そうだな。俺もそれで構わない」

 顔を引き攣らせ、大人しく見守る二人を背に、ハンスは岸壁に触れる。

「ハンスさん。ここにサザメ石と烈紅石、ミカゲ屑が埋まってます」

 同じく岸壁に触れていたルビアナが告げる。

「すごいな。ルビちゃんはわかるのかい?」
「あっ。私の触媒は土なんです。小さい頃から土に触れてきたので、何がうまってるか大体わかるんです」
「それは、便利な才能だネ。嫁に欲しいョ」
「へ?」

「ハーンス。よければその手袋に風属性をエンチャントしてあげよう」

 ルーファがハンスに声をかける。それに反応したのは、ナルキッススだった。

「風魔法だって?」

 そう叫ぶとハンスに駆け寄り、ルーファを押しのける。

「それなら僕に任せたまえ!この風の貴公子!ナルキッスス・バルボコディウム!美しく華麗な風の舞にて、君に優美なる愛を授けよう!!」
「いや、いい。ルーファがするから。ナルキッススは何もしないでくれ。」
「遠慮なんてよしてくれ。ほら、いくよ!」

 静止するハンスを無視し、ナルキッススは鏡を掲げ呪文を唱える。

「自由を纏いし荘厳なる蒼き風よ。天空の門を開きて我が前に現れよ。虚空を舞て音を奏で謳うがいい。・・・・彼の者に力を与えよ!風属付与エンチャント!」

 大気が震える、風が舞う。渦巻く空気がハンスに向かう。

「いや!おい!エンチャントでなんでそんな大業なうたを!」

「僕が魔法を使うんだ。美しく奏でるのは当然だろ」

得意気にふんぞり返るナルキッスス。どんどんと風が強さを増す。

「しかも、アレンジしすぎデタラメだョ。これヤバイ。避難案件。みんなー逃げてョ!危ないョ!!」

 採掘場にいる他の班にも、ルーファが慌てて警告する。

「僕の華麗な魔法が・・・・何故こんな事に・・・・」

 荒れ狂う風を目にし、茫然自失なナルキッススに、オルラカが掴みかかる。

「なにやってんだよ!ナルシス!おめぇ!制御できてねーじゃねーか!」
「そっそんな風に言われてもっ!!」
「オルラカ、今はナルキッススを責めるな!それよりも避難だ!ルビアナ嬢、ここから離れるんだ!」


 術者の手を離れ、暴れる風。ハンスは、飛んでくる石を弾きながら避難を促す。土壁を作り、逃げ遅れた人を守ろうと防御に徹するルビアナ。

「ルビちん!上!!上だョ!!!避けて!!」

 ルーファの叫びに上を見上げるルビアナ。その頭上に特大の岩が・・・・

「ルビアナ嬢!」
「あっああっ・・・・」

ーズッドオオオオオオーーーン!!!

「ルビちん!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はモブのはず

シュミー
恋愛
 私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。   けど  モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。  モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。  私はモブじゃなかったっけ?  R-15は保険です。  ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。 注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。

地味に転生できました♪~少女は世界の危機を救う!

きゃる
恋愛
イジメられッ子が異世界に転生。 誰もが羨む美貌とスタイルの持ち主であった私。 逆ハー、贔屓、告られるのは当たり前。そのせいでひどいイジメにあっていた。 でも、それは前世での話。 公爵令嬢という華麗な肩書きにも負けず、「何コレ、どこのモブキャラ?」 というくらい地味に転生してしまった。 でも、でも、すっごく嬉しい! だって、これでようやく同性の友達ができるもの! 女友達との友情を育み、事件、困難、不幸を乗り越え主人公アレキサンドラが日々成長していきます。 地味だと思っていたのは本人のみ。 実は、可愛らしい容姿と性格の良さでモテていた。不幸をバネに明るく楽しく生きている、そんな女の子の恋と冒険のお話。 *小説家になろうで掲載中のものを大幅に修正する予定です。

ヒロインを虐めなくても死亡エンドしかない悪役令嬢に転生してしまった!

青星 みづ
恋愛
【第Ⅰ章完結】『イケメン達と乙女ゲームの様な甘くてせつない恋模様を描く。少しシリアスな悪役令嬢の物語』 なんで今、前世を思い出したかな?!ルクレツィアは顔を真っ青に染めた。目の前には前世の押しである超絶イケメンのクレイが憎悪の表情でこちらを睨んでいた。 それもそのはず、ルクレツィアは固い扇子を振りかざして目の前のクレイの頬を引っぱたこうとしていたのだから。でもそれはクレイの手によって阻まれていた。 そしてその瞬間に前世を思い出した。 この世界は前世で遊んでいた乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢だという事を。 や、やばい……。 何故なら既にゲームは開始されている。 そのゲームでは悪役令嬢である私はどのルートでも必ず死を迎えてしまう末路だった! しかもそれはヒロインを虐めても虐めなくても全く関係ない死に方だし! どうしよう、どうしよう……。 どうやったら生き延びる事ができる?! 何とか生き延びる為に頑張ります!

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ
恋愛
正式名称「乙女ゲームの悪役令嬢(噛ませ犬系)に転生して、サド心満たしてエンジョイしていたら、ゲームのヒロインが鬼畜女装野郎だったので、助けて下さい」 乙女ゲームの世界に転生して、ヒロインへした虐めがそのまま攻略キャラのイベントフラグになる噛ませ犬系悪役令嬢に転生いたしました。 ヒロインに乙女ゲームライフをエンジョイさせてあげる為(タテマエ)、自身のドエス願望を満たすため(本音)、悪役令嬢キャラを全うしていたら、実はヒロインが身代わりでやってきた、本当のヒロインの双子の弟だったと判明しました。 申し訳ありません、フラグを折る協力を…え、フラグを立てて逆ハーエンド成立させろ?女の振りをして攻略キャラ誑かして、最終的に契約魔法で下僕化して国を乗っ取る? …サディストになりたいとか調子に乗ったことはとても反省しているので、誰か私をこの悪魔から解放してください ※小説家になろうより、改稿して転載してます

完全無欠なライバル令嬢に転生できたので男を手玉に取りたいと思います

藍原美音
恋愛
 ルリアーノ・アルランデはある日、自分が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界に転生していると気付いた。しかしルリアーノはヒロインではなくライバル令嬢だ。ストーリーがたとえハッピーエンドになろうがバッドエンドになろうがルリアーノは断罪エンドを迎えることになっている。 「まあ、そんなことはどうでもいいわ」  しかし普通だったら断罪エンドを回避しようと奮闘するところだが、退屈だった人生に辟易していたルリアーノはとある面白いことを思い付く。 「折角絶世の美女に転生できたことだし、思いっきり楽しんでもいいわよね? とりあえず攻略対象達でも手玉に取ってみようかしら」  そして最後は華麗に散ってみせる──と思っていたルリアーノだが、いつまで経っても断罪される気配がない。  それどころか段々攻略対象達の愛がエスカレートしていって──。 「待って、ここまでは望んでない!!」

異世界細腕奮闘記〜貧乏伯爵家を立て直してみせます!〜

くろねこ
恋愛
気付いたら赤ん坊だった。 いや、ちょっと待て。ここはどこ? 私の顔をニコニコと覗き込んでいるのは、薄い翠の瞳に美しい金髪のご婦人。 マジか、、、てかついに異世界デビューきた!とワクワクしていたのもつかの間。 私の生まれた伯爵家は超貧乏とか、、、こうなったら前世の無駄知識をフル活用して、我が家を成り上げてみせますわ! だって、このままじゃロクなところに嫁にいけないじゃないの! 前世で独身アラフォーだったミコトが、なんとか頑張って幸せを掴む、、、まで。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?

三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。 そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?

処理中です...