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第3話 美少女に絡まれたときの対処法

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「……どうしてこうなった……。」

 車の窓から外の景色をちらりと見下ろし、大きく溜息をつく。
 正確に言うと車ではなく馬車のようなもので、馬ではなく羽の生えた謎の生物が引いており、落ちたら死ぬ程度には上空を飛んでいたが、とにかく溜息をついた。

「何か言った?」

 目の前には赤いツインテールの少女が一人座っており、常にこちらに視線を向けている。
 人間にしか見えないし、何ならかなり可愛いが、もちろん悪魔である。

「逃げようなんて考えてないわよねー?」

 そう言って彼女はにっこり笑った。

 そう、僕は彼女に捕まっており、今ある場所へ連行されているのだ。

 一体どこで間違えて、こんなことになったのか。
 僕は目を閉じ、この特級悪魔との出会いを思い返した。


+++


「全く見たことないカオね。特級悪魔なら、私が知らないハズないんだけど。」 

 赤ツインテールの少女……リリスと呼ばれていたその悪魔は、訝し気に目を細めた。

 ものすごく顔が近い。
 はっきり言って見た目は美少女なので、脳がオイシイ状況に勘違いしてしまいそうになるが、目の前にいるのはかなりヤバイ悪魔である。


「み、見たことがないって? 僕を? 本当に?」

 何も言わないと怪しさが増していくばかり。
 僕は一つの賭けに出た。

 老人の話し方からして、特級会合は毎週開かれるようなものではない。
 特級とやらの数がそこそこいるなら、『会ったことはあるけどそんなに親しくはない』みたいなのがいるはずだ。

 つまり、そう。
 同窓会とかでたまに発生するあれだ。
 『あ~そういえばアンタみたいなのもいたような気がしなくもないかも知れないかも』
 みたいなのを狙う!


「本当に。そもそも特級なんて八人しかいないんだから、間違いようが無いでしょ。」

 八人か~~

 じゃあダメだなぁ~~~


 カズキの体は緊張で石のように硬直し、微動だにしなかったが、心の中では膝から崩れ落ちていた。
 試合終了のゴングも響いていた。


「おや、そちらの方は特級悪魔では無いのですか?」

 先ほどの老人の声で我に返る。

 まだ終わってはいない。

 確かに、世界で八人しかいないエリートのふりをするのは無理だ。無謀だ。アホだ。
 しかしながら、まだ僕が人間だとバレたわけではない。


 見つけ出すんだ。

 特級悪魔ではないが、人間でもないと思わせる、その一言を!
 唸れ!! 僕の灰色の脳細胞!!!


「いや、実は僕、特級ではないんですよ! 人間でもないんだけどね!」

 一番ダメな感じのが出た。

 カズキはけっこう本番に弱いタイプだった。


「あー……。わかった、わかったわ。」

 数秒の沈黙の後、リリスは片手で顔を覆いながら、軽く頭を振った。
 なお老人は首をかしげており、カズキは今までの人生を振り返っていた。

 今度ばかりは何の言い逃れもできない。
 どうも、特級のバカです。もういっそ殺せ。


「またそうやっておちょくって。いい加減後ろから刺されるわよ?」
「……ん?」

 何やら予想外の反応。

「どーせまた会合をサボるつもりだったんでしょ、アモンはいつもそうなんだから。」

 脳内走馬灯上映会を急遽中断し、思考を呼び戻す。
 何やらまた新しい勘違いが生まれた気がする。

「あ、アモン?」
「顔まで完全に変えられるのはアンタくらいでしょ。ま、それで逆に特定されるのは皮肉だけどね。はぁ~、フォル爺がいなきゃ完全に騙されてたわ。」

 後ろでは老人が静かに笑っている。

 なんてこった。特級の中に、完全に顔まで変えられるヤツがいたらしい。
 しかもその力を使って、仲間をからかっていたようでもある。

 そのアモンとやらに間違えられたのだ。
 これならば、その特級悪魔として、この場を切り抜けられるかも知れない。


 ――そんな淡い期待を引き裂くように、リリスの手が服の裾を固くつかんだ。

「じゃ、行くわよ。車待たせてあるんだから。」
「え。い、行くって、どこへ……?」

 振り返ったリリスは笑顔だったが、確実に怒っていた。

「会合に決まってんでしょうが!! アンタもう5回も連続で会合欠席してんのよ?! 連帯責任で怒られるこっちの身にもなりなさいよ!!」

 嘘だろアモン。どんだけ会議すっぽかしてんだよ。
 しかも連帯責任か。お怒りはもっともです。僕でも怒る。

 ……いや僕では無いんだけどなぁ~。

「い、いや、もちろん行くよ! ただ、ちょっと別ルートで行きたいと……」

 特級会合で何をやるのかは知らないが、そんな場所に人間が行っていいわけがない。
 どうにかここは逃げなければならない。
 幸い今僕は特級悪魔のアモン。多少のわがままは通るはずだ。

「ふぅん……また、健康に気を使って?」
「そ、そうそ……」
「それとも自分だけの抜け道を知ってるってやつ? シンプルに人を待たせてる? 瞬間移動の魔術を会得したなんてのもあったねー。さて……今回はどんな言い訳を使うのかしら?」

 リリスの顔は笑っていたが、目は全く笑っていない。

 ダメでした。わがままが通る隙は1ミクロンも無いです。
 アモン、お前……お前……。

「私と一緒に行くわよね?」

 裾を引っ張りながら、再びリリスが微笑む。
 その目は全く笑っていない。


「ア、ハイ、ノッテイキマス……」

 カズキは肩を落とし、半ば引きずり込まれる形で、車に乗り込んだ。


+++


 ――思い返してはみたが、やっぱりどうにもならなかった気がする。

 脱出不可能な監視付きの空飛ぶ車に、行先は特級悪魔の巣窟。
 カズキは、もう一度大きな溜息をついた。


 これは、詰んだかもしれない。
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