戦国姫 (せんごくき)

メマリー

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211話

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「しょうがない入り婿じゃて」

老人は、しゃがれた声で小首を振り、虚空を見つめる謙信を無視して、「あ~あ。こんなにして」と地面に転がっていた鬼斬り丸の柄を拾い上げ、パンパンと土を払った。

老人が鬼斬り丸にふっと息を吹きかけると、鬼斬り丸は目映いばかりの紫光を放って、元の姿を取り戻した。

謙信に老人が近づき、側に落ちていた鞘をとって、バチンと鬼斬り丸を鞘に納めた。

「お~い」

老人は呆ける謙信の顔面の前で手を振って声をかけた。

「しっかっりせ~い」

ハエでも追い払うように老人の手を払う謙信。

バチコーン

痛烈なデコピンを老人が謙信の額に放った。

「何するんだよ!!!」

おでこと顔を赤く染めて謙信が怒鳴る。

「しっかりせい!言うておろーが!!!この馬鹿もんが!!!」

「誰だか知らないけれど、ほっといてよ」

謙信は三角座りして、膝頭に顔を突っ伏した。

「そんなことでは、死んでいった虎御前が浮かばれんな」

落胆したように老人が首を振る。

謙信は咄嗟に立ち上がって、老人の両肩を掴んだ。

「やっぱりあれは、母上なの?」

涙を浮かべる謙信に、老人は静かに首を縦に振った。

「僕は、僕は、母上をこの手にかけたというのか?」

謙信は唇をわななかせて、両手の平に目を落とした。

「ラクシュミーは……」

消え入りそうな声で老人が話す。

「ラクシュミーである虎御前とアラクシュミーである穣姫は表裏一体。アラクシュミーが死ねば、必然的にラクシュミーは死ぬ。二人は同一なのだからな」

謙信の脳内がかき乱される。謙信は左右に大きく首を振って、ポニーテールに結った黒髪を大きく揺らし

「あなたの言っている意味が分からない!!」

目を吊り上がらせて噛みつく謙信に、老人は嘆息して言葉を続けた。

「虎御前と!!!穣姫が並んで座る姿をお前は見たことがあってか!?」

はっとして、謙信はその場にへたり込んだ。

幼き頃から、二人が同じ場所にいる所を見たことが無い。

「そ、そんな……」

「虎御前の影が穣姫なのだ。ゆえに、虎御前は為景に婚姻を迫られた時、自分の影である穣姫も共にと条件を出したのじゃ。虎御前いやラクシュミーは清廉潔白な善そのもの。醜悪が完全に排除された善の集合体である吉祥天女。一方、ラクシュミーの内にひそむ醜悪が具現化した存在がアラクシュミーである暗黒天女。善悪は表裏一体。穣姫は虎御前の影」

 「母上と伯母上は同一人物。……僕が落とした首は、やはり母上なのですね!」

声を震わせる謙信。

 「そうじゃ」

 老人が静かに頷く。
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