213 / 227
210話
しおりを挟む
「……どこかで。あっ」感嘆の声を上げる謙信の前に立つ男は、謙信が山寺で毎日のように目にしていた、仏像そのものだった。「毘沙門天様」ひとりでに言葉が漏れた。
毘沙門天は哀しそうな目を穣姫に向けた。
「ラクシュミー。帰ろう」
毘沙門天はそのいかつい貌からは、想像できないような優しい声で言うと、虎御前の体と首を、その太くたくましい腕で抱きかかえ、くいくいと指先を曲げ、雷電の死骸を念力でを持ち上げて、空飛ぶ戦車に乗せた。
謙信が毘沙門天に近づこうとしたが、体がびくとも動かない。
「母上!!!!」
涙を流して叫ぶ謙信を横目に、子ケロべロスがよっこいしょ、よっこいしょと空飛ぶ戦車に乗り込んでいる。
毘沙門天は、ひょいと子ケロべロスを抱え、動けないで地に張り付けられている謙信に優しく微笑み、再び強烈な白光を全身から放って去っていった。
自由がきくようになった体を起こして謙信は、光の洞窟の中に入ろうとしたが、目に見えない力で弾き飛ばされた。
「母上。母上!!!!!」
拳を地面に叩きつけて号泣する謙信。
―どう言うことだ?あれは確かに穣姫だった。母上に顔が変わったのも穣姫が僕を混乱させるためなのか?これは、穣姫の策略なのか?訳が分からぬ……
脳内に暗い靄がかかり、思考が停止していく。呆けたように、茫然としていると、一人の老人が、謙信を弾き飛ばした青い薄明りの中から現われた。白髪をウニのように逆立て、細身のワンレンズタイプ色眼鏡をかけた老人は、顎に蓄えた立派な白髭を撫でている。
毘沙門天は哀しそうな目を穣姫に向けた。
「ラクシュミー。帰ろう」
毘沙門天はそのいかつい貌からは、想像できないような優しい声で言うと、虎御前の体と首を、その太くたくましい腕で抱きかかえ、くいくいと指先を曲げ、雷電の死骸を念力でを持ち上げて、空飛ぶ戦車に乗せた。
謙信が毘沙門天に近づこうとしたが、体がびくとも動かない。
「母上!!!!」
涙を流して叫ぶ謙信を横目に、子ケロべロスがよっこいしょ、よっこいしょと空飛ぶ戦車に乗り込んでいる。
毘沙門天は、ひょいと子ケロべロスを抱え、動けないで地に張り付けられている謙信に優しく微笑み、再び強烈な白光を全身から放って去っていった。
自由がきくようになった体を起こして謙信は、光の洞窟の中に入ろうとしたが、目に見えない力で弾き飛ばされた。
「母上。母上!!!!!」
拳を地面に叩きつけて号泣する謙信。
―どう言うことだ?あれは確かに穣姫だった。母上に顔が変わったのも穣姫が僕を混乱させるためなのか?これは、穣姫の策略なのか?訳が分からぬ……
脳内に暗い靄がかかり、思考が停止していく。呆けたように、茫然としていると、一人の老人が、謙信を弾き飛ばした青い薄明りの中から現われた。白髪をウニのように逆立て、細身のワンレンズタイプ色眼鏡をかけた老人は、顎に蓄えた立派な白髭を撫でている。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
黒神と忌み子のはつ恋
遠野まさみ
キャラ文芸
神の力で守られているその国には、人々を妖魔から守る破妖の家系があった。
そのうちの一つ・蓮平の娘、香月は、身の内に妖魔の色とされる黒の血が流れていた為、
家族の破妖の仕事の際に、妖魔をおびき寄せる餌として、日々使われていた。
その日は二十年に一度の『神渡り』の日とされていて、破妖の武具に神さまから力を授かる日だった。
新しい力を得てしまえば、餌などでおびき寄せずとも妖魔を根こそぎ斬れるとして、
家族は用済みになる香月を斬ってしまう。
しかしその神渡りの神事の際に家族の前に現れたのは、武具に力を授けてくれる神・黒神と、その腕に抱かれた香月だった。
香月は黒神とある契約をしたため、黒神に助けられたのだ。
そして香月は黒神との契約を果たすために、彼の為に行動することになるが?
少年、その愛 〜愛する男に斬られるのもまた甘美か?〜
西浦夕緋
キャラ文芸
【和風BL】【累計2万4千PV超】15歳の少年篤弘はある日、夏朗と名乗る17歳の少年と出会う。
彼は篤弘の初恋の少女が入信を望み続けた宗教団体・李凰国(りおうこく)の男だった。
亡くなった少女の想いを受け継ぎ篤弘は李凰国に入信するが、そこは想像を絶する世界である。
罪人の公開処刑、抗争する新興宗教団体に属する少女の殺害、
そして十数年前に親元から拉致され李凰国に迎え入れられた少年少女達の運命。
「愛する男に斬られるのもまた甘美か?」
李凰国に正義は存在しない。それでも彼は李凰国を愛した。
「おまえの愛の中に散りゆくことができるのを嬉しく思う。」
李凰国に生きる少年少女達の魂、信念、孤独、そして愛を描く。
聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~
猫野 にくきゅう
ファンタジー
国を追放された聖女が、隣国で幸せになる。
――おそらくは、そんな内容の小説に出てくる
『嫌われ役』の王子に、転生してしまったようだ。
俺と俺の暮らすこの国の未来には、
惨めな破滅が待ち構えているだろう。
これは、そんな運命を変えるために、
足掻き続ける俺たちの物語。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
もしも織田信長が魔法を使い始めたら~現代知識とスキルを駆使して目指せ天下泰平~
有雲相三
ファンタジー
現代に生きる社会人の青年は、ひょんなことから戦国の世に転生してしまう。転生先は尾張の戦国大名の息子、吉法師。そう、後の織田信長である。 様々な死亡フラグ渦巻く戦国の世。転生した青年は、逞しく生き延び、天下泰平の世を目指そうと志を新たにするのだが……
「あれ、なんか俺の体、光ってね?」
これは戦国という荒波にもまれながらも、新たに手に入れたスキルを使い、宗教の力で天下泰平の世を目指す一人の青年の物語である。
猫の神様はアルバイトの巫女さんを募集中──田舎暮らしをして生贄になるだけのカンタンなお仕事です──
春くる与
キャラ文芸
生まれた時に『この子は偉い神様の加護をいただく』と予言された私、塚森里。
就職に失敗し、住んでいた家を火事で焼け出され。
右肩下がりの人生の果てに、流れ着いたのは亡くなった祖母が暮らしていた田舎の村。
そこで出会ったのは、謎のイケメン神主さん。
不思議なことが起こる神社。
悪いこと続きだった人生は、穏やかな田舎暮らしに癒されていく。
村に住む人々は、みな温かい。
料理上手なお隣のおばあちゃん。
ちょっとノリの軽いオネエ口調の世話人さん。
けれど、のどかな里山には働き口などないと諦めていた。
そこに仕事の話が舞い込む。
猫の神様を祀った神社で巫女のアルバイト。
だけど仕事の内容が神様の生贄になることって、それは時給いくらの仕事なの。
ちょっと不思議な田舎の村暮らし。
穏やかだけど、ドタバタと様々なことが起こる日常の物語。
たまゆら姫と選ばれなかった青の龍神
濃子
キャラ文芸
「帰れ」、と言われても母との約束があるのですがーー。
玉響雪音(たまゆらゆきね)は母の静子から「借金があるので、そこで働いて欲しい」と頼まれ、秘境のなかの旅館に向かいます。
そこでは、子供が若女将をしていたり働いている仲居も子供ばかりーー。
変わった旅館だな、と思っていると、当主の元に連れて行かれ挨拶をしたとたんにーー。
「おまえの顔など見たくない」とは、私が何かしましたか?
周囲の願いはふたりが愛し合う仲になること。まったく合わない、雪音と、青の龍神様は、恋人になることができるのでしょうかーー。
不定期の連載になりますが、よろしくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる