戦国姫 (せんごくき)

メマリー

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210話

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「……どこかで。あっ」感嘆の声を上げる謙信の前に立つ男は、謙信が山寺で毎日のように目にしていた、仏像そのものだった。「毘沙門天様」ひとりでに言葉が漏れた。

毘沙門天は哀しそうな目を穣姫に向けた。

「ラクシュミー。帰ろう」

毘沙門天はそのいかつい貌からは、想像できないような優しい声で言うと、虎御前の体と首を、その太くたくましい腕で抱きかかえ、くいくいと指先を曲げ、雷電の死骸を念力でを持ち上げて、空飛ぶ戦車に乗せた。

謙信が毘沙門天に近づこうとしたが、体がびくとも動かない。

「母上!!!!」

涙を流して叫ぶ謙信を横目に、子ケロべロスがよっこいしょ、よっこいしょと空飛ぶ戦車に乗り込んでいる。

毘沙門天は、ひょいと子ケロべロスを抱え、動けないで地に張り付けられている謙信に優しく微笑み、再び強烈な白光を全身から放って去っていった。

自由がきくようになった体を起こして謙信は、光の洞窟の中に入ろうとしたが、目に見えない力で弾き飛ばされた。

「母上。母上!!!!!」

拳を地面に叩きつけて号泣する謙信。

―どう言うことだ?あれは確かに穣姫だった。母上に顔が変わったのも穣姫が僕を混乱させるためなのか?これは、穣姫の策略なのか?訳が分からぬ……

脳内に暗い靄がかかり、思考が停止していく。呆けたように、茫然としていると、一人の老人が、謙信を弾き飛ばした青い薄明りの中から現われた。白髪をウニのように逆立て、細身のワンレンズタイプ色眼鏡をかけた老人は、顎に蓄えた立派な白髭を撫でている。
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