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178話
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お登勢は兼続に目を落として
「義清様をたらし込んで情報を武田に流す。それが、晴信の命令でした。風魔の雇い主である晴信の命令は、同時に風魔の命令。風魔の命令は絶対。それまで、晴信のおもちゃだったものが、義清のおもちゃになるだけのこと。くノ一の宿命と運命を恨むしかありませんでした。でも、義清様は人としての温もりを私にくれた。それで、風魔を捨てる決心がついたのです。ミイラ取りがミイラになっちゃいました」
お登勢は目尻に涙を浮かべて、てへと舌を出した。
「そうであったのか」
謙信は目を伏せたまま、お登勢の話を訊いた。
「私と義清様の間に子は生まれませんでしたから。この子が私たちの子ですよ。義清様も目に入れても痛くないという風に、可愛がっておられましたから」
「返す返す申し訳ない」
神五郎が頭を下げる。
「直江様。頭をお上げください。どなたとの間の子かは存じ上げませぬが、きっと高貴な方とのお子なのでしょう。生涯私はこの兼続を守り続けまする」
「私からも礼を言う」
謙信がお登勢に頭を垂れる。
「そんな、謙信様。勿体のうございます。加藤段蔵が妹、望月千代女。一世一代の大仕事でございます。見事成し遂げて見せましょう」
胸を叩く千代女の顔は、母の力強さを感じさせるものだった。
「ただ」
と、千代女が顔を曇らせる。
「義清様をたらし込んで情報を武田に流す。それが、晴信の命令でした。風魔の雇い主である晴信の命令は、同時に風魔の命令。風魔の命令は絶対。それまで、晴信のおもちゃだったものが、義清のおもちゃになるだけのこと。くノ一の宿命と運命を恨むしかありませんでした。でも、義清様は人としての温もりを私にくれた。それで、風魔を捨てる決心がついたのです。ミイラ取りがミイラになっちゃいました」
お登勢は目尻に涙を浮かべて、てへと舌を出した。
「そうであったのか」
謙信は目を伏せたまま、お登勢の話を訊いた。
「私と義清様の間に子は生まれませんでしたから。この子が私たちの子ですよ。義清様も目に入れても痛くないという風に、可愛がっておられましたから」
「返す返す申し訳ない」
神五郎が頭を下げる。
「直江様。頭をお上げください。どなたとの間の子かは存じ上げませぬが、きっと高貴な方とのお子なのでしょう。生涯私はこの兼続を守り続けまする」
「私からも礼を言う」
謙信がお登勢に頭を垂れる。
「そんな、謙信様。勿体のうございます。加藤段蔵が妹、望月千代女。一世一代の大仕事でございます。見事成し遂げて見せましょう」
胸を叩く千代女の顔は、母の力強さを感じさせるものだった。
「ただ」
と、千代女が顔を曇らせる。
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