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第138話
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「段蔵さん」景虎の優しい笑みと声が風に乗り、段蔵の耳に吹きかかる。
景虎が段蔵の顔をのぞき込み、「段蔵さん」ともう一度呼んだ。
ふ~。と段蔵は長い溜息をつく。
景虎は段蔵がかぶっている菅笠を外し、頬から首筋にかけて手を這わせた。
「この傷も、この傷も、全部僕を守るためにつけた傷だ。これも。これも」
雨の匂いを含んだ風がふわりと部屋に入り込んだ。
段蔵は雨の匂いに乗って、涙の跡が頬に残った景虎にそっと口づけをした。
景虎は身を硬直させて、止まっていた涙を再び頬に伝わせた。
段蔵の唇は景虎から離れようとはしなかった。
景虎が後退しようと力を入れても、段蔵がそれを許さない。
体がふわりと解放され、段蔵の片腕がゆっくりと景虎を包んだ。
段蔵は景虎の濡れた頬を指でそっと拭い、顔を近づけて、景虎の耳元で囁いた。
「好きだ」
「ダメ。ダメだよ。段蔵さん」
言葉とは裏腹に、景虎は段蔵の胸に顔を埋めた。
景虎が段蔵の顔をのぞき込み、「段蔵さん」ともう一度呼んだ。
ふ~。と段蔵は長い溜息をつく。
景虎は段蔵がかぶっている菅笠を外し、頬から首筋にかけて手を這わせた。
「この傷も、この傷も、全部僕を守るためにつけた傷だ。これも。これも」
雨の匂いを含んだ風がふわりと部屋に入り込んだ。
段蔵は雨の匂いに乗って、涙の跡が頬に残った景虎にそっと口づけをした。
景虎は身を硬直させて、止まっていた涙を再び頬に伝わせた。
段蔵の唇は景虎から離れようとはしなかった。
景虎が後退しようと力を入れても、段蔵がそれを許さない。
体がふわりと解放され、段蔵の片腕がゆっくりと景虎を包んだ。
段蔵は景虎の濡れた頬を指でそっと拭い、顔を近づけて、景虎の耳元で囁いた。
「好きだ」
「ダメ。ダメだよ。段蔵さん」
言葉とは裏腹に、景虎は段蔵の胸に顔を埋めた。
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