戦国姫 (せんごくき)

メマリー

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第54話

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「痛いなぁ。何も落とすことないじゃん。本当にお腹空いて動けないんだよ」

駄々をこねる虎千代に段蔵は、行李から干し芋を取り出して虎千代に手渡した。

 「またこれぇ。もう飽きた。違うの食べたい」

 寺を出発して初めの二日は旅籠に泊まったが、その後は山深く宿場町が無かった為、野宿が続いていた。

二人は丸二日干し芋しか口にしていなかった。

 段蔵はしょうがないなぁと言わんばかりの呆れ顔を浮かべ、小袖を上半身だけ脱いで川の中に入っていった。

段蔵は膝ぐらいの深さの場所で立つと水面を凝視し静止した。

 「銛(もり)も無いのにどうするのさぁ」

虎千代が巨石を背にだらしなく腰を下ろしたまま段蔵を罵倒している。

段蔵は虎千代を睨みつけ人差し指を口元に立てた。

虎千代はため息を漏らして茫然と段蔵を眺めた。

水面を見詰めたまま凝固していた段蔵が少し動いたような気がした。

虎千代は岩が昼間に吸い込んだ日の温もりを背で感じながら、腹の虫の合唱を聞いていた。

「投げるぞ」

段蔵の声が聞こえたかと思った瞬間顔に何か冷たいものが当たった。

虎千代が体を起こすと、一尺はある岩魚が地面で乱舞していた。

「空から岩魚が降ってきた!でかい!凄い!」

 虎千代はキラキラと目を輝かせた。

 「段蔵さん、何したの。どうやったの?」

 段蔵はふんと鼻を鳴らして、再び水面に目を向けた。

虎千代は固唾を呑んで段蔵の所作に目を凝らした。

段蔵の二の腕がピクリと動いたかと虎千代が思った次の瞬間、段蔵の手には既に岩魚が握られていた。

 「段蔵さんの手、見えなかった」

虎千代が感嘆の声を上げる間もなく、二匹目の岩魚が空から降ってきた。

「また降ってきた!凄い、凄いよ段蔵さん!僕にもやらせて」

「お前にはできないよ」

段蔵がジト目で虎千代を見た。

ボッと虎千代の負けじ魂に火がついた。

段蔵の見よう見まねで、水面に何度も手を突っこんで岩魚を追った。しかし、岩魚は虎千代をあざ笑うかのように、ひらりとすり抜けていった。

「この、この、この」

やけくそ気味に水面を叩く虎千代。
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