陽の光の下を、貴方と二人で

珂里

文字の大きさ
上 下
85 / 87
社会人編

挨拶

しおりを挟む

「真巳さん……本当に俺の格好、可笑しくないですか?やっぱりもっと落ち着いた色のスーツの方が……」

「もう~、大丈夫だってば!今日も隼人はメチャクチャ可愛いよ!」


緊張MAXの俺は、岡田のスーツの裾をギュッと掴んで何度も立ち止まる。


「可愛いって……可愛いじゃダメじゃないですか!もっと真巳さんに相応しくカッコいい感じじゃないと……やっぱり着替えてきます!」

「はいストップ~」


回れ右して帰ろうとした俺の肩をガシッと掴んで岡田が俺の動きを封じた。


「ここまで来て悪足掻きしないの。さあ、覚悟決めて中に入るよ」

「や、やだっ!ちょっと待って……まだ入れないで……!」


後ろからグイグイと肩を押して歩を進めようとする岡田を振り返り涙目で訴える。


「ちょ、隼人っ……そのセリフ、涙目で言うとエロく聞こえちゃうからヤメテ……ああ、こら!今は抱き付かないでっ!必死に我慢してるところなんだからっ!」


岡田が顔を赤くして立ち止まった隙にギューッと抱き付いて岡田の胸に顔を埋めた。
どうしてだか必死に俺を離そうとする岡田に俺も必死にしがみ付く。だって岡田の匂いを嗅いで気持ちを落ち着かせたいんだもん。
いつも一緒に居る岡田は俺の精神安定剤だ。一番心が安らぐし、癒される。好き。
岡田の胸に顔をグリグリと押し付けて何度も深呼吸していると、硬くなって存在を主張している岡田のモノが俺の腰にあたる。


「真巳さん?」

「も~……だから抱き付かないでって言ったのに~隼人がエロくて可愛いから我慢出来なくなっちゃったじゃん……」


天を仰ぎ赤い顔を手で覆っている岡田。そんな体勢で暫く動かない岡田は天を仰いだままブツブツ何か言っている。


「あ~……こんな可愛い隼人を今すぐベッドで愛したい……今日はもうこのまま帰っちゃってもいいかな……いいよね?うん、いい!よし帰ろう!」

「って、いいわけあるかっ!!」


帰ろう!と、俺の背中を押した岡田に、専務から激しいツッコミが入れられた。
頭を勢いよく叩かれた岡田は後頭部をさすりながら専務を恨めしそうに睨んでいる。


「痛いよ、宗君」

「そりゃ思い切り叩いてやったからな。ほら、お前たちの為に皆集まってるんだ。さっさと中へ入れよ」


同じマンションに住んでいるんだからと俺たちと一緒に来ていた社長と専務。
散々門の前で待たされてちょっとキレ気味な専務と苦笑している社長に促され、今までなんだかんだで渋っていた格調高い門の中へ、とうとう足を踏み入れてしまった。

この少し先に見える玄関の大きな扉を開ければ、もうそこには岡田家の方々がいるわけで……。
ああ、ヤバい。また緊張してきた。……でも、覚悟を決めないとな。今日は、なんとしても岡田家の皆様に俺を岡田のパートナーとして認めてもらわなければ。


頑張るぞ!と、意気込んで力む俺の腰を優しく抱いて引き寄せる岡田。


「大丈夫。隼人はいつも通りにしていればいいんだから。ね?」

「は、はい!」


俺を落ち着かせるようにフワッと柔らかく笑う岡田に、なんとか笑顔で返事をする。きっと、凄く不細工な笑顔だったと思うけど,さっきまでは笑顔も作れないくらい緊張していたから、ちょっとはマシになったかな。
岡田が隣にいてくれたら……岡田の隣にいる為なら、俺は何でもする。絶対、岡田の家族に認めてもらうんだ。



岡田のエスコートのもと、俺は意を決して開かれた扉の中へと歩み入った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

My heart in your hand.

津秋
BL
冷静で公平と評される風紀委員長の三年生と、排他的で顔も性格もキツめな一年生がゆっくり距離を縮めて、お互いが特別な人になっていく話。自サイトからの転載です。

【BL】キス魔の先輩に困ってます

筍とるぞう
BL
先輩×後輩の胸キュンコメディです。 ※エブリスタでも掲載・完結している作品です。 〇あらすじ〇 今年から大学生の主人公・宮原陽斗(みやはらひなと)は、東条優馬(とうじょう ゆうま)の巻き起こす嵐(?)に嫌々ながらも巻き込まれていく。 恋愛サークルの創設者(代表)、イケメン王様スパダリ気質男子・東条優真(とうじょうゆうま)は、陽斗の1つ上の先輩で、恋愛は未経験。愛情や友情に対して感覚がずれている優馬は、自らが恋愛について学ぶためにも『恋愛サークル』を立ち上げたのだという。しかし、サークルに参加してくるのは優馬めあての女子ばかりで……。 モテることには慣れている優馬は、幼少期を海外で過ごしていたせいもあり、キスやハグは当たり前。それに加え、極度の世話焼き体質で、周りは逆に迷惑することも。恋愛でも真剣なお付き合いに発展した試しはなく、心に多少のモヤモヤを抱えている。 しかし、陽斗と接していくうちに、様々な気付きがあって……。 恋愛経験なしの天然攻め・優馬と、真面目ツンデレ陽斗が少しづつ距離を縮めていく胸きゅんラブコメ。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

処理中です...