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社会人編
とある会社社長の呟き 4
しおりを挟むお盆休みから2週間が経ち、8月もそろそろ終わろうとしている日の昼下がり。
僕はオフィスの入り口で中の様子を伺っていた。
中では、真巳がパソコンに向かいバリバリと仕事をこなしている。
お盆休みが明けてからの真巳は気持ち悪いくらい上機嫌だった。
普段から仕事の出来る男だが、休み明けの真巳からはヤル気が漲っていて、いつも以上に仕事が捗っているようだ。
理由は一目瞭然。
真巳の左手薬指に光る指輪。そして真巳の隣のデスクに座り真剣な面持ちでパソコンを見ながら黙々と仕事をしている立花君の左手薬指にも、真巳とお揃いの指輪が光っている。真巳が事前に計画を練っていたプロポーズが成功したのだろう。
昨夜、兄から「やっと真巳が恋人を紹介してくれる。家族総出で出迎えたいから実家に寄れ」と、宗次郎と一緒に呼び出された。色々とコトが進展したらしい。
真巳は、僕の両親……真巳にとっては祖父母が海外から戻って海の別荘近くのホテルに長期滞在していると連絡を受け、立花君を海の別荘へ誘ったのだ。自分の祖父母に会わせる為に。
両親が別荘があるにもかかわらず近くのホテルにいるのは、母が広い別荘で家事をこなすのが年齢的にキツくなったから。母は掃除、洗濯、料理となんでも自分でやりたい人だから、ハウスキーパーやお手伝いさんを雇わない。まあ、父と2人だけでいたいっていうのもあるんだろうけど。
父も母の意見をいつも尊重する人で、昔からどんなに仕事が忙しくてもなるべく自分も家事を手伝ったりしながら家事全般を母に任せていた。まあ、要するに昔からラブラブだったってことかな。
そんな母が思い出深い海の別荘地に戻りたいと言えば、さすがにもう別荘の家事をするのは無理だと判断した父が、別荘近くのホテルのスウィートを1ヶ月貸し切ったのだ。
僕の両親は……特に母は僕が同性愛者だと告白しても受け入れ、宗次郎を紹介した時も歓迎してくれた。今ほどLGBTに世間が寛容ではなかった頃、両親が最大の理解者だということが僕たちにとってどれほど大きな心の支えとなっていたのかなんて言うまでもないだろう。僕と宗次郎が今まで頑張ってこれたのは両親のおかげと言っても過言ではない。
そんな両親を味方につけ、立花君の外堀を完全に埋めてからプロポーズをしようと、真巳は着々と計画を練っていた。
立花君が真巳からの猛烈なアプローチに負けて付き合い出し、今では立派なラブラブバカップルにまでなった2人。だが、立花君は真巳の岡田家での立場を慮り、いつでも身を引く気でいるらしい。
そんなことは立花君を執拗に愛している真巳には全部お見通しで。
立花君を逃すつもりの微塵もない真巳は、現役を引退したとはいえ実質上岡田家のトップである両親と会わせて立花君の考えを改めさせようと躍起になっていた。
そしてお盆休み、いざ別荘地へ!と意気込んで行けば、作戦を決行する前に既に立花君は両親と出会っていて、立花君の優しい人柄から両親にメチャクチャ気に入られていたんだとか。
想定外の事に真巳は驚いたと言っているが、結果オーライな出来事に真巳が悪い顔をしてほくそ笑んでいたのを僕は知っている。
まんまとプロポーズが成功した真巳は休みが明けてすぐ、立花君の実家に連絡を取ったらしい。
立花君をなんとしても自分の籍に入れたい真巳が立花君を説得して、絶縁状態の実家へ結婚をしたい旨を伝えた。しかし、立花君の父親に面会を拒否され「好きにしろ」と言われてしまい、立花君が傷ついていたと真巳が激怒していたのは僕の記憶にも新しい。その数日後、立花君の母親が父親に内緒でこっそりと連絡をよこし「幸せになりなさい」とひと言、涙ながらに立花君へ伝えたそうだ。
「まあ、一応そういうことで立花家の了解を得たので、今度の週末は岡田家に隼人を連れて行くよ」
夕方、仕事を終えひと息ついていた僕の元に、立花君の腰を抱いた真巳がやって来た。
立花君は恥ずかしそうにしながらも腰を抱かれたまま真巳に寄り添っている。可愛い。
「知ってる。僕と宗次郎にも召集がかかったからね」
「き、緊張します……緊張し過ぎて変な失敗とかしちゃったらどうしよう……」
今日はまだ火曜日。週末まであと数日はあるのに今から顔を青くしてオロオロしている立花君。怯えている小動物のようで可愛い。すぐ横に獲物を狙う猛獣……真巳がいるから気をつけて。
「フフッ、可愛い。大丈夫だよ。僕が毎晩隼人をトロトロにして緊張も溶かしてあげるから。……ね?」
「 っ!!」
愛しそうに立花君を見つめる真巳が、食い付きそうなくらいに立花君に顔を近づけて囁く。
青かった顔を一瞬にして真っ赤にした立花君は、うっとりと真巳を見つめ返して小さく頷いた。…………真巳、ほどほどにな?
「あ~ヤバい。隼人が可愛すぎてヤバい。隼人、早く帰ろ?早く帰って夜ご飯の前にすぐ隼人を食べたい。さ、早く早く!」
「あ……ちょ、ちょっと真巳さ……」
「じゃあね、俊君!また明日!」
ウキウキとしながら僕に手を振り去っていく真巳に苦笑しつつ手を振り返した。
「ほどほどにな」
「……努力する」
扉が閉まる直前、ニタリと笑んだ真巳を見て僕は確信した。
明日、オフィスでは朝まで真巳に抱かれた気怠そうな立花君が無意識に色気をダダ漏れにさせ、その隣で真巳が周りを威嚇しながら仕事をする姿が見られるんだろうと。
ーーまあ、それももう見慣れた光景か。
真巳の重たすぎる愛を、パートナーとなる立花君が受け止め続けてくれることを切に願いながら、僕も社長室の電気を消し、家路についた。
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