陽の光の下を、貴方と二人で

珂里

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社会人編

とある会社社長の呟き 3

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「すみませんでしたっ!」


……今、僕の目の前でテーブルに頭をぶつけそうな勢いで謝る立花君は可哀想なくらい顔面蒼白なうえに畏縮しまくっている。


「立花君、僕は君を怒りに来たんじゃないから頭を上げてほしいな」


頭を下げたままの立花君に声をかけると、おずおずとだが顔を上げてくれてホッとする。

午前中に片付けなければいけない仕事が早く終わり、お昼休憩にはまだ少し早い時間ではあるが宗次郎に声をかけて会社を出た。

出向いた先は甥である真巳の部屋で、インターホンを鳴らすと真巳の恋人である立花君がすぐに玄関の扉を開けてくれた。

会社を出る前に電話した時は寝起きだったらしくかなり動揺していたみたいだけど、ピシッと身なりを正して僕を出迎えてくれるあたり立花君の真面目な性格が伺える。……首元に隠しきれていないキスマークがチラホラ見えているのがなんとも残念な感じなのだけど。


「本当にすみません……病気でもないのに急に……しかも無断で休んでしまって……」


言いながら罪悪感からかどんどん項垂れていく立花君に思わず苦笑する。


「無断じゃないよ。真巳がいつもより早く出勤して立花君の有給休暇の申請をしていたし部署の上司にも報告していたからね」

「え……そ、そうなんですね……良かった」

「真巳から連絡きてない?真巳はメールしたって言っていたけど」

「あ~……社長からの電話で起きたので……そのあとも急いで服を着たりしていたから見ていません。すみません」


顔を赤くしながらも素直に報告してくれる立花君。ホント、いい子。


「真巳から聞いたよ。昨日はちょっと大変だったんだってね?もしまた何かあったら僕も全力で立花君の力になるから、遠慮せずにいうんだよ」

「……ありがとうございます」


真巳に以前から話を聞いていた立花君のが遂に立花君の居場所を突き止めて会社まで来てしまったらしい。
真巳が色々と手を回して地方に飛ばしたとかなんとか言っていたのにそれでも立花君を諦めなかったのか……真巳の怒り狂う姿が目に浮かぶな。ここまでくるともう真巳も容赦なくその元彼を排除しにかかるだろう。可哀想に。地方で大人しくしていれば良かったものを。来週あたりにはもう日本にいないだろうな……。

そんな事を考えていたせいか無言のまま暫くジッと立花君を見つめていたみたいで、立花君が気まずそうにモゾモゾとしている。なんか小型犬みたいで可愛い。


「真巳はどう?我儘言ってない?」

「はい。いつも優しいです」

「本当に?無理言ってるんじゃない?」


チラッと首元に目をやると、立花君は顔を真っ赤にしながらもフルフルと首を横に振った。


「あのっ、本当に優しくてっ……寧ろ俺の方が無理言ってるっていうか強請っちゃうっていうか……真巳さんはいつもそれに応えてくれるんですけど、その、ちょっと激し過ぎて俺がそれについていけてないだけで今日の朝も……」

「うん立花君、一旦落ち着こうか」


アワアワと必死に話しだした立花君に待ったをかける。ここで赤裸々に君達の性事情を聞かされても困るから。真巳がそっちの面でもヤバイ奴なのはもう十分に分かってます。


「真巳が立花君に優しいならいいんだけど、もし体が辛かったらちゃんと言うんだよ?体への負担は受けの方が大きいんだからね」

「はい。体は辛くないです。…………でも、これから先、今までみたいに真巳さんから求められなくなっちゃったらどうしようって……そう考えると胸が苦しくて辛いですけど……」

「あー、それは絶対にないと思うから安心して」


真巳に限ってそれはないな。そう思って言ったのに、立花君はそれが不服だったみたいで。少し不貞腐れたようにムスッとして僕を見る。


「……絶対なんて分からないじゃないですか。俺は、あんなにカッコ良くて優しくて超ハイスペックな真巳さんがなんで俺なんかを好きになってくれたのか未だに不思議でしょうがないですし……」


……立花君……、立花君の大好きな真巳は立花君が好き過ぎてハイスペックを拗らせたヤンデレになっちゃってるからね。僕からしたら、かなり残念な部類の人間だよ。


「僕は真巳の愛が重過ぎて立花君に逃げられるんじゃないかと心配してるけどね」

「そんなっ!それこそ絶対にありませんっ!」


バンっとテーブルに両手をついて立ち上がる立花君は、自分でも思ったより大きな声が出ちゃったみたいで、僕よりも目を丸くして驚いていた。


「あ、す、すみません」

「フフッ、大丈夫だよ。それだけ真巳のことを好きでいてくれてるって事だもんね。ありがとう」


顔を真っ赤にしてストンと椅子に座り直す立花君が可愛くて笑みがこぼれてしまう。と、今度はそんな僕を見つめていた立花君がフワリと微笑んだ。


「社長は笑うと本当に真巳さんとそっくりですよね」

「え~そう?」

「はい」


立花君は嬉しそうに、本当に幸せそうに笑っていて、真巳を愛してくれているのがその表情から凄く伝わってくる。
真巳は本当に良い子を捕まえたなぁ、なんて僕も嬉しくて2人でクスクスと笑っていたら、ふと人の気配を感じてそちらに目を移すと……。
リビングの入り口で額に青筋を立てながら器用に笑みを浮かべている真巳が立っていた。


「……2人とも、とっても楽しそうだね?」

「ま、真巳……」

「真巳さんっ!」


青褪める僕とは対照的に満面の笑みで迎える立花君。
真巳は僕を一瞥した後、スッと立花君の横まで来て顔中にキスをしまくっている。


「体はどう?まだ寝てなくて平気?」

「はい、もう大丈夫です。色々してもらったみたいですみません。ありがとうございました」

「フフッ、僕が隼人に無理させたんだから謝らないでよ。あ~もう可愛い」

「本当にな。お前はもっと自制しろよ」


僕の前だというのに構わず甘い雰囲気を醸し出す真巳をジトッと見て言うと、真巳が鋭く睨み返してきた。……おいおい、立花君とは随分態度が違うじゃないか。


「僕、昼休憩になって速攻で帰って来たはずなのに、何で俊君がもう居るの?っていうか、何で隼人と2人きりで会ってるのさ」

「ちょっと真巳さん!社長は心配して来てくださったんですよ!」


怒りモードの真巳の腕にしがみ付いて立花君が必死に宥めようとしてくれている。


「真巳が立花君に無理強いしているなら大変だと思って来てみたんだけどね。でもどうやらそうじゃないって分かって安心していたところだ。ガッツリヤるなら週末にしておけよ。どうせ毎日ヤってるんだろ?」

「勿論」

「だったら平日はほどほどにな」

「…………努力する」


メチャクチャ不満そうな真巳と、真巳の腕にしがみ付きながら顔を赤くしてコクコクと頷く立花君。
そんな2人に苦笑しつつ、席を立った。


「俊君と何であんなに楽しそうに笑ってたの?」

「あ~、フフッ。さっきね、社長の笑った顔が真巳さんとそっくりで。それでなんだか嬉しくなっちゃって……んんっ」

「……はぁ、もう可愛い……」


リビングを出る際に後ろからそんな会話が聞こえてしまって、もう後ろを振り返れない。絶対キスしてるだろ。


「おーい、真巳ー。昼休憩が終わる前までには会社に戻って来いよー」


玄関の扉を閉める前に部屋へ向かって一応声をかけてみたけど、どうせ聞こえてないんだろうなぁ。

ハァ、と溜息を吐きながら僕は静かに扉を閉めた。





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