陽の光の下を、貴方と二人で

珂里

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社会人編

執着

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「あ、明日までに目を通しておかないとダメな書類を机に置いてきちゃった」


仕事終わりの会社の1階ロビーで、ガサゴソと鞄の中を探る岡田。


「じゃあ俺、先に帰って夜ご飯の準備をしてますね」


そう言って、もうすぐそこの自動ドアへ向かおうとした俺の腕をガシッと掴み、岡田が俺の動きを止めた。


「ダメ。1人で行かないで。ここで待ってて。すぐ来るから」

「え?でも……」

「ダメったらダメ。僕が1人で帰りたくないの。すぐ来るから、ね?」

「分かりました。待ってます」


クスクス笑いながら言う俺にニッコリ笑顔を返して岡田は「絶対待っててよ」とバタバタとエレベーターへと走って行った。

あー、今日はカッコ可愛い。1人で帰りたくないとか甘えん坊かよ。

岡田が見えなくなってもエレベーターの方を見ながらニマニマとしていた俺は後ろから近付いてくる気配に全く気付かなかった。


「隼人」


名前を呼ばれ、反射的に振り返った俺は目を瞠る。


「橋本先輩……」


ーーえっ……なんでここに……?


微笑みながら歩み寄る橋本に恐怖を感じた俺は後退りして距離を取ろうとしたのだが、そんな俺の行動に橋本は気分を害したらしくスッと無表情になった。

ーー怖い。

恐怖で体が動かなくなってしまった俺の目の前にまで橋本が迫る。そして俺の手首を掴むとそのままズルズルと引き摺り、出口まで向かおうとした。
このままではヤバい気がして俺はなんとか橋本の手を振り払って立ち止まったのだが、振り返った橋本にまた強く手首を掴まれてしまう。手を振り解こうと必死な俺を引っ張って強引に体を寄せると、橋本は不気味な笑みを浮かべて囁いた。


「やっと1人になったな。久しぶりに俺とゆっくり話そう」

「……は?アンタと話すことなんて何もない」


眉間に皺を寄せて橋本から体を離すも、すぐにまた引き寄せられ腰を抱かれてしまった。さっきから橋本に触られると嫌悪感がすごい。
体を反らして拒否する俺の態度に更に気分を悪くしたのか、橋本がスッと目を細めて俺を見つめた。


「騒がれたくなかったら大人しくついて来いよ。ここ、岡田の親族がやってる会社だろ?ここで俺が騒ぎなんて起こしたらアイツに迷惑がかかるんじゃねえの?この前は仕事終わりにアイツと手を繋いで帰ってたもんなぁ?」

「っ!!」


……コイツ、なんでそんな事知ってるんだ?俺の職場まで来て……俺の行動を知ってて…………って、え?何?……ストーカー?マジで?自分から振った相手に、するか?普通……。


俺はドン引きつつもどう対処するのが一番良いのか考えを巡らせた結果、ここは一旦橋本に従った方が良いだろうという結論に達し、大人しく橋本について外に出ることにした。

橋本に掴まれている手首が痛い。俺が逃げ出さないようにする為かかなり強く握られていて俺の中で恐怖心はかなり増しているが……外に出ても大通りに面しているし、まだ明るいから人通りも多いはず。橋本も下手な真似はしないだろう。……多分。

そう思って会社出入り口の自動ドアを出た直後、橋本に掴まれていない方の手を後ろからガシッと掴まれて動きを止められた。


「何処に行くの?」


橋本が忌々しそうにチッと舌打ちをする。

後ろを振り返れば、それはそれは綺麗な笑みを浮かべる岡田が、橋本をジッと見据えていた。



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