陽の光の下を、貴方と二人で

珂里

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社会人編

ホテル

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翌日。


ホテルに到着した俺は昨日に引き続き口をポカンと開け、間抜け面を晒していた。

でも、それも今日は俺だけじゃない。
なぜなら俺の隣で立ち尽くしている義兄も、俺同様に口を開けて呆けているから。


「は、隼人君?僕は葵に泳ぐ練習をするって聞いていたんだけど……聞き間違えちゃってたのかな?」

「……聞き間違えてないと思うよ」

「そうか……。ここが巷で有名な高級ホテルに見えるのは……僕の見間違いなのかな?」

「……見間違えてないと思うよ」

「そうか……そうだよね……良かった。……アハハ~……」


ああ、義兄がキャパオーバーしてしまったようだ。
呆然としている俺達の側では葵と裕翔君がキャッキャッと楽しそうに手を繋いでホテルに入って行こうとしている。
岡田とお兄さんも平然と入って行ってしまうから俺達は慌ててその後を追った。

ロビーに入ればホテルの支配人らしき人に丁重に迎えられ、俺達はプールまで来たのだけれど……。


「……え?ホテルのプールってこんななんですか?」


水着に着替えてプールサイドまでやって来た俺は驚愕して思わず足を止めてしまった。


「うん?大体こんなんじゃない?」

「へ、へえぇ、そうなんですか……」


キョロキョロと周りを見渡す俺の腰を抱いて岡田がクスクスと笑っている。

だって、こんなに凄いとは思っていなかったから。

目の前には50メートルのプールがドーンとあり、その横には子供でも入れそうな浅いプールがある。そのプールも25メートルくらいの広さはあるだろう。
そしてここの目玉とも言えるメインプールには大きなスライダーが設置されていて物凄く迫力がある。

ホテルとか、ましてやホテルのプールになんてそうそう来ない俺は驚きっぱなしで、そんな俺をうっとりと見つめる岡田に「可愛い」と頬にチュッチュッとキスされまくってしまった。……うぅ、恥ずかしい。


「ねえ隼人、絶対にそのTシャツ脱がないでね?」

「え?何でですか?」

「何ででもっ。いい?分かった?」

「はい……?分かりました」


俺の腰を抱いたまま岡田が念を押すようにしつこく言ってくるから俺も頷いてみせたけど、何でだろう?
プールサイドに行く前に更衣室で水着に着替えた俺は岡田によって強制的にTシャツを着せられた。べつに着てるぶんには何も問題はないが、絶対に脱ぐなと言われれば首を傾げてしまう。

そんな俺の手を引いて、岡田は子供達が待つ浅い方のプールへと歩き出した。





「すごいよ、あおくん!もうかおをつけられるようになったね!」

「えへへ、うれしい!ゆーくんのおかげだよ。ありがとう!」


プールの中で凄い凄いと拍手をする裕翔君に満面の笑みを見せる葵。

特訓をすること数十分。だいぶプールの水に慣れた葵がなんとか水に顔をつけられるようになってきた。


「ボクのそばにね、ゆーくんがいてくれるとおもったらね、あんしんしてみずもこわくなくなっちゃったんだよ?ほんとにゆーくんのおかげなの!ありがとう!」


裕翔君の手をギュッと握り嬉しそうに頬を染めて笑う葵に、裕翔君は案の定顔を真っ赤にして悶えている。


「あああぁぁ、かわいい~!!すきっ!あおくんすき!だいすきっ!!」

「えへへ、ボクもゆーくんだいすきっ!」


お互いの親の目の前で好きと言い合う子供達。可愛い。
お兄さんは微笑ましそうにその光景を見守り、義兄も笑って……笑って?…………引きつった笑顔でそれを見守っていた。


「ね、ねえ隼人君。この好きはまだ恋愛感情の好きじゃないよね?まだ違うよね?まだウチの子、お嫁にいかないよね?」


…………お嫁って。そっちの心配かい。そもそも葵は男の子だし。お嫁じゃないし。義兄的には我が子が同性同士でとかは有りなんだな。…………まあ、俺を受け入れてくれてる時点で有りなのか。……でも、自分の息子がとか考えるとやっぱり複雑なのかな、とか色々思っちゃったりもしたけど。義兄は大丈夫みたいだ。
この子達がこの先どうなるかなんてまだ全然分からないけど、もしそうなったとしても義兄と一緒に見守っていけたらいいな。

そんな思いを込めて、俺はショックを受けている義兄の背中をポンポン、と叩いて慰めたのだった。




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