陽の光の下を、貴方と二人で

珂里

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社会人編

独占欲

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次の日。定時終わりに岡田と会社を出ると、見慣れた黒塗りベンツが目の前に。
ウィーンと窓が開いて、車の中から裕翔君と葵が「おーい!」と満面の笑みで手を振っている。


「あれ?なんでもう葵がいるの?」


俺が首を傾げながら近付くと裕翔君の横から岡田のお兄さんがヒョコッと顔を出した。


「私が葵君パパに連絡して保育園まで裕翔と葵君を迎えに行ったんだよ。ちゃんと保育園の許可も葵君パパに取ってもらってから行ったので安心してね」

「なんか色々とすみません」

「いやいや、気にしないで。今日は珍しく仕事が早く片付いて家に帰ったら裕翔に早く葵君に会いたいとせがまれてね。昨日隼人君に連絡先を聞いておいて良かったよ」


車のドアが開いたので岡田と乗り込むと、座席には中身がパンパンに詰まっていると思われる小さなリュックが2つ目に入った。


「この荷物は?」


岡田も気になったみたいでリュックをポンポンと叩いている。


「ああ、それ?それは子供達のお泊まりセットだよ」

「お泊まり?どこに?」

「真巳のマンション」

「……は?」


何も聞かされていない俺と岡田は目を丸くして顔を見合わせた。
今日は葵と裕翔君が遊ぶ約束をしていたが、お泊まりなんて言ってなかったよな?


「葵君を迎えに行ったらさ、2人が車中でお泊まり会をしたいねって盛り上がっちゃって、今日は金曜日だしいいよってOKしたまでは良かったんだけどね。葵君はあまり慣れない場所だと寝られないっていうし、かといって葵君の家は葵君パパが明日もお仕事らしいから迷惑をかけられないし。そこで思いついたのが真巳のマンションだったってわけさ」

「いやいや、そこでなんで僕の家になるんだよ」


怪訝そうに眉間に皺を寄せる岡田にお兄さんは「分かってないなぁ」なんて言いながら呆れ顔で肩を竦める。


「葵君はもう何回も隼人君の家へ行ったことがあるんだろう?だったら隼人君の家の家具やその配置までソックリそのままな真巳の家に泊まった方が葵君だって安心するだろう?」

「だから、それでなんで僕の家にお泊まりになるわけ?」

「お前さぁ、自分の独占欲の強さをちゃんと理解してるか?だったら今日、隼人君の家に子供達がお泊まりするとしよう。お前の溺愛する隼人君の家に、甥とはいえ男が入り込んで好き勝手して、夜は隼人君のベッドで寝るんだぞ?」

「……お兄さん、言い方……」


俺は葵と裕翔君が遊ぶんだったら部屋を好きに使ってくれて構わないし、勿論ベッドだって子供達に使ってもらうつもりだ。

いくらなんでも子供相手にそこまで独占欲は強くないだろうと岡田を見れば、顎に手を当てて悩ましいと言わんばかりに顔を顰めていた。


「それは嫌かも……」


ーー嫌なんかい。独占欲丸出しだな、おい。…………まあ、嬉しいけど。


顔を顰めていた岡田がハッと何かに気付いたようで俺にヒソヒソと囁く。


「隼人、大変だよ!子供達がお泊まりすると金曜日恒例の朝までイチャイチャエッチが出来ない!僕の週末の楽しみが……」


そんなバカな事をイケメンボイスで耳元に囁かれた俺は思わず岡田の腹をグーで殴っていた。


「はーくん、どうしたの?みみまでまっかだよ?」

「ほんとだー。だいじょうぶ?あつい?」

「……大丈夫」


真っ赤な俺を心配そうに覗き込んでくる子供達の純真な瞳を直視出来なくて、赤い顔のまま俯く。
岡田はそんな俺の頬に「可愛い」と言いながらチュッチュッとキスしまくって、お兄さんに「子供達の前でやめなさい」と怒られている。


「だって可愛いんだもん。ねー?」

「うん。はやとくんとあおいくんはかわいいよ」

「はーくん、かわいい」

「まあ隼人君が可愛いのは否定しないが」


…………やめて。……俺の周りが俺に超絶甘すぎる。


歩いて数分のマンションに車が到着するのを今日ほどこんなにも遅く感じたことは無かった。
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