陽の光の下を、貴方と二人で

珂里

文字の大きさ
上 下
46 / 87
社会人編

チビ達の出会い

しおりを挟む

岡田家を訪れてから、俺と岡田は毎日裕翔君から呼び出しがかかり岡田家で夜ご飯を一緒に食べている。
お兄さんが仕事と奥さんのお見舞いで忙しくてあまり……というかなかなか早くには家に帰れないらしい。
それでもあの立て篭もり事件から、お兄さんは家にいる時は積極的に裕翔君に絵本を読んだり一緒に遊んだりとスキンシップをはかっているみたいで、裕翔君の表情は明るくなった。

そして今日も定時で上がると、当たり前のように会社の前に黒塗りベンツがとまっている。
いつもなら有り難く乗り込むところだが、今日はそうもいかなかった。


「どうした?」

「すみません。さっき義兄から連絡があって、保育園まで葵のお迎えをお願いされたので今日は行けないんです」


ペコリと頭を下げて詫びた後、岡田を見送ろうとしたのだが強引にベンツの中へと押し込まれる。


「ちょっと真巳さん、俺の話し聞いてました?」

「勿論聞いてたよ。だからこのまま葵君も迎えに行って一緒に行けばいいだろ?確か葵と同い年だし、裕翔もきっと喜ぶよ」



…………と言われ、そういえば裕翔君に葵の話をした時に興味がありそうだったし、いいのかな?なんて思っていた俺は今、猛烈に反省していた。


「は、はーくん……どこに行くの?」


顔面蒼白にしながら俺の腕にしがみ付いてプルプルと震えている葵の頭を大丈夫だよ、と撫でて落ち着かせる。

……失敗した。超人見知りの葵が、こんな黒塗りベンツに初めて乗って、しかも知らない場所に行くとか、普通に考えても怖がるのは当然だったのに。


「ごめんね、葵。真巳さんの甥の裕翔君が俺達を待ってるんだ」

「ゆーと、くん?」

「そうだよー。僕の甥っ子君。今ね、お母さんが入院しちゃってるし、お父さんは仕事で忙しいしで家に誰もいないんだよ。だから僕達が行くんだけど、葵君も一緒に行ってお友達になってあげてくれないかな?」

「……おうちに、だれもいないの?」


俺にギュッとくっ付きながらも葵が頷く岡田を心配気に見上げている。
葵も姉さんが死んでしまい、家に1人でいる寂しさは身をもって痛感しているのだ。裕翔君の現状が他人事には思えなかったのだろう。


「…………わかった。ぼくもいっしょにいくよ」


暫く考えていた葵は、俺にくっ付いたまま小さく頷いた。
葵が人の痛みの分かる子に育ってくれていて嬉しい。胸が熱くなり、ぎゅーっと思い切り葵を抱き締めてしまう。


「はーくん、いたいよー」


俺が抱き締めたことで少し安心したのか、葵がクスクスと笑いながら見上げてくる。うん、安定の可愛さだな。


「僕も入れて~!」

「きゃ~」

「ちょっと真巳さん、苦しいから!」


ギュウギュウと抱き締め合う俺達の上から岡田がガバッと抱き付いてきた。
俺と岡田に挟まれて葵が嬉しそうに声を上げる。


「着きましたよー」


俺達が後ろの席でドタバタしているうちに到着したらしく、平林さんに声をかけられ後部座席のドアが開けられた。


葵が再び固まってしまったが「大丈夫だよ」と手を引いて車から降ろす。
葵のもう片方の手を岡田が繋いでニコリと笑えば葵も少し表情を和らげて微笑んだ。


岡田が玄関の扉をガラリと開けると、すくさま奥から走ってくる音が聞こえてきて裕翔君がバッと姿を見せる。


「まーくん、はやとくん、おかえり!!」

「フフッ、ただいま~裕翔」

「お邪魔します」


勢いよく現れた裕翔君に驚いて思い切り肩をビクリと震わせる葵はちょっと涙目になっている。


「あれ?まーくん、それだれ……」


目を潤ませ震えている葵に気付いた裕翔君が葵に目を向け、そして、固まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

あんなに堅物だった俺を、解してくれたお前の腕が

いちごみるく
BL
小学二年生の頃からずっと一緒の幼馴染。 気づけば、こんなに好きな気持ちが大きくなっていた…。 普段は冷静でしっかり者、文武両道で完璧なイメージの主人公・冷泉優。 しかし、優が恋した相手は、幼馴染かつ同じ中学で同じ部活に所属する天然小悪魔系イケメンの醍醐隼。 優は隼の無意識な色気に翻弄されるばかりの毎日だったが、ある夜、ついに気持ちを固めて隼に告白! すると、隼が出したまさかの答えは……? ※なお、『その男、人の人生を狂わせるので注意が必要』は主人公・隼がメインのストーリーです。優との絡みは薄めですが、是非こちらも見て頂けたら嬉しいです。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...