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社会人編
チビ達の出会い
しおりを挟む岡田家を訪れてから、俺と岡田は毎日裕翔君から呼び出しがかかり岡田家で夜ご飯を一緒に食べている。
お兄さんが仕事と奥さんのお見舞いで忙しくてあまり……というかなかなか早くには家に帰れないらしい。
それでもあの立て篭もり事件から、お兄さんは家にいる時は積極的に裕翔君に絵本を読んだり一緒に遊んだりとスキンシップをはかっているみたいで、裕翔君の表情は明るくなった。
そして今日も定時で上がると、当たり前のように会社の前に黒塗りベンツがとまっている。
いつもなら有り難く乗り込むところだが、今日はそうもいかなかった。
「どうした?」
「すみません。さっき義兄から連絡があって、保育園まで葵のお迎えをお願いされたので今日は行けないんです」
ペコリと頭を下げて詫びた後、岡田を見送ろうとしたのだが強引にベンツの中へと押し込まれる。
「ちょっと真巳さん、俺の話し聞いてました?」
「勿論聞いてたよ。だからこのまま葵君も迎えに行って一緒に行けばいいだろ?確か葵と同い年だし、裕翔もきっと喜ぶよ」
…………と言われ、そういえば裕翔君に葵の話をした時に興味がありそうだったし、いいのかな?なんて思っていた俺は今、猛烈に反省していた。
「は、はーくん……どこに行くの?」
顔面蒼白にしながら俺の腕にしがみ付いてプルプルと震えている葵の頭を大丈夫だよ、と撫でて落ち着かせる。
……失敗した。超人見知りの葵が、こんな黒塗りベンツに初めて乗って、しかも知らない場所に行くとか、普通に考えても怖がるのは当然だったのに。
「ごめんね、葵。真巳さんの甥の裕翔君が俺達を待ってるんだ」
「ゆーと、くん?」
「そうだよー。僕の甥っ子君。今ね、お母さんが入院しちゃってるし、お父さんは仕事で忙しいしで家に誰もいないんだよ。だから僕達が行くんだけど、葵君も一緒に行ってお友達になってあげてくれないかな?」
「……おうちに、だれもいないの?」
俺にギュッとくっ付きながらも葵が頷く岡田を心配気に見上げている。
葵も姉さんが死んでしまい、家に1人でいる寂しさは身をもって痛感しているのだ。裕翔君の現状が他人事には思えなかったのだろう。
「…………わかった。ぼくもいっしょにいくよ」
暫く考えていた葵は、俺にくっ付いたまま小さく頷いた。
葵が人の痛みの分かる子に育ってくれていて嬉しい。胸が熱くなり、ぎゅーっと思い切り葵を抱き締めてしまう。
「はーくん、いたいよー」
俺が抱き締めたことで少し安心したのか、葵がクスクスと笑いながら見上げてくる。うん、安定の可愛さだな。
「僕も入れて~!」
「きゃ~」
「ちょっと真巳さん、苦しいから!」
ギュウギュウと抱き締め合う俺達の上から岡田がガバッと抱き付いてきた。
俺と岡田に挟まれて葵が嬉しそうに声を上げる。
「着きましたよー」
俺達が後ろの席でドタバタしているうちに到着したらしく、平林さんに声をかけられ後部座席のドアが開けられた。
葵が再び固まってしまったが「大丈夫だよ」と手を引いて車から降ろす。
葵のもう片方の手を岡田が繋いでニコリと笑えば葵も少し表情を和らげて微笑んだ。
岡田が玄関の扉をガラリと開けると、すくさま奥から走ってくる音が聞こえてきて裕翔君がバッと姿を見せる。
「まーくん、はやとくん、おかえり!!」
「フフッ、ただいま~裕翔」
「お邪魔します」
勢いよく現れた裕翔君に驚いて思い切り肩をビクリと震わせる葵はちょっと涙目になっている。
「あれ?まーくん、それだれ……」
目を潤ませ震えている葵に気付いた裕翔君が葵に目を向け、そして、固まった。
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