31 / 87
社会人編
手作り弁当
しおりを挟む翌日。一日遅れで再び岡田の家へ家事を教えに来た俺は、ここでも岡田のハイスペックぶりを目の当たりにすることとなった。
俺の横にピタリと張り付いている岡田は、一度お手本を見せればササッと俺以上に上手くやってみせる。そしてそれを俺が褒めれば嬉々としてそれ以上の成果を上げた。
最早、掃除洗濯は俺以上にそつなくこなし俺が教えられることは何も無い。
……岡田よ。俺が教えなくてもアンタなら出来ただろ。
「もう掃除洗濯は完璧ですね。明日からは料理にしましょうか。何か作りたいモノはありますか?」
「……僕、料理はしない」
今日の頑張ったご褒美として夜ご飯にオムライスをリクエストされ、それを幸せそうに食べた岡田と今は食後のコーヒータイム。
ほっと一息ついた俺は、料理初心者の岡田へ手始めに教える料理をあれこれ考えながら質問してみたのだが、まさかの拒否。
「なんでですか。先輩ならすぐに俺なんかよりも美味しい料理を作れるようになりますよ」
料理だって、自分で作れるようになった方がいいじゃないか。
コンビニ弁当よりもずっといいと思うけど。
首を傾げる俺を見て岡田は不貞腐れたようにプクッと頬を膨らませる。
え、何それ。可愛い。
「俺なんかって言うのやめてよ。僕は立花の作ってくれるご飯がこの世で一番美味しいと思ってるんだから」
「え、あ……ありがとうございます……」
ヤバイ。メチャクチャ嬉しいんですけど。
「フフッ、可愛い。真っ赤になってる立花も美味しそうだね」
「なっ……!」
クスクスと楽しそうに笑って俺の頬を岡田がスルリと撫でるから益々顔が熱くなってしまう。
「それに、僕のご飯はこれからもずっと立花が作ってくれるんでしょ?だから僕は作らなくていいんだもーん。ね?」
「うっ……はい」
"もーん"って、可愛いかよ。……ああ、本当にヤバイ。岡田にキュンキュンし過ぎてヤバイだろ、俺。
階下の我が家に戻った俺はキッチンに立ち食材と睨めっこをしていた。
これも、惚れた弱みというやつなのだろうか。俺ばかりがどんどん岡田を好きになっているようでなんだか悔しいが、岡田の喜ぶ顔がもっと見たいと思ってしまうのだからしょうがない。
「……よし。やるか」
俺は意を決して包丁を握った。
ーー翌日。
俺は少し早く家を出てマンションの外で岡田の出待ちをしていた。
「あれ?立花おはよう。どうしたの?」
「おはようございます」
朝からキラキラの笑顔でこちらに駆け寄る岡田は今日も安定の眩しさだ。
「もしかして僕と一緒に出勤したくて待っててくれたとか?」
「あの、これ……」
モジモジしている俺を覗き込んでニコニコしている岡田は、俺が手に持っていたお弁当を目の前に差し出すとキョトンと目を丸くする。
「先輩が迷惑じゃなければお弁当作ったんで、どうぞ」
「……これ、僕の?」
「はい。先輩のご飯は俺が作るって約束しましたし……」
「僕のため……」
お弁当を受け取ると、岡田はキョトンとしていた顔をたちまち蕩けさせて俺をうっとりと見つめた。
「ありがとう立花。凄く嬉しいよ」
幸せそうに、大事そうにお弁当を抱える岡田に、俺は目を細める。
頬を染めて喜ぶその姿は、俺だけが岡田を好きなんじゃない、岡田も俺と同じ気持ちなんだと認識させてくれて、またまた胸がキュンとした。
ーー俺、このままずっと岡田の側にいたら死ぬんじゃないかな。
岡田に好きだと伝えてしまってからキュンキュンしっぱなしで、もう自分では止められないから。
そんなことを思いながら岡田を見上げていたら、人目もはばからず岡田がチュッと口にキスをしてきた。
「大好きだよ」
ーーうん、このままだと俺、間違いなくキュン死にするな。
0
お気に入りに追加
179
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
弱虫くんと騎士(ナイト)さま
皇 晴樹
BL
学校ではみんなから信頼される生徒会長
部屋に戻れば弱虫な僕
「俺、優那の騎士になるよ」
嫌われ者だった僕を助けてくれた幼馴染
彼がいればなんだって怖くない。
……でも、僕だって強くなりたいんだ。
弱虫な僕と騎士である幼馴染のBoys Life
*作中での騎士は全て「ナイト」読みです。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる