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社会人編
新居
しおりを挟む呆然としている俺の手を取り、5階建のいかにも高級そうなマンションの中へ進む岡田。
ハッと気付いた時には俺は岡田に手を繋がれたまま3階のフロアにまで来ていた。
慌てて岡田の手を振り解き後退る。
周りをキョロキョロと見渡すと、フロアには扉が1つしかない。
どうやらワンフロアに1住居しかない造りのマンションらしい。
こんなの明らかに社宅なんかじゃないだろう。
訝しんで岡田を睨んでいると、岡田は俺が持っていた筈のカードキーで鍵を開け上機嫌で扉を開いた。
「……なんで……」
「フフッ、驚いた?ここねぇ、僕のマンションなんだ」
「……え……?」
ーー今、なんて?
固まって動けず部屋に入ろうとしない俺の手を再び岡田が掴んで強引に中へ引き入れる。
「建ててからこのフロアは一度も使ってないから綺麗なんだけどね。一応掃除業者を頼んで綺麗にしてもらってあるから。すぐにでも荷物を運び込めるよ」
「…………」
「ああ、ほら来たんじゃない?丁度良いタイミングだったね」
中へ入り各部屋のドアを開けて岡田が説明しているところへ、インターホンが鳴った。
俺が立ち竦んでそれに出ないでいると岡田が苦笑しながら引っ越し業者の応対をしてオートロックを解除していた。
一人暮らしの荷物なんて少ないもので、あっという間に荷物を運び終わった業者は速やかに帰っていき、今、この部屋には俺と岡田が2人で残されている。
「意外と早く終わったね。荷解きはひとりで大丈夫?僕も手伝おうか?」
「……先輩、どういうことですか」
「あれ、立花怒ってる?」
岡田の軽い調子にイラッとした俺は思った以上に低い声が出てしまったがしょうがないだろう。
これはもう、どういうことか岡田に説明してもらわないと何が何だか意味が分からない。
俺が怒っていると分かっていても、岡田は楽しそうな表情を崩すどころか嬉しそうにさえしている。
「だって、前に立花が言ったんだよ。大学にいる間は好きとか付き合うとかはしないって。という事はだよ?卒業したらそれはもう解禁ってことになるよね?」
「え?俺そんなこと言いましたっけ……」
「言ったよ。だから僕、立花が卒業するまで待ってたんじゃないか」
「え……」
今……何て言った?
キョトンとする俺を岡田は蕩けるような笑顔で見つめている。
ドキン、と大きく胸が高鳴った。
「立花がまた僕から逃げないように少しずつ外堀を埋めてきたんだけど、上手くいって良かったよ」
「…………」
ドキドキと高鳴る胸を押さえて立ち尽くす俺を見据えながら岡田がゆっくりと歩み寄る。
「僕は、ずっと立花が好きだった。もう逃がさないから、覚悟してね」
そう言って、岡田は俺の肩に手を置くと、その綺麗な顔を近付けてきた。
ーー俺の唇に、岡田の唇がそっと、重なった。
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