陽の光の下を、貴方と二人で

珂里

文字の大きさ
上 下
25 / 87
社会人編

新居

しおりを挟む

呆然としている俺の手を取り、5階建のいかにも高級そうなマンションの中へ進む岡田。
ハッと気付いた時には俺は岡田に手を繋がれたまま3階のフロアにまで来ていた。

慌てて岡田の手を振り解き後退る。
周りをキョロキョロと見渡すと、フロアには扉が1つしかない。
どうやらワンフロアに1住居しかない造りのマンションらしい。
こんなの明らかに社宅なんかじゃないだろう。
訝しんで岡田を睨んでいると、岡田は俺が持っていた筈のカードキーで鍵を開け上機嫌で扉を開いた。


「……なんで……」

「フフッ、驚いた?ここねぇ、僕のマンションなんだ」

「……え……?」


ーー今、なんて?

固まって動けず部屋に入ろうとしない俺の手を再び岡田が掴んで強引に中へ引き入れる。


「建ててからこのフロアは一度も使ってないから綺麗なんだけどね。一応掃除業者を頼んで綺麗にしてもらってあるから。すぐにでも荷物を運び込めるよ」

「…………」

「ああ、ほら来たんじゃない?丁度良いタイミングだったね」


中へ入り各部屋のドアを開けて岡田が説明しているところへ、インターホンが鳴った。
俺が立ち竦んでそれに出ないでいると岡田が苦笑しながら引っ越し業者の応対をしてオートロックを解除していた。


一人暮らしの荷物なんて少ないもので、あっという間に荷物を運び終わった業者は速やかに帰っていき、今、この部屋には俺と岡田が2人で残されている。


「意外と早く終わったね。荷解きはひとりで大丈夫?僕も手伝おうか?」

「……先輩、どういうことですか」

「あれ、立花怒ってる?」


岡田の軽い調子にイラッとした俺は思った以上に低い声が出てしまったがしょうがないだろう。
これはもう、どういうことか岡田に説明してもらわないと何が何だか意味が分からない。
俺が怒っていると分かっていても、岡田は楽しそうな表情を崩すどころか嬉しそうにさえしている。


「だって、前に立花が言ったんだよ。大学にいる間は好きとか付き合うとかはしないって。という事はだよ?卒業したらそれはもう解禁ってことになるよね?」

「え?俺そんなこと言いましたっけ……」

「言ったよ。だから僕、立花が卒業するまで待ってたんじゃないか」

「え……」


今……何て言った?

キョトンとする俺を岡田は蕩けるような笑顔で見つめている。

ドキン、と大きく胸が高鳴った。


「立花が僕から逃げないように少しずつ外堀を埋めてきたんだけど、上手くいって良かったよ」

「…………」


ドキドキと高鳴る胸を押さえて立ち尽くす俺を見据えながら岡田がゆっくりと歩み寄る。


「僕は、ずっと立花が好きだった。もう逃がさないから、覚悟してね」


そう言って、岡田は俺の肩に手を置くと、その綺麗な顔を近付けてきた。



ーー俺の唇に、岡田の唇がそっと、重なった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

俺のファルハ 《黒豹獣人と俺》

大島Q太
BL
《黒豹獣人×異世界転移者》 マナトは子供を助けてトラックにひかれそうになった瞬間、異世界転移し、ついた先はジャングルの中だった。マナトを拾ったのは褐色の黒豹獣人ナミル。ナミルは俺を「ファルハ」と呼び甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。流されやすい主人公とそれを溺愛する原住民の話。

My heart in your hand.

津秋
BL
冷静で公平と評される風紀委員長の三年生と、排他的で顔も性格もキツめな一年生がゆっくり距離を縮めて、お互いが特別な人になっていく話。自サイトからの転載です。

【BL】キス魔の先輩に困ってます

筍とるぞう
BL
先輩×後輩の胸キュンコメディです。 ※エブリスタでも掲載・完結している作品です。 〇あらすじ〇 今年から大学生の主人公・宮原陽斗(みやはらひなと)は、東条優馬(とうじょう ゆうま)の巻き起こす嵐(?)に嫌々ながらも巻き込まれていく。 恋愛サークルの創設者(代表)、イケメン王様スパダリ気質男子・東条優真(とうじょうゆうま)は、陽斗の1つ上の先輩で、恋愛は未経験。愛情や友情に対して感覚がずれている優馬は、自らが恋愛について学ぶためにも『恋愛サークル』を立ち上げたのだという。しかし、サークルに参加してくるのは優馬めあての女子ばかりで……。 モテることには慣れている優馬は、幼少期を海外で過ごしていたせいもあり、キスやハグは当たり前。それに加え、極度の世話焼き体質で、周りは逆に迷惑することも。恋愛でも真剣なお付き合いに発展した試しはなく、心に多少のモヤモヤを抱えている。 しかし、陽斗と接していくうちに、様々な気付きがあって……。 恋愛経験なしの天然攻め・優馬と、真面目ツンデレ陽斗が少しづつ距離を縮めていく胸きゅんラブコメ。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

処理中です...