陽の光の下を、貴方と二人で

珂里

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携帯番号

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「さあ立花君。君の携帯を出したまえ」


ーーある日、岡田が自分の携帯電話を片手に持ち、もう片方の手を俺に差し出してきた。


「なんでですか」

「なんで?なんでなんて聞かなくても分かってるでしょ。今日こそは番号を交換してもらうんだからね」


岡田が頬をプクッと膨らませて俺を上目遣いで睨んでくる。カッコ可愛いかよ。……あざとい。これは自分の顔立ちの良さを分かっていてやっている。確信犯だ。
こんな顔をされれば誰でも岡田の言う事を聞いてしまうだろう。
だが、1年以上このお綺麗な岡田の顔を間近で見続けてきた俺にそんな技は効かない。


「嫌ですけど」

「えー!?もう、なんでだよー!!」

「何度も言ってますが、必要性を感じませんので」


差し出された手をペシッと叩けば、岡田がジトッとした目を向けてくる。
そんな岡田を無視して食べ終えたお弁当箱を鞄にしまっていると、また岡田が俺に手を差し出してきた。今日の岡田はしつこい。


「立花君、僕はもうすぐ卒業しちゃうでしょ?卒業しちゃったら今までみたいにこうして毎日会えなくなるんだよ。必要性を十分に感じると思わない?」

「……俺は別に感じませんけど……」

「僕は感じるの!!!」


もうっ!!と、怒りながら差し出していた手でバシバシと俺の肩を叩いてきた。


岡田はもうすぐ卒業を迎える。


結局、岡田は毎日飽きることなく俺の手作り弁当を食べに裏庭までやって来たし、なんだかんだ言いながら俺も毎日岡田の分のおかずをお弁当箱に詰めて持って来ていた。
岡田の取り巻き達にはとっくに俺が岡田とお昼を一緒に食べているのがバレていたらしいが、その件で俺が呼び出されることも嫌がらせをされることも無かった。
もう最近では俺は岡田のとして周りに認知されているみたいで、取り巻き達を見かけたら必ず笑顔で挨拶されるようになってしまったくらいだ。

岡田には裏庭に来るようになってから割とすぐに携帯の番号を聞かれた。
そして、アンタみたいな金持ちが簡単に携帯の番号を他人に教えるな、と俺がその場で説教をかましてやったのが一番最初。
岡田は説教されているのにもかかわらず、ずっと嬉しそうにニコニコとしていて全く説教のし甲斐が無かったけど。
焼け石に水状態の説教をし終えてハァと溜息を吐いた俺に、岡田は「やっぱり立花君は面白くていいね」と満面の笑み浮かべて言い放ち、再び深い溜息を俺に吐かせたのだった。

その後も岡田はしつこく番号を交換しようと言ってきたが、その度に俺は必要性を感じないと断り続けていた。
言葉通り毎日お昼に会っているから携帯にまで連絡するようなことは無いし、それにこれ以上深く関わってしまうと自分の気持ち的にヤバイ気がする。…………最近、俺の手作り弁当を幸せそうに食べる岡田を見ていると胸がキュンとむず痒くなってしまうのだ。
今でも十分ヤバイ気がしているのに、これ以上は本当にヤバイ。

ーー俺はもう不毛な恋はしたくないんだ。
このまま自分の気持ちに気付かないフリをしていたい。
このまま岡田が卒業してしまえば俺なんかとは接点がなくなって、岡田の交友録からそのまま自然とフェードアウトできるはず。

そう思って、しつこく番号の交換を迫ってくる岡田を頑なに拒否してしていたのだけれど、そんな俺の態度に遂に岡田がキレた。


「立花君、いい加減にしてよ。今時、なのに携帯の番号を知らないなんて有り得ないよね?僕が卒業しちゃったらこうやって毎日会えなくなるんだよ?だったらせめて電話で話したりメールしたりしたいじゃないか。それくらい普通だよね?だってだもん。ね?」

「…………」


綺麗な笑顔で「友達」を強調して俺に詰め寄る岡田の目は笑ってはいなくて……そんな岡田にジッと見つめられれば俺の背中がゾクリとし、身の危険を感じずにはいられなかった。
……そうして、もう一度「ね?」と言いながら差し出してきた岡田の手の上に、俺が大人しく自分の携帯電話を置くしかない状況だったのは、もうしょうがないだろう。


「フフッ、これでいつでも立花君に連絡ができるね。嬉しいなぁ」


俺の複雑な気持ちなんてお構いなしに、岡田が上機嫌で携帯電話を操作している。


「はい。僕の番号を入れておいたから。立花君も何かあったら……何かなくてもいつでも連絡してね!」

「…………ありがとうございます」






ーーそれから暫くして、岡田は大学を卒業していった。



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