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友達
しおりを挟む「あ、それ」
ある日の授業終わり。
隣に座っていた岩崎が鞄から取り出したミルクティーに思わず反応してしまった。
それに気づいた岩崎が苦笑する。
「なに立花、お前もこれ好きなの?」
「いや、俺じゃなくて友達が好きみたいで」
「へえ、そうなん?オレ、このミルクティーが好きって人に今まで遭遇したことないけど」
岩崎はそう言いながら中身の残り少ないペットボトルをフリフリして笑っている。
なんか岡田もこのミルクティーは人気がないようなことを言っていた気がするな。
「どんな味?俺飲んだことないんだよね。甘い?」
「う~ん……甘いんだけど後味はそれほど甘くないような……」
「何それ。美味しいの?」
「う~ん……美味しいかと言われればオレは好きだけど、苦手な人もいるかも。好き嫌いが分かれるんじゃないかな。ちょっとクセが強いんだよね」
何それ。ますます味が分からん。
……なんかどんな味か気になってきた。
「……俺も飲んでみようかな」
「あ、気になっちゃった?じゃあ一緒に買いに行こうぜ。立花もこのあとオレと同じ授業で北校舎に移動だろ?このミルクティー、北校舎の自販機にしかないんだよ」
「……うん、その情報は知ってる」
それきっかけで岡田と知り合ったから。
岩崎がクスクス笑いながら立ち上がり「行こうぜ」と促される。
岩崎とは割と同じ授業を選択していてよく喋るようになった。俺の数少ない友達だ。
自販機に到着し、岩崎に続いて俺もミルクティーを購入。
「どうだ?」
俺がひと口飲むと、すかさず岩崎が聞いてくる。
……う~ん。
イマイチよくわからなくて、もうひと口飲む。
「…………微妙」
「アハハッ!やっぱり?」
口をへの字に曲げる俺を見て岩崎が大笑いしている。
北校舎は人の行き来が少ないせいか、岩崎の笑い声が辺りにすごく響いて、遠くを歩いている人まで振り返ってこっちを見ていた。……ちょっと恥ずかしい。
恥ずかしさを誤魔化すようにゴクゴクとミルクティーを流し込む。
「おい、無理するなよ?」
「……あれ?なんか、飲んだ後のこのクセの強い感じ……嫌いじゃないかも」
そう言ってから、もうひと口飲んだ。……うん、嫌いじゃない。なんかもうひと口、もうひと口って飲みたくなってくるんだよな。
「アハハッ。もう半分飲んじゃってるじゃん。立花もこのクセの強さにハマったか?」
「うん、悪くない。っていうか、美味しいかも」
「マジか。初めてのクセ強ミルクティー仲間だ」
「なんだよそれ」
岩崎の言い方が可笑しくて俺もつい声を上げて笑ってしまった。
「立花君?」
俺と岩崎の笑い声が自販機周辺に響いているなか、ふいに背後から声をかけられる。
後ろを振り向くと、そこには驚いた顔をした岡田が立っていた。
「あれ、岡田先輩」
「……ミルクティーを買いに来たら立花君の声が聞こえた気がして……」
「先輩もミルクティーを買いに来たんですか?本当に好きですよね。ああ、ほら岩崎、この先輩がさっき言ってたミルクティーが好きだって人だよ。……岩崎?」
ちょうどいいタイミングで岡田が来てくれた。そう思って岡田のミルクティー好きを岩崎に報告していたら、なんでかその岩崎が俺の横で固まって動かなくなっていた。
「おーい、岩崎ー?」
岩崎の顔の前で手をひらひらさせると、ハッと我に返った岩崎にガシッと肩を掴まれる。
「あれ岡田先輩だろ!?お前あの人と知り合いなのか?え?どういう繋がり?」
「あ~……まあ成り行きで?」
……岡田に男との別れ話を見られた、なんて言えないし。そこらへんは、なんとか笑って誤魔化した。
「……なあ、お前大丈夫か?岡田先輩にいいように利用されてない?パシリとかさ……」
「フフッ、大丈夫だよ。パシリなんてさせられてないし。俺も最初は変な先入観があったけど、接してるうちになんか良い人だってのも、最近ちょっと分かってきたし。岩崎も話してみたら分かると思うよ」
ーーパシリじゃなくて、餌付けはしてるけどな。
岩崎と顔を近付けてコソコソと話していたら「ねえ!」と、大きめの声で岡田に遮られて振り返る。
「その人、立花君の友達?」
「え?そうですけど」
「……ふ~ん。立花君て友達いたんだね。いつも1人ぼっちでいるところしか見たことがなかったから」
ーー失礼だな、おい。
「いやいや、いますよ。っていうか、最初にいるって俺アンタに言いましたよね」
「……ふ~ん。そう……」
ブスッとしながら俺がそう言うと、岡田はスンとした顔で俺を見た後に岩崎へ目を移した。
岡田と目が合った岩崎は一瞬ビクッとしたものの、すぐに軽く頭を下げて岡田に挨拶をする。
「は、はじめまして。岩崎です」
「…………」
挨拶をする岩崎をスンとした顔のままジッと見つめて無言の岡田。……なんだ?聞こえなかったのか?ってそんなわけないよな。
岩崎が助けを求めるような視線を俺に向けてきた。……まあそうなるよね。
「岡田先輩?」
俺が声をかけるとジッと岩崎を見ていた岡田はチラッと俺に目を向けた後、すぐにまたその視線を岩崎に戻して、それはそれは綺麗に笑った。
「はじめまして。立花君の友達の岡田です」
「ど、どうも……」
岡田に綺麗な笑顔を向けられた岩崎の肩がビクッと大きく揺れる。そりゃあこんなにもイケメンな人の笑顔を見せられれば緊張もするだろう。
うんうんと俺が頷いていたら岩崎に腕を掴まれ、そのまま俺を引き摺るように歩き出されてしまった。
「ほら、もう次の授業が始まるぞ。行かないと」
「あ、本当だ。じゃあ先輩、またね」
岩崎と並んで走り出すとすぐ、後ろから「また後でね!」と岡田の声が聞こえてくる。
振り返ると、岡田がなんだか置いて行かれた子供みたいに寂しそうに見えて笑みがこぼれた。
走るスピードを少し緩めて手を振れば、岡田はパッと表情を明るくしてブンブンと勢いよく俺に手を振りかえす。
フフッ、小学生かよ。
笑いながら走る俺の横では、岩崎が眉間に皺を寄せて難しい顔をしていた。
「なあ……あの先輩、ちょっとヤバくねえ?」
「え?あ~、うんヤバいよな。顔立ちが整ってて、本当にヤバいくらいイケメンだし」
「…………そういう意味のヤバいじゃねえよ」
俺は岩崎に同意したはずなのに、なんでだ。
意味が分からず首を傾げる俺に呆れ顔を向ける岩崎。……だから、なんでだよ。
「……まあ、特に害もなさそうだし、いいか。頑張れよ」
「え?うん」
ポン、と肩を叩かれた俺は訳がわからないままだったけど、なんとなく頷いてしまっていた。
「何かあったら話しくらいは聞くから」
「う、うん……」
ポンポン、と再び肩を叩かれて、俺はまた訳がわからないままなんとなく頷いてしまい、岩崎に哀れみの目を向けられたのだった。
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