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新学期
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嫌だ嫌だと思っている程、時間が経つのは早いもので。短い冬休みは本当にあっという間に終わってしまった。
年末年始も帰省しなかった俺はバイト三昧の日々で、1月末のバイト代はかなり期待できる額になっているだろう。
冬休みの間に岡田が2回ケーキを買いに来たが、あの水野さん事件?は岡田には言わなかった。
あの日一緒に働いていた林さんは「岡田君に言わないの?」と心配してくれたが、あれは水野さんなりに岡田のことを想って言ったのだろうし( かなり暴言だったのは許せないけど )、これを岡田が知ったらきっと責任を感じてしまうだろうから俺は言わないと決めていた。
だってあれはどう考えだって岡田のせいじゃないしな。
とはいえ、新学期が始まってしまえば嫌でも水野さんをはじめとした岡田の取り巻き達に大学で会ってしまうだろう。
なんならすぐにでも呼び出されそうだ。
ーーなんて考えながら重い足取りで大学まで来たが、俺の心配していた状況には一向にならず無事に昼休みまで過ごせた。
拍子抜けしつつも冬休み前と同様に少し大きめのお弁当箱を持って裏庭へ行くと、やっぱり冬休み前と同様に岡田がベンチに座って待っていた。
休み前と変わらない光景にホッとする自分がいて、思わず笑ってしまう。
…………俺はなんだかんだ言いながらも、もう岡田を友達として認識してしまってるんだな。
「あ、立花君。久しぶり~!」
「何言ってんですか。3日前にも店に来たでしょ」
「早く座って!今日は何のおかずかな?」
早く早く!!と、嬉しそうに手招きをする岡田。……俺は高貴な猫……もとい岡田を完全に餌付けしてしまったようだ。
「わあ!卵焼きが入ってる!作ってくれたの?こっちの揚げ物は何?」
「それは豚肉の梅しそチーズフライです」
「え、凄い!立花君はシェフかな?シェフなのかな!?」
「普通の大学生です」
パクリ、と岡田が卵焼きをひと齧り。
「う~ん、やっぱり美味しい」
今度はパクリ、とフライをひと齧り。
「何これ、美味しい!やっぱり立花君はシェフだね!!」
両頬を手で押さえて幸せそうにフライを頬張る岡田。小学生か。
でもやっぱり、自分の作ったものを美味しいと言ってもらえるのは素直に嬉しくて、そんな岡田が食べているのを見るのは好きだ。食べ方も綺麗だしな。
モグモグ食べている岡田をついジッと見てしまっていたら、「そういえば」と言いながら俺を見た岡田とバチッと目が合ってしまった。
「冬休み中、何か変わった事はなかった?」
「え?変わった事ですか?特にはありませんでしたけど」
「そう?」
「はい」
「ふ~ん」
……なんなんだ、いったい。水野さんが店に乗り込んで俺とモメたなんて、自分から言うはずないし。
俺が首を傾げると岡田は俺を見つめたまま目を細める。
「本当に?」
「え?はい。さっきからそう言ってるじゃないですか」
ーーなんだよ。
俺が眉間に皺を寄せてそう答えると、岡田は見惚れるくらい綺麗な笑みを俺に向けた。
「フフッ。立花君のそういうところ、僕は本当に好きだよ」
「……はあ、そりゃどうも?」
意味が分からず俺は眉間に皺を寄せたままの渋顔だったけど、逆に岡田はお昼を食べ終わるまで何故かずっとご機嫌のままだった。
そして、この日から岡田は俺と校舎内で会えば挨拶をし話しかけてくるようになった。
以前に交わした交換条件はどうなったんだ?お弁当はもういらないのか?
そう思ったりもしたが、それからも岡田は裏庭へやって来るし、俺の作ったお弁当も美味しそうに食べている。
以前と違うことといえば、岡田の取り巻きの数が心なしか少なくなったことと、その取り巻き達に俺が睨まれたりしなくなったことだ。なんなら取り巻き達から挨拶をされることだって珍しくなくなったくらいだし。
そんでもって、その取り巻きの中に水野さんの姿を見なくなった。
ある日、たまたま水野さんと校舎内ですれ違ったんだけど「ヒャッ!!」と叫ばれメチャクチャ驚かれた。いやいや、俺のが驚いたわ。
顔面蒼白の水野さんは俺から逃げるようにそそくさと走っていってしまって、それきり校舎内では姿を見なくなった。
なんか、あそこまで怯えられると俺の悪い予感が的中していると暗に言われているようで嫌なんだけど。
「ねえ、先輩。あの人達に何か言いました?」
水野さんといい、取り巻き連中の態度といい、明らかに前と違いすぎて怖い。
何があったのかずっと気になって悶々としていた俺は思い切って岡田に聞いてみた。
岡田はモグモグと今日の弁当を食べながらキョトンとしている。
「あの人達って?」
「アンタの取り巻き達ですよ。最近俺に対しての態度が前より軟化したんですよね」
俺の話しを聞きながら次のおかずに箸を伸ばす岡田。おい、ちゃんと聞いてるのか?
「ちょっとお願いしただけだよ?僕の友達には優しくしてねって」
ちょっと?ちょっとお願いしただけであんなに水野さんが怯えるのか?……本当に?
俺が訝しげに見ていると岡田はゆっくりと箸を置き、俺を見据えてそれはそれは綺麗に微笑んだ。
「詳しく聞きたい?」
ーーーーゾクゾクッ
岡田に微笑まれながらそう言われて、俺の背筋に冷たいものが走る。
あ、これ絶対に聞いたらダメなやつだ。
「…………いえ、やめときます」
「えー、そう?残念」
フルフルと首を横に振る俺を見てクスクスと楽しそうに笑う岡田はまた箸を手に取りお弁当を美味しそうに食べ始めた。
…………なんか俺、とんでもない奴と友達になってしまった……かもしれない。
年末年始も帰省しなかった俺はバイト三昧の日々で、1月末のバイト代はかなり期待できる額になっているだろう。
冬休みの間に岡田が2回ケーキを買いに来たが、あの水野さん事件?は岡田には言わなかった。
あの日一緒に働いていた林さんは「岡田君に言わないの?」と心配してくれたが、あれは水野さんなりに岡田のことを想って言ったのだろうし( かなり暴言だったのは許せないけど )、これを岡田が知ったらきっと責任を感じてしまうだろうから俺は言わないと決めていた。
だってあれはどう考えだって岡田のせいじゃないしな。
とはいえ、新学期が始まってしまえば嫌でも水野さんをはじめとした岡田の取り巻き達に大学で会ってしまうだろう。
なんならすぐにでも呼び出されそうだ。
ーーなんて考えながら重い足取りで大学まで来たが、俺の心配していた状況には一向にならず無事に昼休みまで過ごせた。
拍子抜けしつつも冬休み前と同様に少し大きめのお弁当箱を持って裏庭へ行くと、やっぱり冬休み前と同様に岡田がベンチに座って待っていた。
休み前と変わらない光景にホッとする自分がいて、思わず笑ってしまう。
…………俺はなんだかんだ言いながらも、もう岡田を友達として認識してしまってるんだな。
「あ、立花君。久しぶり~!」
「何言ってんですか。3日前にも店に来たでしょ」
「早く座って!今日は何のおかずかな?」
早く早く!!と、嬉しそうに手招きをする岡田。……俺は高貴な猫……もとい岡田を完全に餌付けしてしまったようだ。
「わあ!卵焼きが入ってる!作ってくれたの?こっちの揚げ物は何?」
「それは豚肉の梅しそチーズフライです」
「え、凄い!立花君はシェフかな?シェフなのかな!?」
「普通の大学生です」
パクリ、と岡田が卵焼きをひと齧り。
「う~ん、やっぱり美味しい」
今度はパクリ、とフライをひと齧り。
「何これ、美味しい!やっぱり立花君はシェフだね!!」
両頬を手で押さえて幸せそうにフライを頬張る岡田。小学生か。
でもやっぱり、自分の作ったものを美味しいと言ってもらえるのは素直に嬉しくて、そんな岡田が食べているのを見るのは好きだ。食べ方も綺麗だしな。
モグモグ食べている岡田をついジッと見てしまっていたら、「そういえば」と言いながら俺を見た岡田とバチッと目が合ってしまった。
「冬休み中、何か変わった事はなかった?」
「え?変わった事ですか?特にはありませんでしたけど」
「そう?」
「はい」
「ふ~ん」
……なんなんだ、いったい。水野さんが店に乗り込んで俺とモメたなんて、自分から言うはずないし。
俺が首を傾げると岡田は俺を見つめたまま目を細める。
「本当に?」
「え?はい。さっきからそう言ってるじゃないですか」
ーーなんだよ。
俺が眉間に皺を寄せてそう答えると、岡田は見惚れるくらい綺麗な笑みを俺に向けた。
「フフッ。立花君のそういうところ、僕は本当に好きだよ」
「……はあ、そりゃどうも?」
意味が分からず俺は眉間に皺を寄せたままの渋顔だったけど、逆に岡田はお昼を食べ終わるまで何故かずっとご機嫌のままだった。
そして、この日から岡田は俺と校舎内で会えば挨拶をし話しかけてくるようになった。
以前に交わした交換条件はどうなったんだ?お弁当はもういらないのか?
そう思ったりもしたが、それからも岡田は裏庭へやって来るし、俺の作ったお弁当も美味しそうに食べている。
以前と違うことといえば、岡田の取り巻きの数が心なしか少なくなったことと、その取り巻き達に俺が睨まれたりしなくなったことだ。なんなら取り巻き達から挨拶をされることだって珍しくなくなったくらいだし。
そんでもって、その取り巻きの中に水野さんの姿を見なくなった。
ある日、たまたま水野さんと校舎内ですれ違ったんだけど「ヒャッ!!」と叫ばれメチャクチャ驚かれた。いやいや、俺のが驚いたわ。
顔面蒼白の水野さんは俺から逃げるようにそそくさと走っていってしまって、それきり校舎内では姿を見なくなった。
なんか、あそこまで怯えられると俺の悪い予感が的中していると暗に言われているようで嫌なんだけど。
「ねえ、先輩。あの人達に何か言いました?」
水野さんといい、取り巻き連中の態度といい、明らかに前と違いすぎて怖い。
何があったのかずっと気になって悶々としていた俺は思い切って岡田に聞いてみた。
岡田はモグモグと今日の弁当を食べながらキョトンとしている。
「あの人達って?」
「アンタの取り巻き達ですよ。最近俺に対しての態度が前より軟化したんですよね」
俺の話しを聞きながら次のおかずに箸を伸ばす岡田。おい、ちゃんと聞いてるのか?
「ちょっとお願いしただけだよ?僕の友達には優しくしてねって」
ちょっと?ちょっとお願いしただけであんなに水野さんが怯えるのか?……本当に?
俺が訝しげに見ていると岡田はゆっくりと箸を置き、俺を見据えてそれはそれは綺麗に微笑んだ。
「詳しく聞きたい?」
ーーーーゾクゾクッ
岡田に微笑まれながらそう言われて、俺の背筋に冷たいものが走る。
あ、これ絶対に聞いたらダメなやつだ。
「…………いえ、やめときます」
「えー、そう?残念」
フルフルと首を横に振る俺を見てクスクスと楽しそうに笑う岡田はまた箸を手に取りお弁当を美味しそうに食べ始めた。
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