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弁当
しおりを挟む「この野菜炒めも美味しいね。昨日の唐揚げも美味しかったし。やっぱり立花君はいいお嫁さんになるよ」
「それはどうも。全部晩御飯の残り物ですけどね」
もう、お嫁さんの件は軽く受け流して礼を言う。
約束を交わしてから今日で10日目。
岡田はまだ飽きずに俺と裏庭でお昼を共にしている。
岡田の持参してくるお昼はきまってコンビニの菓子パン。
余程好きなのかと思って聞いたら、予想外の答えが返ってきた。
「持ち運ぶのに便利だから」
岡田が大学に入ってすぐは学食を利用していたらしい。
けれど、岡田のルックスと家の噂を聞きつけた奴等が学食でも取り囲むようになってしまった為、利用するのをやめたそうだ。
それからは大学の色々な場所を転々として1人ひっそりと食べていて。
移動する時に持ち運ぶのが便利なことと早く食べられるということで、いつもお昼は菓子パンで済ますようになったらしい。
そんな事情を聞いてしまった俺は、お弁当に詰めたおかずをつい岡田に勧めてしまったのだ。
超金持ちのコイツがそんな不憫な理由で菓子パン1つのお昼だなんて、誰が聞いたって自分のおかずを分けてやりたくなる案件だろう?
岡田はいつだって美味しそうに俺の作ったおかずを食べてくれるので、俺も悪い気はしないし。
だからもう最近ではお弁当箱のサイズを大きめのやつに替えて、岡田用におかずを多く入れてくるようにしている。
今日も俺の横に座り野菜炒めを頬張っている岡田は、食べている時までカッコいい。
所作が綺麗なのだ。こういうところに育ちの良さが出るんだな。
俺が観察しているうちに自分の分のおかずをペロリと完食した岡田は「ご馳走さま」
と俺に向かって手を合わせる。
それに対して「はい、お粗末さまでした」と俺が返事をするまでが、岡田とのこのランチタイムにおいてお決まりのパターンになっていた。
初日、岡田の「ご馳走さま」に反応して普通に返事をしただけだったのだが、岡田はそれが大層気に入ったらしく次の日から「ご馳走さま」と言った後に、やたらキラキラと期待を込めた目で俺を見てくるようになったのだ。
べつに、そんな目で見なくても「お粗末さまでした」なんて、いくらでも言ってやるのに。
「ねえ、明日は卵焼きが食べたいな」
お気に入りだというあの自販機のミルクティーを飲みながら、岡田が明日のおかずをリクエストしてくる。……冷蔵庫に卵はあったかな。
「冷蔵庫に卵があったら作ってきます」
「え~、無くても作ってきてよ」
「…………」
「あ、嘘です。無かったら別の日にお願いします」
無くても作れとか、アホなことを言い出した岡田に無言で圧をかけて黙らせる。
まだ食べている途中の俺は岡田を睨みつつ黙って野菜炒めを口に運んだ。
「……ねえ、元カレは立花君の作った野菜炒め好きだった?」
「ぐっ、ゴホッゴホッ」
俺が食べているのを暫く大人しく見ていた岡田が、いきなり爆弾投下をしてきた。
岡田による思いがけない口撃に勢いよく咽せてしまい涙目になりながらも岡田をジロリと睨めば、岡田は肩を竦めてササッとベンチの端まで避難し俺から距離を取る。
「アンタ、人の傷をえぐるようなことをよく平気で言えますね?」
「だ、だって、今ふいに思っちゃったんだもん!」
もん!とか、可愛く言ってもダメだからな。
ちくしょう。人の傷口に塩を塗りやがって。
「で、どうだったの?」
まだ聞くのか。てか、そんなこと聞きたいか?
「……アンタ、鋼のメンタルっすね」
「え~そう?ありがとう。で、どうだったの?」
…………褒めてないし、しつこいな。
「…………分かりませんよ。作ったことなんてないですから」
「え?」
「だから、アイツに作ったことなんてないから、分からないです」
「え……元カレにお弁当作ったりとか、家で何か作ったりとか……」
「一回もありません」
橋本と大学でお昼を一緒に食べたこともなければ、お互いの家を行き来したこともない。
大学ではサークルの先輩後輩としてしか接してないし、外で会うのもラブホでだけだった。
「……ねえ、それってさ、本当に付き合ってたの?」
俺の話しを聞くにつれ、ポカンとしていた岡田の表情が徐々に険しくなっていく。
そんな岡田の反応に、改めてショックを受ける。
……俺だって、薄々気付いてはいたんだ。
橋本にとって、俺が本命なんかじゃないってことは…………ずっと、気付いていた。気付いてたけど…………ずっと、気付かないふりをしていたんだ。
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