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協力って……
しおりを挟む「あ~、やっぱりお前は面白いな」
「…………もういいんで、ちゃっちゃと精気でも命でも食べちゃってくださいよ。そのかわり、お兄様には絶対、絶対にもう手を出さないでくださいね?」
笑い続ける黒いモヤモヤをジロリと睨んで念を押した。涙と鼻水を垂れ流しながら睨まれてもって感じだろうけど。
「まあ待て。そんなに死に急ぐなよ。この世に未練ありまくりなんだろ?」
「うう~……ありまくりだからサクッと一思いにやっちゃってほしいんじゃないですか~」
ボロボロと涙を流す私の周りをクスクスと笑いながら漂っていた黒いモヤモヤがピタリとその動きを止めた。
「お前に猶予をやろう」
「……猶予?」
楽しげに言い放った黒いモヤモヤを、ズビズビと鼻をすすり首を傾げて見上げる。
「ああ。取り敢えずその垂れ流している涙と鼻水をなんとかしろ」
「…………はい」
寝間着であるネグリジェの袖でグシャグシャに濡れた顔を拭った。……うおぉ……鼻水がベッチャリ……お気に入りのネグリジェだけど……しょうがない。
お兄様に覆いかぶさっていた状態から体を起こした私をチェックしていたらしい黒いモヤモヤが満足気に「よし」と呟いた。
「俺はお前が気に入った。まあ、前から面白い奴だと思って見ていたしな。そんなお前に猶予をやろうと言ったんだ」
ーーだから猶予って何?
さっぱり意味が分からなくてコテンと首を傾げる。
「お前はこの世に未練があると言っただろ?だからお前が成人するまで時間をやる。俺も今お前の精気を喰うより、少し待って成人した美味い精気を喰う方がいいしな」
「え……私が、成人するまで……?」
「俺とお前、どっちも得するいい案だろ?」
ーー成人まで私、生きていられるの?
さっき必死に止めた涙と鼻水がまたドバッと溢れ出した。
「あ、ありがとうございます~~……」
「うわっ、汚いっ!!また顔が汚くなってるぞ!!」
ーー私、まだ死ななくてもいいんだ……。
「そんなんじゃ話を進められん!早くなんとかしろっ!」
黒いモヤモヤに促されるまままたネグリジェの袖でゴシゴシ顔を拭くけれど、今度はなかなか涙と鼻水が止まらなくて拭っても拭っても綺麗にならない。
「……ハァ、しょうがない。もうそろそろ人が戻って来そうだから話を進めるぞ」
「ズビッ…………あ"い"……す"み"ま"せ"ん"……」
鼻をズビズビと啜りながら謝ると黒いモヤモヤに大きな溜息を吐かれてしまった。本当にすみません。
「お前が成人するまで待ってやるが、この邪気に取り込まれそうな状態のままでいるわけにはいかん。元の姿に戻るにはもう少し精気が必要なんだ」
「へえ……それが本当の姿じゃないんですね」
「当たり前だ。俺は本来ならもっと高貴な姿をしてるんだ!そもそもお前たちが契約を忘れたりするから……」
「あぁ!ごめんなさいっ!っはい、話しの続きをどうぞ!!」
ヤバッ……また黒いモヤモヤがお怒りモードになっちゃうところだった。っていうか、この黒いモヤモヤの姿がデフォルトじゃなかったんだね。高貴な姿ってどんなだ?
「まったく……それで、俺が元の姿に戻れる分だけの精気をまだ喰いたいんだが、生憎お前の兄の精気はこれ以上喰わないとさっきお前と約束してしまったし……」
「それだけはやめて下さい!!」
「ああ、勿論それはしない。俺は約束を守る男だからな。だから、それまでお前が協力しろ」
「協力?」
「そうだ。俺の姿が戻るまでお前の精気を定期的にちょっとずつ喰わせろ。本当はすぐにでも元の姿に戻りたいところだが、その分の精気を喰ったらお前はコロッと死ぬだろうし……だから死なない程度に俺に喰わせろ」
ーーえ~……死なない程度って……なんか怖い。……怖いけど……協力しないとダメだよね……せっかく成人まで生きられるチャンスをくれたんだし……。
「わかりました。でも、あの、痛いのはちょっと嫌だなぁ、なんて……」
「ああ、安心しろ。さっきみたいに少し力が抜けた感じになるだけだ。さあ、そろそろ誰か戻って来そうだし早速喰わせてもらうぞ」
「え、あ、ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
慌ててストップをかけるも、時すでに遅く。
黒いモヤモヤに視界を覆われると同時に、私の意識はそこで途切れた。
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