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3 町の中でもトラブルは起きる

トラブル体質は誰なんだ?6

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「顔を上げて下さい。フーコさんのせいではないですよ」

 ハイドさんが何か言いたそうにしてるけど黙ったままだから、仕方なく俺がフーコさんに声を掛ける。
 
「私が関与した事ではありませんが、同じギルドの職員ですし全く関係が無いとは言えません」

 俺の隣に座るキョーナを見ながら、フーコさんはもう一度頭を下げる。
 熊の獣人は男女ともに体が大きいけど、フーコさんはそうだと言われてもちょっと信じられない位に華奢だ。ふわふわな髪の中に隠れる丸い耳は確かに熊のそれなんだけど、熊の中でも小柄な種族なのかな。

「お姉さんが謝る必要ないもん。あの時あたしが二人と一緒にお部屋に行くって言えば、こんな騒ぎにならなかったんだもん。だからあたしが、ジュンあたしが悪いの」

 泣き止んでいたキョーナが再び涙声になりながら、俺の腕を掴む。
 
「キョーナ?」
「何かジュンと依頼受けられたらいいなって。だから、掲示板の依頼書を早く見たかったの。ジェシーは一緒に部屋に行こうって言ってくれたのにあたしが掲示板を見たいって言ったから、掲示板の前から動かないなら良いよって。だからジェシーも悪くないの」

 成程、そういう事だったのか、キョーナの説明でやっと納得がいった。
 門のところであれだけアルキナに怒られてたのに、ジェシーはなんで二人の側に居なかったんだろうと思ってたけど、キョーナの気持ちを尊重したのか。

「キョーナさんが悪いんじゃありませんよ。ジェシーと私が『ギルドの中だから安全』と判断してお二人から離れたのですから」
「でも」
「キョーナ、もう自分を責めるな。魔石が割れようが魔道具が壊れようが所詮道具だ。俺はキョーナとヒバリが無事ならそれでいいんだから」

 キョーナを慰めながら、あの男の首を絞めた時の事を思い出す。
 あの時の俺は少しおかしかった。キョーナを脅そうとしたと聞いた瞬間、自分の感情をコントロール出来なくなったのだ。
 キョーナがもし外に連れ出されて、あいつらに何かされてたら威圧で脅すだけでは足りなかっただろう。
 腕も足も粉々に砕き、死んだ方がマシだと泣き叫ぶまで痛めつけていたかもしれない。
 俺はもう嫌なんだ。目の前でなんの抵抗も出来ず後悔するのは、絶対に嫌なんだ。
 キョーナと出会ったばかりでも、俺はもうキョーナを守ると決めているから。だから、杏の様な目には絶対に合わせない。え、杏の様なってなんだ? 目の前に赤い色が見える。これ、これはなんの記憶だ。

「ジュン?」

 ぎゅうっと、小さな手が俺の腕を掴む感触に我に返った。

「ジュン、怖い顔してた。怒ってる?」
「なんでキョーナを怒らなきゃいけないんだよ」
「だって、魔石……あの魔道具壊しちゃったから」

 キョーナの顔を見て、慌てて気持ちを切り替える。
 わけの分からない、記憶なのか幻なのか区別が付かないさっきの赤い色は取りあえず忘れよう。
 今はしょんぼりしているキョーナを慰める方が大事だ。

「二人が無事なんだから、魔石なんて正直どうでもいいんだよ。グスマンさん達の前では言えないけどね」

 フーコさんも壊れた魔道具に使われていた魔石の価値はグスマンさん達に聞かされていたのだろう、俺の言葉に困った様ないたたまれない様な顔になった。
 フーコさんもギルドの人間だけど、グスマンさんやマイケルさんとは立場が違うから良しとしよう。
 俺がグスマンさんに腹を立てたのは、魔石の弁償が問題なんじゃない。子供を脅そうとしていた罪をただの行き違いで済ませようとしたからだ。

「どうでもよくないよ。王都一つ分の価値の魔石なんだよ。ジュン分ってるの?」
「分ってるよ。そんな高い魔石だったなんてびっくりだよな。まあ魔道具は壊れちゃったけど魔石はまだ力が残ってそうだから、使おうと思えば使えると思うしさ」

 使えるのは分ってるけど、ホウショウさんとフーコさんが近くに居るから適当に言葉を濁す。それに、大老ユニコーンの魔石が無限収納の中に山程あるなんて、言える筈ない。

「でも」
「魔石は所詮道具だよ。使わなきゃ意味が無いし、使って壊れたらそれまでだろ」
「そんな風に思えないよ」
「馬鹿だなあキョーナは、責任感じる必要なんてないんだぞ」

 キョーナもだけど、ヒバリもハイドさんもフーコさんも、皆で困った顔している。
 そんな中でホウショウさんだけが呑気に微笑んでいる。

「鑑定ではユニコーンの魔石と出ますし、魔力も十分残っていますから、元の価値はありませんが魔石としては使えますよ。それに、割れてしまったこの大きさでも薬師の塔に飾ってある物よりも大きいのですから、もしお売りになりたいのでしたら私が薬師の塔に話しを通してもいいですが、いかがですか。ギルドの買取りよりはマシな価格を提示出来るかと思いますよ」
「うーん。今売る予定はないからなあ。もし王都に行く事があったら薬師の塔に行くかもしれませんが」

 ホウショウさんは優しい口調で話すけど、なんとなく胡散臭いというかイマイチ信用出来なくてやんわりと断る。整った顔立ちで、優しげな雰囲気で、でもなんか胡散臭く感じるのは何故なんだろう。
 
「そうですか、こんな立派な魔石を見る機会が今後あるか分らないので、本音を言えば是非薬師の塔に売って頂きたいのですが」
「薬師の塔が本気を出せば、いくらでも手に入るんじゃないですか? それこそユニコーン討伐を上級冒険者に依頼するとか」

 ユニコーンの討伐は難しいけど出来ない話じゃない。だから薬師の塔の奴らが大きなユニコーンの魔石が欲しいなら、討伐依頼を出せばいいだけだ。

「ユニコーン討伐など出来る冒険者は王都にも十人いるかどうか分りませんし、例え凄腕の冒険者がいたとしても討伐は難しいでしょう」
「へ、そうなんですか」
「ユニコーンは上級冒険者がパーティーを組んでやっと一頭討伐出来るかどうかの魔物ですし、そもそもユニコーンに出会えるかどうか」
「へええ、そんなに希少な魔物なんですか」

 ホウショウさんの説明に内心首を傾げる。
 俺の認識と違う。やっぱり違うぞ。
 ユニコーン討伐が難しいって言ったって、そこまでじゃない。王都の上級冒険者でも倒せそうなのが十人いるかどうかで、しかもソロは無理。パーティー組んでやっとってそんなんじゃドラゴンはどうするんだってならないか? まさかドラゴン討伐は上級冒険者が何十人と集まってするなんて言わないよな。

「黒い体に額に生えた一本の角、姿を想像しただけでも呪われそうです。それなのに魔石の力は癒やしなのですから不思議ですね」

 あれ、今ホウショウさん変な事言ってないか。黒い体って言ったよな。
 ユニコーンの体は白だ。大老ユニコーンは白銀か白金。力が強ければ強い程輝きが増すのだ。

「ユニコーンって黒いんですか」
「ご存知無かったですか、黒いんですよ。黒い魔物が癒やしの魔石を持っているのでフィナシンの使いとも言われていますね」
「へええ」

 フィナシンの使いか、確かに黒なら薬と慈愛の神フィナシンの領分だな。
 そういえば黒いユニコーンて山の向こうに居たな。あっちは力が強くて、俺でも結構苦労した様な覚えが、あれ?

「ユニコーンは山の向こうに居たりする?」

 俺の知ってるユニコーンの里はこっちだけど、ホウショウさんの話しているユニコーンは山の向こうの奴の様に聞こえる。

「勿論山の向こうです。こちらのユニコーンは迷宮にしか存在しませんし、彼らは魔石を落としませんから」
「そうなんですか。不勉強で知りませんでした」

 真面目に知らなかったから、ホウショウさんの説明にびっくりした。
 王都から山の向こうに派遣するんじゃ希少性も増すし、鶏卵サイズの魔石の価値は跳ね上がるだろう。というか、良かった俺こっちのユニコーンを討伐して手に入れたとか言わなくて。迷宮のユニコーンですら魔石を落とさないんじゃ俺絶対疑われてたよ。

「ユニコーンは迷宮の魔物という認識している方の方が多いですからね。無理もありません」
「山の向こうまで討伐に行くのでは依頼料も掛かりますし、気軽に討伐依頼も出せませんね。私もユニコーンは迷宮の魔物という認識でした」

 ハイドさんも驚いた様にホウショウさんに話している。
 どうしよう、俺の記憶と違い過ぎる。ユニコーンがこっちにはいないとか、ユニコーンの里を知らないだけじゃないのか?
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