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3 町の中でもトラブルは起きる

懸賞金の手続き中1

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「マイケルさんは先程門のところで会っていますね、彼の隣に立っているのがグスマンさん、この町の冒険者ギルドの長です。一見怖そうに見えるかもしれませんが気の良い男ですよ」

 廊下を進みながらハイドさんが小声で説明してくれる。
 ずっとあの格好で俺達が来るのを待っていたんだろうか、ギルドマスターのグスマンさんは腕組みをしながらニヤニヤ笑いで立っている。

「あれがギルドマスター」

 顔は確かに怖そうだと思いながら、二人に鑑定を掛ける。
 鑑定は詳細までしっかりと表示される最上級レベルで行なった。
 これに気がつくのは俺と同じ最上級鑑定のスキルを持っていて尚且つそれのレベルを最大限に上げている人位なので、余程の事が無い限り気付かれる事はないから安心して使う事が出来る。

名前:グスマン
年齢:35歳
種族:人
家族構成:妻ダリア25歳、息子:ラジル3歳、弟:マイケル28歳(独身)
職業:ギルドマスター、剣士(レベル65、次回レベルアップまで135ポイント取得必要)
体力:3595/3595(8500)▽
魔力:30/30
状態:体力減退中、麻痺▽
所得スキル:生活魔法(水、灯り)剛剣、速剣、気合い突き、雷剣、回転切り
補助スキル:体力増強、回復力アップ
称号:家族愛

 鑑定の途中だけど、なんだろう体力減退中って。(8500)とあるからこっちが本当の体力値なのかな。それに弟の名前がマイケルとあるのは、隣のマイケルさんの事だろうか。しかもこの人称号持ちだ「家族愛」うーん、この人の鑑定突っ込みどころがありすぎる。それにしても体力と状態の下についている下向きの三角形はなんだろう? 最上級鑑定結果はデータを保存出来るから取りあえず保存して残りは後確認しようかな。
 さて、次はマイケルさんだ。

名前:マイケル(独身)
年齢:28歳
種族:人
家族構成:兄:グスマン35歳 義姉:ダリア25歳、甥:ラジル3歳
職業:ギルド職員
体力:58/58
魔力:15/15
状態:健康
所得スキル:生活魔法(水、灯り)

 マイケルさんの鑑定結果を途中まで見て納得する。この二人兄弟なんだ、それにしては似てない……事もないのか、目元とかそっくりだ。

「どうしました」
「え、あの。あの二人なんだか似てるっていうか何だか近い印象を受けて。でも体格が明らかに違うからなんでなのかと思ってみたりして」

 鑑定していたのがばれると困るので、曖昧にそう言うとハイドさんはあっさりと疑問を解消してくれた。

「ああ、あの二人は兄弟ですからね。似ていると気がつく方は珍しいですが、さすがジュンさんは目が良いですね」
「そうなんですか、そう言われてみると目元とか似てますね」

 鑑定が最上級の物でも、使う俺がそれを顔に出したら何の意味も無い。ポーカーフェイスが出来る様にならないとこの先困る事になるなとちょっと落ち込んだ。
 だって俺やっぱり呑気な日本人の感覚がいつまでたっても抜けないんだ。
 俺、この世界に来るまではただの高校生だったんだよ、杏と毎日楽しく過ごす事が最優先で家族とは当たり前みたいに仲が良くて、ああ俺はどうしてここにいるんだろ。
 せめて魂だけでも帰りたい、日本に、家族のところに、杏のところに帰りたい。

「ええそうですね。どちらかと言えば、グスマンさんは父親似、マイケルさんは母親似ですが」
「そうなんですね」

 帰りたいと嘆いても帰れないのは、何度も何度も何度も、狂いそうになる位に体験済みだから今は俺の出来る事をするしかない。
 内心の嘆きと絶望に蓋をして、じいぃっと見つめる。
 どちらかと言えばグスマンさんの方が雰囲気が明るい気がする。
 ぱっと見の感想だから本当のところは分らないけれど、系統としてはアルキナに近い印象だ。

「グスマンさん忙しいところ面倒事を持ってきてしまい申し訳ありませんね」

 二人の前まで進むと、ハイドさんはそう良いながらグスマンさんに右手を差し出した。

「無事に戻って来たな。良かった良かった」

 体に見合った大声を出しながらグスマンさんはハイドさんの右手を握りながら、俺の方をちらりと見た。
 間近で見ると余計に怖そうな顔をしている。背はアルキナと同じか少し高いかもしれない。
 がっちりとした体は相当に鍛えていると分る。
 ごつい体は、茶のズボンに生成りのシャツに革のベストに腰には短剣を納めたホルダーを付けている。

「あんたがジュンか、エレーナから話しは聞いているぜ。かなり使える魔法使いだとな」

 エレーナからの話ってなんだろと首を傾げながら、俺も右手を出して、そして後悔した。

「ジュンです、よろしくおね。痛いっ」
「うんうん。全然鍛えてない手だな。掌が柔らかすぎるぞ。さすが魔法使いだ」
「どういう確認方法ですか、痛いから離して下さいっ」

 俺の体は痛みを感じてもすぐに分散してしまうけど、これ以上力を加えられると体が攻撃と見なして相手に同じ痛みを返してしまうから慌てて騒いで止めさせる。
 こんな事で俺の体質がばれてしまったら、大変な事になってしまう。

「おお、悪い悪い」
「骨が折れるかと思いましたよ。俺は鍛えてないんですから勘弁して下さい」

 少し痺れた感のある右手を振りながらそう言うと、グスマンさんは全然悪びれた様子もなしにガハガハと笑い始めた。
 この人がマイケルさんと兄弟って本当の話なんだろうか。
 鑑定に間違いはないだろうし、ハイドさんもそう言っているけれどなんだか疑わしく感じてしまう。

「まあ立ち話もなんだから、中に入ってくれ」
「はい。お邪魔します」

 マイケルさんが開けたドアから部屋の中へと入る。
 エレーナがいる村のギルドと違って、かなり無骨な作りになっているのはギルドマスターであるグスマンさんの好みにされているということだろうか。
 あっちは窓際にアイビーの様な植物の鉢が沢山飾ってあったりして、何となくだけど落ち着いた雰囲気があったけれど、こちらは飾りらしいものは何もなく窓にカーテンもついていなく木の扉だけだ。
 というか、窓にはガラスも嵌めていない。
 ガラスは高価だからなのかもしれない、王都のギルドとは違う。
 大きな木のテーブルとそれをぐるりと囲む木の椅子。
 この部屋は応接用では無く、会議室とかなんだろうか。

「話には聞いていたが、若いな。ジュンはいくつだ」

 それはギルドの登録項目に書いて無かったっけ? と考えながら「十六歳です」と答えた。

「話は座ってからの方がいいでしょう。ハイドさん、ジュンさんどうぞお楽になさって下さい」

 立ったままグスマンさんの問いに答える俺に椅子を勧めると、マイケルさんはグスマンさんと並んで腰を下ろす。俺はその向かいにハイドさんと並んで座った。
 話というのはエレーナかマイケルさんからの物だろうけど、エレーナはなんの目的でグスマンさんに俺の事を話たのか分らず不安になる。
 エレーナは俺が不利になる話はしないと思う、というか思いたい。
 でも俺自身結構間抜けだから、墓穴を掘るのは大得意だしカマを掛けられたら気付かずに何かばらしてしまうかもしれない。
 なにせその辺りのポカは、今まで何度も何度もして来た。
 転生の記憶が無かったから仕方がないといえばそれまでだけれど、何度も騙されたし何度もポカをやったんだ。

「前回のは後回しにするとして、さっき調書を取った方だがアルキナとテリーが殆ど片をつけて残りはお前が眠らせたそうだな」
「そうです。俺人相手の攻撃が得意じゃなくて、それに話も聞けた方がいいかと」

 ハイドさんが命を狙われていると話してもいいのかどうか分らないから、取りあえずそれだけを告げる。
 この世界は旅の途中に盗賊などに襲われた場合、問答無用で命を奪うのが殆どで生け捕りにするなんて方が珍しい。町や村の近くで襲われたなら生け捕りにしても何とか連れていけるけど、そうでないなら管理が大変になるし生かして連れて行くには最低限水は必要になる。
 旅では生け捕りにした盗賊を見張る為に護衛を使うのも勿体ないし、水は貴重品だ。盗賊に使うなんて発想はそもそもないのだ。

「腕が良いらしいのに、対人は不得意なのか」
「俺田舎に住んでたんで人相手に戦うなんて滅多に無かったもので、苦手なんですよ」

 なんだろう、何かを疑われてるんだろうか。殺さなかったのが変なのか? でも、出来るなら避けたいんだよなあ。
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