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町に向けて出発だ5

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「ハイドさんは町から逃げ出すことは出来ない。その結果待っているのは死ですよね」

 話を聞いて考えた結果を口にすると、絶望しか残らない。

 多分それは確定に近いだろう。
 領主であるお祖父さんが生きている間は流石に領主も叔父さんの事を押さえていてくれるけれど、その後は無理だろう。
 そして、お祖父さんから代替わりして、叔父さんが領主になったらやりたい放題だろう。
 王政をとっていると言っても、この国の領地での神は領主だ。
 刑罰も税も領主の判断で決まると言ってもいい。
 国は基本領地を治めて税をきちんと国に納めていれば、大抵の事は見逃してくれるというか野放しなのだ。
 それでよく国が纏まってるなあと思うけど、国王の先祖が神によってその地位を与えられたという話をこの国の人間は信じているらしく、王は神の子で絶対的な存在らしい。
 まあ、神の子っていうことは、あの女の手先って事だから俺にとっては敵の扱いになるのだけど、今はまあどうでもいいか。

「そうなりますね」
「叔父さんが領主の跡を継げなくなったとしたら、次の跡継ぎは誰になるんですか」

 ハイドさんはどうしたって無理なんだろうか?
 いくらいい人でも奴隷商人で領主は駄目か。

「残っている祖父の子供は女性ですから、その息子になりますね」
「そちらはまだマシですか」

 聞き方が酷いけど、他に聞きようが無い。

「マシというか、叔父以外の者は皆慎ましい者ばかりですよ」
「そうなんですか、失礼しました」

 それじゃ叔父さんだけが酷いのか、あとお祖父さん。
 いや、でもお祖父さんは途中からおかしくなったのか、お祖母さんを亡くしてから。
 余程ショックだったのかな、それで自棄になったとか。でも、なんか引っ掛かるな。

「ハイドさんは無理だと仰いましたが、やはり叔父さんを捕まえるのが筋だと思うんです。でも、ギルドを巻き込むのは難しいんですよね」
「そう思います」
「お祖父さんを説得することは出来ませんか。少しでも良心があるなら話し合いに応じてくれるとか、不可能でしょうか」
「昔の祖父なら応じてくれたでしょうが、今はどうでしょう」
「ハイドさんは最後にお祖父さんと会ったのは」
「父の葬儀の時ですね。それ以後は叔父に阻まれて会うことが出来ませんかでした。叔母、父の妹達とは今も行き来がありますが」

 やっぱり癌は叔父さんなんだなあ、さてどうしよう。
 あ?  あれ?

「アルキナ、なんか声がしないか」

 探索に引っ掛かった気配に、慌てて御者台に座るアルキナに声を掛ける。
 まだ少し先だな。うーん?

「声? 声はしないが、あ!  砂煙が見えるぞ。ジェシー!」
「分かった!」
「え、ジェシー。おい、アルキナッなんでキョーナまで連れてくんだよっ」

 アルキナに指示されジェシーは、キョーナを馬に乗せたまま砂煙の様子を見に行ってしまった。
 探索詳細。ゴブリンが二匹、オークと戦っている?

「ジェシーは無理したりしないから平気だ。それより俺達も行くぞ。ハイドさんはテリー達と一緒に居てください。テリー頼んだぞ」
「了解っ」

 ハイドさんを下ろしてすぐ、俺達も馬車でジェシーの後を追いかける。

「なんで馬車の中であれに気がつくんだ?」
「なんか声が聞こえた気がしたんだよ」

 探索のスキルの話しは出来ないから、適当なことを言ってごまかす。
 砂煙は探索の通り、ゴブリンとオークが戦って出来たものだった。オークの半分位の大きさのゴブリンが棍棒を持って戦っているけど、体の大きさが仇となっているのか、素手のオークの方が優勢に見える。

「すげえな、ゴブリンとオークの戦いなんて珍しいぞ」

 やっとジェシーに追い付いて、馬車を下りると丁度ゴブリンがオークに殺られたところだった。
 オークはかなり気が立っているけれど、疲労も見える。
 これならキョーナでもいけそうだ。

「あのオーク、キョーナの練習台に貰ってもいいか?」
「お、いいぞ。今夜はオーク肉のステーキだな」

 俺の問いにアルキナはノリノリで頷くから、馬に乗ったままのキョーナに下りる様に指示を出す。
 俺はオーク肉好きじゃ無いんだけどなあ。

「キョーナ、練習。オークの頭を狙って打て、遠慮無しでいいぞ」
「は、はいっ。我は望む、彼の敵へ天の怒りよ降り注げライトニング!」

 杖を握りしめたキョーナは、力一杯詠唱しオークの頭にライトニングを命中させた。

「凄いわキョーナちゃん!」
「キョーナ、ちょっとやりすぎだな」

 ライトニングたったの一回。それでオークは動かなくなって倒れたけど、頭が黒こげだ。

「胴体は、おっ。無事だな。いいぞ」
「凄いわあ。これなら肉もいけそうね」
「そうだなあ。アルキナ周囲を見てくれ、他に仲間はいないよな」

 探索で安全なのは確認済みだけど、アルキナに周囲を確認してもらう。
 魔物を倒しても最終確認は怠らない。これ込みでキョーナの練習だ。

「大丈夫、他の気配は無い。ジェシー、テリー達に伝えて来てくれ、俺はゴブリンの様子を見てくる」
「はいはーい」

 呑気な返事をしてジェシーはテリー達が居る馬車の方へ馬を走らせていった。

「ジュン、駄目だった?」

 やりすぎと言ったのがまずかったのか、キョーナはしょんぼりとした顔で俺を見ている。

「いや、上出来だったぞ。ちょっと魔力使いすぎだったけどな」

 多分魔力を20位使ってるだろう、オークなら10でも多いくらいだ。まあ、一度で仕留めたんだから今回は良いかな。

「あんまり使いすぎると、数が出たとき困るだろ。適量を覚えよう。今回の宿題はそれくらいだよ」
「うん。分かった」
「でも一回で仕留めたんだから凄いよ」
「本当?」
「ああ、立派だよ。な、アルキナ」

 ゴブリンの様子を見ているアルキナに声を掛けると「凄いぞ。キョーナちゃん」と誉め始めた。

「えへへ」
「ゴブリンの魔石取ったぞ、これはキョーナちゃんかな」
「え」

 アルキナが差し出した魔石を、キョーナは首を傾げて見つめた後俺に判断を仰ぐように振り替える。

「ゴブリンは退治してないぞ」
「冒険者になって初めての魔物討伐だろ。お祝いだよ」
「いいのか?」
「ああ、勿論オークの魔石もキョーナちゃんの物だぞ」
「ありがとう。キョーナ、ということだから受け取れよ」

 アルキナはこういう気の使い方する奴なのか。
 ずっと冒険者として生きてきたからこそなんだろうな。
 俺にとっては冒険者だろうが、なんだろうがただの肩書きだけど。

「アルキナさん、ありがとう」

 魔石を受け取ったキョーナの顔は、今まで一番嬉しそうだった。
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