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朝が来た2

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「凄い、これ魔法みたい。ふわふわだわ」
「パンとは違うんだな」

 朝になり、皆が起きてきて役割分担した。
 夜が明けたばかりだというのに、馬に牛に鶏と世話しなきゃいけない動物は沢山いるからやることは山積みだった。む
 冒険者が泊まっている時もあるとはいえ、基本に二人でやっていたんだから二人の体力に驚くばかりだ。

 朝仕事を一通り終え、朝食を皆でとる。
 今朝は色々な料理の作り方を教えながら作ったから、テーブルの上に沢山の料理が並んでいる。
 量はそんなにないけど、種類を作った。まあアルキナ達は結構食べるから全部無くなるだろう。
 材料をかなり使うけどいいのか?  とケントさんに聞いたら売るほどあるから大丈夫だと笑っていた。生産者は太っ腹だ。
 夜の内にさとうきびもどきを刈って砂糖を作ったと告げたら、全部くれると言うし、生みたての卵もしぼりたての牛乳もびっくりする量を「多分あんたならなんとか保存するんだろ」と気前よくくれた。やっぱり生産者は太っ腹だ。

 ただ、材料を使う許可は貰っても、料理を教えられるのは、朝食を作る時と試験から帰ってきてからの二回だけだ。
 彼女達に話を聞いてみると、村での食事はパンとスープ以外は茹でたジャガイモに塩を掛ける、茹でた野菜に塩を掛ける。あとたまに焼いた肉だそうで、これってほぼ素材だ。そりゃジャガイモのガレットで感動するよ。

 話を聞いて良かった。
 難しそうな料理だけ作り方を教えればいいかと考えてたけど、それじゃ駄目だった。
 レシピ見ただけじゃ作れないよな、そもそもどんな料理か分からないのに作りようがない。
 レシピがあれば大丈夫だろなんて、考えてた昨日の俺甘すぎだし、こういうのって善意の押し売りってやつに近い気がする。ようするに自己満足。

 本当は何日か泊まれればもっと教えられるけど、ハイドさんは一応狙われているっぽいから長く滞在するのは良くないだろうけれど、それは無理だから申し訳ないけれど一回で頑張って覚えて欲しい。

 そんなわけで朝食。
 パンを焼いたのは俺だ。
 聞けば彼女達の村では共同の竃でパンを焼いていたらしく、パンの発酵と酵母菌の育て方は出来るそうで、これの説明をしなくてすんだのは助かった。
 この世界では酵母菌からパン種を発酵させるのが主流だ。
 イースト菌の概念はないらしいけれど、パンはそれなりに美味しい。
 ちなみに膨らし粉はあるけど、高級品扱いの様だ。

 パンの種類別にレシピは書いてある、酵母はリンゴに干し葡萄あとはさとうきびもどきの三つの作り方を一応書いて置いた。
 この牧場では葡萄酒用の葡萄と加工用、生食用に分け数種類植えているそうで、その他に林檎の木と実は小さいけれど、寒い地域で栽培可能な柑橘類もあるし、杏やビワ、スモモ等の木も植えられている。
 トムさん達がどうやってこれだけの物を管理していたのか、それが疑問だけど、とりあえず料理だ。
 まずは簡単に作れる物ばかり、トマトソースとかホワイトソースとか、それを使った煮込みやスープ。肉を細かく叩き肉団子を作るとか、固くなったパン(今回は焼きたてのパンだけど)でパン粉を作り、肉に小麦粉、卵、パン粉の順で付け多めの油で揚げ焼きにするとか。これは魚でも出来るし茹でて潰した芋を丸めてもいいとかアレンジも教えて、次は卵料理。
 作ったのは固めに茹でた芋とカッテージチーズ入れて焼いたスペイン風オムレツとプレーンオムレツ。そして、卵蒸しパン。
 オムレツには作ったばかりのトマトケチャップを掛けた。
 我ながら旨そうに出来たと思う。ゴクリ。
 あと、無限収納に入れていた茹でたジャガイモをちょっとだけ使って、ジャガイモのニョッキも作った。
 これはトマトソースとホワイトソースの二種類で味見してもらう。あと、クラッカー。これはジャムとカッテージチーズで食べて貰う。朝だしこんなもんかな、皆結構手際は良かった。

「パンとは違う食感ですね。とても柔らかくて甘くて卵の味もして美味しいですね」

 ケントさんがにこやかに話している。顔色が良いな。よしよし。

「食べながらでいいので聞いてください。重要な話があります。あなた方七人ですが、今日からこちらの牧場で雇っていただける事になりました。後で契約については話をしますが、ケントさんとトムさんがこれから5年間あなた方の主人です」
「え。あ、あの皆一緒にですか」
「ええ、皆です」
「わあっ!」

 離ればなれにならずに済んだからなのか、皆嬉しそうだ。

「よろしくお願いしますっ。一生懸命働きます」
「ありがとうございますっ」
「うちはこの通り仕事が多いですが、よろしくお願いしますね」
「はい。仕事が多いのは今までも同じでした。私達頑張って働きます。どうかよろしくお願いしますっ」

 にこやかに、礼を言った後七人は安堵の表情で朝食を食べ始めた。
 昨日まであの中にソニアも居たのにな、これはただの感傷だと分かっていてもなんだか気持ちが落ち込む。
 彼女達と料理を作る間もソニアの話はしなかった。
 同じ村から来ていたとはいえ、仲が良いとは限らないのかもしれない。

「卵が柔らかくて旨いな」

 一口サイズに切って各自の皿に盛り付けた、スペイン風オムレツとプレーンオムレツ、両方を食べ比べた後トムさんが俺の肘をつついて言った。

「いつもはどうやって食べているんですか」
「スープに落とすか、茹でて食べるかマヨネーズだな。家は生みたての卵があるからマヨネーズは毎朝作ってる」

 冷蔵庫が無いからマヨネーズは使う分だけ作るのが、この世界では当たり前みたいだ。
 ちなみに収穫した卵は、小川で目の粗い籠に入れたまま汚れを流していた。井戸水を組んで洗うより楽だからとトムさんが説明してくれた。

「この蒸しパンは不思議なほど柔らかいですね」
「ふくらし粉が入っているので柔らかいんですよ。水分が多いので日保ちしないのが欠点ですが、発酵の必要が無いので思い付いた時にすぐ作ることが出来ます。小さく切ったさつまいもとかかぼちゃを混ぜて作っても美味しいですし、バターをつけて食べると更に美味しいですよ。干し葡萄とか入れてもいいですね」

 卵蒸しパンが気に入ったらしいケントさんに説明する。
 卵が沢山入っているから蒸しパンが卵色になっていて、なんか可愛い。それをもぐもぐ頬張るおじさんというのは、なんだか面白い構図だ。食欲もあるようだし、ケントさん全快だな。良かった。

「ジャム美味しいわー。はじめて食べたわ。町で売ってるのは高いから買ったこと無かったけれど、今度は買おうかな」

 ジェシーはジャムが気に入ったらしい。
 キョーナはジャガイモのニョッキにトマトソースを掛けて、無言で食べている。

「これ果物煮たらなんでもジャムになるのか」
「大抵のものはなりますね。基本は果物の重さと砂糖の重さ同量ですが、すぐに食べるなら砂糖は好みで減らしても大丈夫ですよ」
「同量っ!  贅沢な食べ物なのね。美味しい筈だわ」
「うちは果物も作ってるし、さとうきびもどきもあるし好きなだけ食べられるな」
「あんまり食べすぎると太りますよ。あ、あと甘いもの食べたあとはしっかり口をゆすいで下さいね。虫歯になりますよ」
「えっ」

 あれ?  なんで皆固まったんだ?
 この世界でも虫歯は当然あるし、歯医者が無いから虫歯の酷いのは抜くしかないんだよな。

「そ、そうなの。怖い食べ物なのね」
「虫歯かあ」
「まあ、なに食べてもなるけど、砂糖は特になりやすいって話なだけだよ」
「そうか、気を付ける」

 そうか、虫歯になったら抜くしかないし、抜くにもこの世は麻酔が無いもんな。そりゃ怖いよな。

「歯磨きするのが一番ですが、何かを食べたら口をよくゆすぐのを守れば、虫歯になりにくくなりますから」
「そうなのか。ちゃんとゆすぐ。うん、虫歯は怖い」

 この世界の歯ブラシは、昔の日本で使われていたフサヨウジみたいなものが使われていて歯ブラシと言うのが躊躇われる様なものであれでちゃんと磨けるのかは疑問が残る。
 フサヨウジって、何かの時代劇で登場人物の一人の職業がフサヨウジ職人でなんだそれと思って調べて驚いた覚えがあるんだよな。だって、見た目小さな箒なんだもん。驚くよな。

「そこまで怖がらなくても。虫歯は歯を清潔にしていれば防げますから」

 俺の言葉に青い顔でトムさんがウンウン頷いている。
 本当に虫歯が嫌いらしい。ま、好きな人は居ないか。

「料理は皆出来そうかな」
「習った物は作れるかな、と。ええと、思います」

 ケントさんの問いに一人が答えた。
 あの子名前なんだっけ?  ええと、そうだパンナだ。

「ギルドから戻ったら、別の料理皆で作ります。後は作り方を書いた物はありますから、後はそれを見ながら作ってください。あと、籠の見本も作ったので作れそうかどうか確認して貰えますか」

 籠とか蒸籠は基本的な作り方を知ってる人なら、見本を見ただけで作れるだろう。

「ありがとうございます。ジュンさんには色々お世話になって」
「大したことはしてませんから」

 むしろ卵と牛乳を大量に貰えた俺の方が得した感じだ。
 情けは人のためならずって奴?

「太るとか虫歯とか聞くと怖いけど、やっぱりジャム美味しすぎるわ」
「ジェシー。食いすぎじゃねえのか」
「だって美味しいんだもん。ジュンみたいなお嫁さんが欲しいわー」

 ジェシーが変な事を言い出した。
 婿じゃなく嫁さんなのか、おいおい。

「だってよ。ジュン」
「あー。それは」

 ないな。俺杏以外どうでもいいし。

「ジュンの好みは一緒にパンとか作れる人だよ。刺繍とかも上手なの」
「キョーナ?」
「あはは。それじゃジェシーじゃ無理だな」
「何よお、別にジュンの料理の腕を褒めただけよ。他意はないわよ」

 ジェシーはアルキナのからかいにむっとしている。
 俺はそれを見ながら笑って、でもキョーナの言葉が気になっていた。
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