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 馬を走らせる事十数分、二台の馬車が視界に入ってきた。
 さっきは一台だったと思うけど、どこかで合流したんだろうか?  首を傾げながら近づくと、護衛らしい男が振り返った。

「おーい」

 呑気な声を出し、手を振っている。
 背の高い赤毛の男だ。
 鑑定に詳細を付けて発動させると、冒険者ということが分かった。冒険者クラスはB級で職業は剣士だ。
 この世界はアルファベッドなんて存在しないけど、俺はあのクソ女神のせいで話すのも文字を読み書きするのも地球の俺が理解できる言葉で理解している。所謂自動翻訳ってやつだ。
 例えばさっき狩ったキジもどきも、地球に存在するキジとは少し違うらしいけれど似ているものがキジだからキジもどきと俺の鑑定には出るし、他の人との会話でもそれで通じる。
 だけど、実際には俺はなんて言っているのか分からない。
 冒険者クラスについては、等級を文字で表しているから俺には、AとBとか聞こえるんだろうと理解している。

「Bクラスの冒険者が護衛してたのか」

 でも、なんでそんなレベルが付いてて盗賊に殺られそうだったんだ?  疑問に思いながら馬の歩みを遅くする。

「あれがそうなの?」
「そ。キョーナは俺の後ろにいな、挨拶以外は話さなくていいからな」
「うん」

 小声で話しながら近づくと、向こうの奴らも気がついたのか馬車が止まった。

「結構大所帯だな」

 鑑定をフル稼働させながら近づく、俺の鑑定は相手にばれないから遠慮なく使う。
 二台目の馬車には荷物と盗賊が乗っている様だ。
 一台目には十代の女性が数人とさっきの男、馬車の周辺を歩いている二人は護衛に雇われた冒険者だ。
 手を振っている男以外はCランク、それでもこの辺りの旅の護衛には勿体ないランクの筈だ。

「あんたがさっき助けてくれたって奴か。一人って聞いてたんだけどな。しかしどうして後ろから?  俺達はどこですれ違ったんだ?」

 狩りをしていた方角は、水場へ続く道からは少し外れていた。
 後ろから来たのはわざとだ。
 あ、警戒してるのも鑑定に出るのか。状態に警戒中って出てる。知らなかった。

「途中でこいつと合流できたんだ」

 馬に近づいてくる男に愛想笑いをしながら、馬から降りて説明する。
 キョーナは小柄なせいか十三歳にはとても見えない。相手を油断させるには子供の存在は便利だ。

「へえ。良く会えたな」
「水場からは一応道らしいものが出来てるしな、それで運良く」
「で?」
「でって?  ああ、ついでに食料調達してたんだ。あんた達と行き違いにならなくて良かったよ、無駄になるところだった」

 持っていたキジもどきを冒険者に見せる。
 キジもどきを五羽、自慢していい量だ。

「へえ、あんた魔法使いなんだろ?  それにしては良い腕じゃないか」

魔法で狩った獲物じゃないのは一目で分かるか、当然だろうなあそのつもりで弓を使ったんだし。

「器用貧乏って奴かな。それよりあんたが護衛なのか?」

 さっきの男がのんびり歩いてくるまで、こいつの様子を探る。
 追加の護衛なんか雇われたらプライドが傷付くと考えるタイプだと厄介だけど、それなら断って別行動を取ればいいだけだ。

「そうだ。ああ、礼がまだだったな。さっきはありがとう。あんたのお陰で全滅にならずにすんだよ。俺はアルキナ、よろしくな」
「よろしく。俺はジュン、こっちは妹のキョーナ。大したことはしてないから、礼はいいよ。あいつらが俺に気がつくのが遅かったからなんとかなっただけだ」

 そうじゃなきゃ、さすがに殺してただろう。

「あの人、俺の事を護衛に雇いたいとか言ってたけど、あんた達それでいいのか?」
「仕方ないな、俺達にもちゃんと依頼料は支払ってくれるらしいし。下手打ったのは俺達だからな」
「でも、俺は冒険者でもないし。依頼料の相場も知らないんだよなあ」

 これはどのみちばれる事だから話した方がいいかな。隠さなきゃいけない事が多過ぎて、何を話していいのやらだ。

「どこかの国に雇われてるのか?」
「いや、俺達かなり山奥に住んでてさ、冒険者ギルドさえなかったんだよ。だからこれから冒険者登録するんだけど、保証人とかいるのかな。冒険者ギルドに行けば魔法使いとして冒険者登録して稼げるとは聞いてたんだけど詳しことは知らなくてさ」

 必須ではなかった気がするけど、今回はどうだろう。過去の記憶を探ってもマチマチで判断出来ない。まあ、知ってても知らない振りするんだけどさ。

「いないよりいた方がいいな。なんなら俺がなってもいいし」
「それ、は」
「いやあ、会えて良かった。心配していたんですよ」

 男はにこやかに近づいてきたと思ったら、手もみしそうな勢いで話し始めた。

「私はハイド・バーチャルと申します。先ほどは名乗りもせずに失礼しました。助けて頂いて本当にありがとうございます」
「い、いえ」

 苦手なタイプだと思ってたけど、やっぱり苦手だ。
 こういうまくし立てる様に話す人間とは、相性が良かったことがない。
 鑑定には奴隷商人と出ている。名前は本名だ。賞罰無し。あれ、珍しい称号持ちだ『清貧な魂を持つ男』なんだこれ。
 条件と職業のイメージが結び付かないな。

「俺はジュンです。こっちは妹のキョーナです」
「ジュン様ですね、こちらが妹さんですな。はじめまして」
「はじめまして、キョーナです」

 愛想はいいしモテそうな外見をしているけど、なんか胡散臭い。
 話し方かな、それとも視線かな。

「バーチャルさん、俺は様なんて柄じゃないので」
「ではジュンさんとお呼びしますね。私の事はハイドとお呼びください。それで護衛なんですが」
「でも俺は冒険者でもないし、護衛なんかしたことない。役に立てるか微妙ですよ」
「冒険者ではない」
「はい。田舎というか山奥に住んでたので、ギルドが無かったんです。なので村に着いたら登録する予定です」

 住んでいた村をどこにするかは最初から考えて無かった。
 こいつらが知ってる村だとやっかいだし。
 聞かれたら困るけど、適当に山を越えたずっと先とでも誤魔化すしかない。

「そうですか。ここから村までは二日程、私達はその先の町まで帰るので更に三日程掛かると思います。ギルドを通さないのであれば先程助けて頂いたお礼を含めて一日金貨五枚で如何でしょう。予定の五日を過ぎた場合も同じ金額、取り急ぎ前金として金貨十五枚お渡しします。残りは町に着いてからの精算です。食事もこちらでお出しします」
「安いか高いか護衛の相場が分からないんですが、どうせ俺達も同じ方向に行くんですから、ありがたく稼がせて頂きます」

 昔の俺の記憶だとパン一個が銅貨二枚程度、風呂無し食事無しの宿が銀貨一枚から二枚だったから、一日で金貨五枚稼げるのは大きいだろう。
 護衛の仕事受けたときは幾らぐらいだったかなあ、金貨一枚位だったきもするんだけど、条件にもよるし。金額の交渉が苦手なのは、今も昔も変わらない。なにせ元はバイトもしたことない高校生だったのだ。
 それにしても、アルキナの前で料金を言われるのは微妙だ。

「じゃあ皆に紹介しましょう。こちらにどうぞ」

 キョーナに馬を引かせ隣を歩く。
 ハイドさんとアルキナは俺の前を歩いている、二人を比べて見るとアルキナの背の高さがよく分かる。
 ハイドさんも低い方じゃないけど、アルキナは頭一つ分違う。体もがっしりしているし、鍛えてるんだろうなあ。
 俺の体は死んだ時に戻っている。
 三年鍛えた筋肉は元のひょろひょろ、でも剣は以前の様に使えるという矛盾付、そんな理由で魔法使いの職業にしたけど見た目は体力無しのもやしっこだ。

「ジュン」
「ん、どうした」
「護衛やるの?」
「町までな」

 不安そうなキョーナと手を繋ぎ歩く。
 ゆっくり話を聞いてやれる時間が取れるのは、一体いつになるんだろう。

「あたし剣とか使ったことないよ。試験とかあるのかな、初心者でも平気なの?」
「うーん。アルキナに後で聞いて考えようか」
「うん」

 こっそり鑑定したところ、キョーナの魔力はそう高くない。小さな頃に魔法を習うがなかったんだろう。
 回復魔法程度は使えそうだけど、攻撃は無理だ。
 体が小さいし、筋力もなさそうだから剣も難しいだろう。小振りのナイフで接近戦をさせるのは俺が後ろで見ていられないからやらせたくない。となると弓かなあ。あれなら小さな物から使わせていけばそれなりに使える気がする。ポールテのドワーフならアーチェリー型の弓を作れる奴もいるかもって、俺が作ればいいだけか。

「ジュンさん、こちらへどうぞ。皆、先程我々を助けてくださったジュンさんだ。これから一緒に旅をしてくれる事になった」
「よろしくお願いします。ジュンです」
「妹のキョーナです」

 なんか今回の人生も余計な繋がりに巻き込まれていく気がした。
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