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27(ライアン視点)
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「ピオ、父から何か連絡は」
授業が終わり寮の自室に戻ってすぐ、私は着替えを用意して待っていたピオに聞いた。
音楽の授業の後はリナリアを害する者はいなかった。
それは良き事で、でも自分が気が付いていない者が無かったのかと不安になる瞬間でもある。
「本日は何もございません」
「そうか」
制服を脱ぎピオが差し出す着替えを身に着けながら考える、今日のリナリアはあれから何も問題は無かった。
音楽室に向かう途中の陰口、あれ以外は何も無かったからある意味平和な一日だったと言える。
少なくともリナリアの笑顔に陰りは無かった、そう思う。
「音楽室に向かう途中、わざわざ二年生の女生徒が渡り廊下でリナリアの陰口を言っていたんだ」
「若奥様、の悪口をですか」
ピオは若奥様の後少しの間を開けてから尋ねて来た。
ずっとずっと昔から我が侯爵家に使える家系だった家の出であるピオは、侯爵家に益の無い行いを激しく嫌う傾向がある。
リナリアの存在はピオにとっては悪に近く、内心認めていないのは分かっている。
「そうだよリナリアの陰口というか、悪口。私の大切な妻を侮辱するのはわが侯爵家に唾を吐く行いだと思うんだけど、ピオはどう思う?」
「侯爵家に唾吐く行い等、許せるものではありませんっ!!」
私の着替えに用意した筈のタイを、ピオはギュウギュウと握りしめて皺くちゃにしてしまう。
面白いからそのまま見ているけれど、多分ピオの父親である本家の執事長はこの姿のピオをみたら激怒するだろうと予想する。
「私の可愛いリナリアを貶める事を、リナリアに聞こえる様に言っていたんだ。リナリアが可哀相で」
「リナリア様は、どんな反応をされていたのでしょうか」
「リナリアでは無く、若奥様だよ。ピオ。彼女は健気に聞こえない振りをして耐えていたんだ。私は品が無い行いをするなと控えめな抗議をするだけだったから、リナリアには可哀相な事をしてしまった」
あそこで強く抗議するのは、控えめな性格のリナリアの前でするのは良く無いと判断したからあの程度で収めたけれど本心を言えばあんな陰口を吐く娘は私の視界から永久に消してやりたいという思いはある。
だけどそういう血なまぐさい腹いせは、リナリアが望まないだろうからしないだけだ。
「ライアン様の普通の抗議では若奥様の精神が持たないでしょうから、そこは控えめが正しいかと愚考致します。リナリア様は普通の令嬢でしかありませんから、ライアン様の過剰な思いを受け止められる度量はないかと」
ピオの言葉はある意味私への忠告だ。
配下でしかない男の言葉等、普段の私であれば気にしたりしないが、事がリナリアに関するものだからしっかりとピオの意見を噛みしめる。
リナリアの前では私は穏やかな男を演じているが、正確はそれなりに苛烈だと思う。
侯爵家を継ぐ身なのだから、穏やかなだけでは舐められてしまう。
それだけが理由では無く、元々の性格が苛烈なのだ。
「お前は分かっているだろうけれど、私はそう穏やかな性格はしていない。リナリアを、私の妻を蔑ろにする者を私は許すつもりはないよ」
「それは良く理解しております。若奥様は旦那様と奥様が認め仮婚姻を進めた方ですから、若奥様を蔑ろにする者は侯爵家の敵です」
意外な事に、ピオははっきりとリナリアの敵は侯爵家の敵だと言い切った。
不思議に思いピオの顔を凝視する。
リナリアを認めていなかった筈の人間が、急にどうしたというのだろう。
「ライアン様どうかされましたか」
「いや、お前はリナリアを認めていないのかと思っていたから、驚いたんだ」
私はつい素直な気持ちを吐露してしまう。
ピオにはついつい自分の気持ちを出してしまいがちだけれど、それでもいつもはもう少し隠しているが今は何も隠さずに暴露してしまった。
「そんなことは、いいえ少しは思う所がありますが、でも私はライアン様に仕える従僕です。旦那様と奥様が認めたライアン様の奥様を私ごときが認めないなどありえません。それにリナリア様はライアン様の為に変わろうと努力しておいでです。リナリア様の性格を考えればそれはとても勇気が必要な行いでしょう。それでも努力しようとするリナリア様を私は尊敬しております」
尊敬、それが本当かどうかは分からないけれど。
リナリアの行いがピオの気持ちを変えたのだと、それが分かったから私は素直に嬉しいと思ったんだ。
授業が終わり寮の自室に戻ってすぐ、私は着替えを用意して待っていたピオに聞いた。
音楽の授業の後はリナリアを害する者はいなかった。
それは良き事で、でも自分が気が付いていない者が無かったのかと不安になる瞬間でもある。
「本日は何もございません」
「そうか」
制服を脱ぎピオが差し出す着替えを身に着けながら考える、今日のリナリアはあれから何も問題は無かった。
音楽室に向かう途中の陰口、あれ以外は何も無かったからある意味平和な一日だったと言える。
少なくともリナリアの笑顔に陰りは無かった、そう思う。
「音楽室に向かう途中、わざわざ二年生の女生徒が渡り廊下でリナリアの陰口を言っていたんだ」
「若奥様、の悪口をですか」
ピオは若奥様の後少しの間を開けてから尋ねて来た。
ずっとずっと昔から我が侯爵家に使える家系だった家の出であるピオは、侯爵家に益の無い行いを激しく嫌う傾向がある。
リナリアの存在はピオにとっては悪に近く、内心認めていないのは分かっている。
「そうだよリナリアの陰口というか、悪口。私の大切な妻を侮辱するのはわが侯爵家に唾を吐く行いだと思うんだけど、ピオはどう思う?」
「侯爵家に唾吐く行い等、許せるものではありませんっ!!」
私の着替えに用意した筈のタイを、ピオはギュウギュウと握りしめて皺くちゃにしてしまう。
面白いからそのまま見ているけれど、多分ピオの父親である本家の執事長はこの姿のピオをみたら激怒するだろうと予想する。
「私の可愛いリナリアを貶める事を、リナリアに聞こえる様に言っていたんだ。リナリアが可哀相で」
「リナリア様は、どんな反応をされていたのでしょうか」
「リナリアでは無く、若奥様だよ。ピオ。彼女は健気に聞こえない振りをして耐えていたんだ。私は品が無い行いをするなと控えめな抗議をするだけだったから、リナリアには可哀相な事をしてしまった」
あそこで強く抗議するのは、控えめな性格のリナリアの前でするのは良く無いと判断したからあの程度で収めたけれど本心を言えばあんな陰口を吐く娘は私の視界から永久に消してやりたいという思いはある。
だけどそういう血なまぐさい腹いせは、リナリアが望まないだろうからしないだけだ。
「ライアン様の普通の抗議では若奥様の精神が持たないでしょうから、そこは控えめが正しいかと愚考致します。リナリア様は普通の令嬢でしかありませんから、ライアン様の過剰な思いを受け止められる度量はないかと」
ピオの言葉はある意味私への忠告だ。
配下でしかない男の言葉等、普段の私であれば気にしたりしないが、事がリナリアに関するものだからしっかりとピオの意見を噛みしめる。
リナリアの前では私は穏やかな男を演じているが、正確はそれなりに苛烈だと思う。
侯爵家を継ぐ身なのだから、穏やかなだけでは舐められてしまう。
それだけが理由では無く、元々の性格が苛烈なのだ。
「お前は分かっているだろうけれど、私はそう穏やかな性格はしていない。リナリアを、私の妻を蔑ろにする者を私は許すつもりはないよ」
「それは良く理解しております。若奥様は旦那様と奥様が認め仮婚姻を進めた方ですから、若奥様を蔑ろにする者は侯爵家の敵です」
意外な事に、ピオははっきりとリナリアの敵は侯爵家の敵だと言い切った。
不思議に思いピオの顔を凝視する。
リナリアを認めていなかった筈の人間が、急にどうしたというのだろう。
「ライアン様どうかされましたか」
「いや、お前はリナリアを認めていないのかと思っていたから、驚いたんだ」
私はつい素直な気持ちを吐露してしまう。
ピオにはついつい自分の気持ちを出してしまいがちだけれど、それでもいつもはもう少し隠しているが今は何も隠さずに暴露してしまった。
「そんなことは、いいえ少しは思う所がありますが、でも私はライアン様に仕える従僕です。旦那様と奥様が認めたライアン様の奥様を私ごときが認めないなどありえません。それにリナリア様はライアン様の為に変わろうと努力しておいでです。リナリア様の性格を考えればそれはとても勇気が必要な行いでしょう。それでも努力しようとするリナリア様を私は尊敬しております」
尊敬、それが本当かどうかは分からないけれど。
リナリアの行いがピオの気持ちを変えたのだと、それが分かったから私は素直に嬉しいと思ったんだ。
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