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「リナリアにこんな話をしたら、もっと悲しませてしまうとは思うんだが知って置いた方が良いと思うから話すよ。いいかな」
お義父様が私を気遣いながら話すのを、私はハンカチをぎゅっと握りしめながら見つめていた。
何を聞いても平気だとは言えないし、気を失わない様にしているのが精一杯だけれど話を聞かずに逃げるなんて選択肢は選べる筈が無い。
私が無理だと言えばお義父様はそれを許して下さるだろうけれど、そうしてしまったら私はライアン様の本当の妻にはなれないだろう。
侯爵家を継ぐライアン様の妻が、自分が傷付くのが怖いから話を聞かないなんて、そんな弱い女に未来の侯爵夫人は務まりはしない。
だから、私は逃げては駄目なんだ。
「はい、私は弱い人間ですから動揺してみっともない姿を晒してしまうかもしれませんが、私は真実を知らなければいけないと思います。お義父様どうか教えてください」
「分かった。辛くても決断出来る君を私は誇りに思うよ」
お義父様もお義母様も私を心配そうに見ながら、でも私の決断を受け入れて下さっている。
そう感じたから、私は隣に座るライアン様に視線を向け無理矢理に笑顔を作って頷いた。
「君の両親は、君のお父さんも伯爵家の承諾も無いままに婚約が成立してしまったんだ。だがそれは伯爵家の納得出来るものでは無かった。だから伯爵と君のお父さんは陛下に謁見し抗議を申し立てたんだ」
「貴族の婚約を承認するのが陛下だからですか」
「一応、陛下が承認するという事になってはいるが、実際に陛下が承認するわけじゃない。さっき話たと思うが貴族が婚約や婚姻の申請をするのはそういう手順を踏んで認められたという形を取っているだけで、殆どすべて承認されるものなんだ。君のお父さんが婚約を申請して却下されたのが異例なんだよ」
つまり、それだけお父様の婚約は異例中の異例だったという事だ。
憂鬱な気持ちになりながら、私はお父様とお父様の恋人であるトレーシーさんの気持ちを思う。
その時のお父様は、まさか自分の婚約申請が却下されるとは思っていなかっただろうし、私のお母様であるステファニーが婚約者として承認されるとは思ってもいなかっただろう。
「お父様は望んでもいなかった、お母様との婚約が成立してしまったのですね」
「そうだ。貴族の婚約は家と家が条件を上げて結ぶもの。王命を受けて婚約を結ぶ場合も無いわけじゃないが、その場合でも両家に打診はあるものなんだ」
「それすら無く、婚約が成立してしまったのですね」
「正確には、君のお母さんの実家から伯爵家に婚約の打診があっても、伯爵家は別の家と婚約を結ぶ為の申請をしているからと断っていたんだよ」
格上からの婚約を断るというのは、出来るのかどうか分かりませんがお父様の父親つまり、今は亡き伯爵はお父様の気持ちを考えて断ったお母様との婚約を、無理矢理に結んだという事なのでしょうか。
「格上との婚約は断れるのでしょうか」
「普通は断れるものではないが、すでに君のお父さんとトレーシーの婚約の申請を行っていて、承認を得る段階にきていたから、ほぼ婚約している様なものだった。だからこの場合は断っても問題にはならないんだ。だが、承認が下りなかったんだ」
「それは、お母様の実家の」
「正確には君のお母さんの祖母の妨害だね、妨害により婚約の申請が却下されて伯爵家が申請していない。侯爵家の令嬢と伯爵家の嫡男の婚約が成立してしまったんだ」
「お父様はそれを納得したんでしょうか」
「しなかった。そして陛下に謁見を申し込み、望んでいない婚約が成立してしまった事へ抗議を申し立てたんだ」
「陛下、つまり私の曾祖母のお兄様でいらっしゃる方でしょうか」
私が生まれてから代替わりがあり、今の陛下は曾祖母の兄である前陛下の息子が継がれている。
つまりお母様の従兄弟だ。
「そうだよ、前陛下は君の曾祖母の兄だ。でも前陛下がそれに加担していたわけでは無く、今はすでに亡くなられている君の曾祖母の母である方がそれを行っていたんだよ。むしろ前陛下は婚約についての経緯をしり嘆かれていたんだよ」
「そうでしたか」
前陛下は関わってはいなかったとしても、婚約は成立してしまいお父様は恋人と縁を結ぶことは出来なくなってしまった。
「君のお父さんとお爺さんである前伯爵はね、陛下に謁見し抗議した。希望していないどころか話を断ったというのにいつの間にか婚約が承認されている。これはおかしいとね」
「それはそうですね。申請していないのに承認されしまうというのが正当化されてしまったら、どんな申請も成り立ってしまうという事ですから」
「そうだよ。でも、その婚約を陛下ですら却下出来なかった。一度成立した婚約を、伯爵家では認めないと言い張っていると知った君のお母さんが知り、自殺未遂を起こしたからね」
「自殺未遂」
「そうだよ。君のお母さんは元王女殿下である君の曾祖母が目に入れても痛くないと言わんばかりに可愛がっていた人だった。そして、前陛下は妹である元王女殿下をとても可愛がっていたんだ。だから元王女殿下がどうしても幸せにしたいという望みを無視できなかったんだよ」
「そんな、でもそんな勝手な事」
そんな勝手な事が通ってしまうなら、正義何てどこにも無くなってしまう。
貴族にとって、王家の、陛下の決定は叶えて当然ではあるけれど、それは陛下が間違いを犯さないという前提があるからだ。
こんな、こんな理不尽な話納得出来るわけがない。
「あの時陛下はこう仰ったそうだ。ステファニーは妻になりたいと望んでいる。だからそれを叶えるべきだとね」
「ですが」
「その陛下の言に、伯爵はこう答えたそうだ。妻に、それは陛下の決定であれば認めましょう。ですが息子が望む幸せは別のところにあるのですから、妻となる方へ気持ちは一切向けはしない、彼女が産んだ子供を跡継ぎにはしない。それでいいのであれば我がバーレー伯爵家はステファニー嬢を息子の妻に迎えましょうとね」
気持ちは一切向けない、そして子供を跡継ぎにはしない。
伯爵、つまりおじい様です。
おじい様は、お母様へ気持ちは向けず産んだ子供を跡継ぎにはしないと言ったのです。つまりお母様を実際にはお父様の妻とは認めないと言っているのと同じなのです。
お義父様が私を気遣いながら話すのを、私はハンカチをぎゅっと握りしめながら見つめていた。
何を聞いても平気だとは言えないし、気を失わない様にしているのが精一杯だけれど話を聞かずに逃げるなんて選択肢は選べる筈が無い。
私が無理だと言えばお義父様はそれを許して下さるだろうけれど、そうしてしまったら私はライアン様の本当の妻にはなれないだろう。
侯爵家を継ぐライアン様の妻が、自分が傷付くのが怖いから話を聞かないなんて、そんな弱い女に未来の侯爵夫人は務まりはしない。
だから、私は逃げては駄目なんだ。
「はい、私は弱い人間ですから動揺してみっともない姿を晒してしまうかもしれませんが、私は真実を知らなければいけないと思います。お義父様どうか教えてください」
「分かった。辛くても決断出来る君を私は誇りに思うよ」
お義父様もお義母様も私を心配そうに見ながら、でも私の決断を受け入れて下さっている。
そう感じたから、私は隣に座るライアン様に視線を向け無理矢理に笑顔を作って頷いた。
「君の両親は、君のお父さんも伯爵家の承諾も無いままに婚約が成立してしまったんだ。だがそれは伯爵家の納得出来るものでは無かった。だから伯爵と君のお父さんは陛下に謁見し抗議を申し立てたんだ」
「貴族の婚約を承認するのが陛下だからですか」
「一応、陛下が承認するという事になってはいるが、実際に陛下が承認するわけじゃない。さっき話たと思うが貴族が婚約や婚姻の申請をするのはそういう手順を踏んで認められたという形を取っているだけで、殆どすべて承認されるものなんだ。君のお父さんが婚約を申請して却下されたのが異例なんだよ」
つまり、それだけお父様の婚約は異例中の異例だったという事だ。
憂鬱な気持ちになりながら、私はお父様とお父様の恋人であるトレーシーさんの気持ちを思う。
その時のお父様は、まさか自分の婚約申請が却下されるとは思っていなかっただろうし、私のお母様であるステファニーが婚約者として承認されるとは思ってもいなかっただろう。
「お父様は望んでもいなかった、お母様との婚約が成立してしまったのですね」
「そうだ。貴族の婚約は家と家が条件を上げて結ぶもの。王命を受けて婚約を結ぶ場合も無いわけじゃないが、その場合でも両家に打診はあるものなんだ」
「それすら無く、婚約が成立してしまったのですね」
「正確には、君のお母さんの実家から伯爵家に婚約の打診があっても、伯爵家は別の家と婚約を結ぶ為の申請をしているからと断っていたんだよ」
格上からの婚約を断るというのは、出来るのかどうか分かりませんがお父様の父親つまり、今は亡き伯爵はお父様の気持ちを考えて断ったお母様との婚約を、無理矢理に結んだという事なのでしょうか。
「格上との婚約は断れるのでしょうか」
「普通は断れるものではないが、すでに君のお父さんとトレーシーの婚約の申請を行っていて、承認を得る段階にきていたから、ほぼ婚約している様なものだった。だからこの場合は断っても問題にはならないんだ。だが、承認が下りなかったんだ」
「それは、お母様の実家の」
「正確には君のお母さんの祖母の妨害だね、妨害により婚約の申請が却下されて伯爵家が申請していない。侯爵家の令嬢と伯爵家の嫡男の婚約が成立してしまったんだ」
「お父様はそれを納得したんでしょうか」
「しなかった。そして陛下に謁見を申し込み、望んでいない婚約が成立してしまった事へ抗議を申し立てたんだ」
「陛下、つまり私の曾祖母のお兄様でいらっしゃる方でしょうか」
私が生まれてから代替わりがあり、今の陛下は曾祖母の兄である前陛下の息子が継がれている。
つまりお母様の従兄弟だ。
「そうだよ、前陛下は君の曾祖母の兄だ。でも前陛下がそれに加担していたわけでは無く、今はすでに亡くなられている君の曾祖母の母である方がそれを行っていたんだよ。むしろ前陛下は婚約についての経緯をしり嘆かれていたんだよ」
「そうでしたか」
前陛下は関わってはいなかったとしても、婚約は成立してしまいお父様は恋人と縁を結ぶことは出来なくなってしまった。
「君のお父さんとお爺さんである前伯爵はね、陛下に謁見し抗議した。希望していないどころか話を断ったというのにいつの間にか婚約が承認されている。これはおかしいとね」
「それはそうですね。申請していないのに承認されしまうというのが正当化されてしまったら、どんな申請も成り立ってしまうという事ですから」
「そうだよ。でも、その婚約を陛下ですら却下出来なかった。一度成立した婚約を、伯爵家では認めないと言い張っていると知った君のお母さんが知り、自殺未遂を起こしたからね」
「自殺未遂」
「そうだよ。君のお母さんは元王女殿下である君の曾祖母が目に入れても痛くないと言わんばかりに可愛がっていた人だった。そして、前陛下は妹である元王女殿下をとても可愛がっていたんだ。だから元王女殿下がどうしても幸せにしたいという望みを無視できなかったんだよ」
「そんな、でもそんな勝手な事」
そんな勝手な事が通ってしまうなら、正義何てどこにも無くなってしまう。
貴族にとって、王家の、陛下の決定は叶えて当然ではあるけれど、それは陛下が間違いを犯さないという前提があるからだ。
こんな、こんな理不尽な話納得出来るわけがない。
「あの時陛下はこう仰ったそうだ。ステファニーは妻になりたいと望んでいる。だからそれを叶えるべきだとね」
「ですが」
「その陛下の言に、伯爵はこう答えたそうだ。妻に、それは陛下の決定であれば認めましょう。ですが息子が望む幸せは別のところにあるのですから、妻となる方へ気持ちは一切向けはしない、彼女が産んだ子供を跡継ぎにはしない。それでいいのであれば我がバーレー伯爵家はステファニー嬢を息子の妻に迎えましょうとね」
気持ちは一切向けない、そして子供を跡継ぎにはしない。
伯爵、つまりおじい様です。
おじい様は、お母様へ気持ちは向けず産んだ子供を跡継ぎにはしないと言ったのです。つまりお母様を実際にはお父様の妻とは認めないと言っているのと同じなのです。
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