綺麗になる為の呪文

木嶋うめ香

文字の大きさ
上 下
13 / 33

13(ライアン視点)

しおりを挟む
「リナリアちゃん、入学おめでとう。制服とても似合っているわ。髪留めも品があって素敵ね」
「本当に良く似合っているね。絵師を呼んで二人を描いて欲しい位だ。入学おめでとう」

 入寮後は特に問題なく日々が過ぎて、あっという間に入学式当日となった。
 学校の式典用の建物は、校舎とは別棟になっていて生徒全員と保護者が入ってもまだまだ余裕がある程に広い。
 緊張するリナリアと共に席に付き、式を終えた私達に両親が声を掛けてきた。
 手紙でリナリアの前髪の件を知らせていたからか、二人は驚いた様子もなく、機嫌良さげにリナリアを褒めている。

「ありがとうございます。お義父様、お義母様。この髪留めはライアン様が贈ってくださったものです。とても気に入っていますので、褒めて頂けて嬉しいです」

 今日は入学式だけで、実際に組に集まるのは明日からなせいか、そこかしこで生徒と保護者らしい者達が立ち止まり話している。
 ここはつまり、入学式という名の社交場なのだ。

「そう、ライアンとても良いものを選んだわ。リナリアちゃんにとても似合っているし、これなら学業の妨げにもならないでしょう」

 母は装飾品の選び方にとてもこだわりがある。
 侯爵夫人としては当たり前なのかもしれないが、だからこそリナリアに地味なドレスを押し付ける彼女の母に不満があるようだった。

「ありがとうございます。母上にそう言われると自信がつきます」
「ふふ。リナリアちゃん。寮生活はもう慣れたかしら、何か困ったことがあればいつでも私を頼ってね。勿論ライアンには困ったことが無くても甘えていいのよ。あなたはライアンの大切な婚約者なのですからね」

 リナリアの手を握りながら母がにこやかに話しているのは、他の家に私の婚約者と上手くいっているのを見せつける目的もあるのだろう。
 元々両親はリナリアに優しいし、リナリアも両親に親しみを感じているから嘘ではないが、少し母の姿は大袈裟に見える。
 
「ありがとうございます。お義母様、寮生活は不安もありましたが、ライアン様が居てくださるのでとても心強いです」
「そう、良かったわ。あら、あそこにいるのは私の従姉妹だわ。丁度いいわリナリアちゃんを紹介しましょう。彼女の娘も二人と同じ組ですからね。あなた、私達彼女に挨拶に行ってきますね」
「ああ、会うのは久し振りだろうゆっくり話しておいで」

 まるで元からそうするつもりだったとばかりに、母はリナリアを連れておば上のところへと歩いていく。
 母が向かう先は仲の良い従姉妹で、又従姉妹は弟と婚約しているから、彼女がリナリアと親しくなってくれたのはありがたい。

「ライアン、彼女の両親だが」
「父親は来ていましたが、すでに帰ってしまったようですね」

 殆どの家は両親揃って入学式に来ていたけれど、リナリアの家は父親だけだった。
 しかもリナリアに声も掛けずに帰ってしまっていた。
 両親が揃って来るのは、親を介して子供同士の繋がりを作る為だというのに、それ助ける役割もせず帰ってしまうなんて親子仲が悪いと公言しているのと同じだ。

「そうだな。あれが精一杯の譲歩なんだろうが、リナリアに罪はないというのに困ったものだ」

 声を潜め言う、譲歩の言葉に内心首を傾げる。
 愛人とその娘だけを大切にしているように見えるし、結婚していてそれは不実だろうと思うのに、どうして譲歩なんて言葉が出てくるのか分からない。

「これに詳細が書いてある。落としたりしないように」
「……ありがとうございます」
「手紙に書くには限界がある。週末外泊届けを出して二人で来なさい」
「二人で? リナリアもですか」
「ああ、リナリアの保護者は私になったから」

 先程の譲歩以上に理解出来ない言葉を聞いて、馬鹿みたいに口を開いて父を見つめてしまう。

 今、なんて言った?
 保護者になった?

「それは。まさか」
「仮だが、婚姻手続きをした。リナリアはもう我がムーディ侯爵家の一員だ。学校にもそう届けてある」
「何故そんな」
「彼女を守る為。談話室を借りている、この件についてリナリアにも話すが、手続きはお前の希望だと伝える」
「え、私ですか?」

 仮の婚姻手続きは、結婚年齢に達していない者達が結婚を急がなければいけない理由がある場合に行う制度だ。
 他国ではあり得ない制度らしいが、この国では年に十数件程度は行われているから珍しいものではない。
 婚約と違い、仮でも既婚扱いになるから、もし関係を解消する場合は離縁手続きが必要になる。
 結婚年齢に達したら、正式に婚姻届けを出しお披露目をする。

「リナリアの母親が婚約解消しようと動いていてね、それを阻止する為なんだ。仮とはいえ受理されればもう彼女母親やその実家が何を言い出そうが強制出来ないからね」
「何故そんなことに」
「解消は嫌だろ? だからお前は仮の手続きを希望して無事に受理されたから、リナリアに報告するんだ」

 わけが分からない。
 リナリアの母親は何を考えているんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄するんだったら、その代わりに復讐してもいいですか?

tartan321
恋愛
ちょっとした腹いせに、復讐しちゃおうかな? 「パミーナ!君との婚約を破棄する!」 あなたに捧げた愛と時間とお金……ああっ、もう許せない!私、あなたに復讐したいです!あなたの秘密、結構知っているんですよ?ばらしたら、国が崩壊しちゃうかな? 隣国に行ったら、そこには新たな婚約者の姫様がいた。さあ、次はどうしようか?

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

婚約者を取り替えて欲しいと妹に言われました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ポーレット伯爵家の一人娘レティシア。レティシアの母が亡くなってすぐに父は後妻と娘ヘザーを屋敷に迎え入れた。 将来伯爵家を継ぐことになっているレティシアに、縁談が持ち上がる。相手は伯爵家の次男ジョナス。美しい青年ジョナスは顔合わせの日にヘザーを見て顔を赤くする。 レティシアとジョナスの縁談は一旦まとまったが、男爵との縁談を嫌がったヘザーのため義母が婚約者の交換を提案する……。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

前世は大聖女でした。今世では普通の令嬢として泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!

月(ユエ)/久瀬まりか
ファンタジー
伯爵令嬢アイリス・ホールデンには前世の記憶があった。ロラン王国伝説の大聖女、アデリンだった記憶が。三歳の時にそれを思い出して以来、聖女のオーラを消して生きることに全力を注いでいた。だって、聖女だとバレたら恋も出来ない一生を再び送ることになるんだもの! 一目惚れしたエドガーと婚約を取り付け、あとは来年結婚式を挙げるだけ。そんな時、魔物討伐に出発するエドガーに加護を与えたことから聖女だということがバレてしまい、、、。 今度こそキスから先を知りたいアイリスの願いは叶うのだろうか? ※第14回ファンタジー大賞エントリー中。投票、よろしくお願いいたします!!

もう愛は冷めているのですが?

希猫 ゆうみ
恋愛
「真実の愛を見つけたから駆け落ちするよ。さよなら」 伯爵令嬢エスターは結婚式当日、婚約者のルシアンに無残にも捨てられてしまう。 3年後。 父を亡くしたエスターは令嬢ながらウィンダム伯領の領地経営を任されていた。 ある日、金髪碧眼の美形司祭マクミランがエスターを訪ねてきて言った。 「ルシアン・アトウッドの居場所を教えてください」 「え……?」 国王の命令によりエスターの元婚約者を探しているとのこと。 忘れたはずの愛しさに突き動かされ、マクミラン司祭と共にルシアンを探すエスター。 しかしルシアンとの再会で心優しいエスターの愛はついに冷め切り、完全に凍り付く。 「助けてくれエスター!僕を愛しているから探してくれたんだろう!?」 「いいえ。あなたへの愛はもう冷めています」 やがて悲しみはエスターを真実の愛へと導いていく……  ◇ ◇ ◇ 完結いたしました!ありがとうございました! 誤字報告のご協力にも心から感謝申し上げます。

悪役令嬢、冤罪で一度命を落とすも今度はモフモフと一緒に幸せをつかむ

Blue
恋愛
 作り上げられた偽りの罪で国外追放をされてしまったエリーザ・オリヴィエーロ侯爵令嬢。しかも隣国に向かっている途中、無残にも盗賊たちの手によって儚くなってしまう。  しかし、次に目覚めるとそこは、婚約者であった第二王子と初めて会うお茶会の日に戻っていたのだった。  夢の中で会ったモフモフたちを探して、せっかく戻った命。今回は、モフモフと幸せになるために頑張るのだった。 『小説家になろう』の方にも別名ですが出させて頂いております。

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

処理中です...